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第199話 ユウキ勝負に向けて特訓す!

 エヴァリーナに大会に出場すると約束した翌日、ユウキは訓練のため指定された場所に来ていた。


「ここは屋内訓練場?」

「ユウキ様、よく来てくれました」


「あ、エヴァリーナ様。ここで何を?」


「はい、ユウキ様には何としても勝っていただきます。つきましては、宰相家の兵団から腕利きを何人か連れてきていますので、この方たちとこれから毎日、訓練をしてください。大会までこの施設は全館借り上げていますから存分に訓練できますよ」


 ユウキがエヴァリーナの背後に控える兵士を見る。人数は10人、男性8人、女性2人だ。誰もががっしりとした体格で、筋骨隆々。人間だけでなく獣人も含まれている。眼光鋭いその迫力に、ユウキは思わずビビってしまう。


「あの~、エヴァリーナ様、この方たち、わたしよりずっと強そうですけど…」

「貴女は昨日「自分を信じて下さい」とおっしゃいました。泣き言は許しません。さあ、準備してください。あ、ひとつ言っておきますが帝国軍兵士は常に実戦訓練です。武器は本物でお願いします」


「え…、はい。頑張ります…」


 訓練着に着替え、鉄製の槍を持ったユウキが訓練場に入って来る。さすがにゲイボルグを訓練で使うことは出来ないので、マッサリアの武器店で購入して来た一般的な鉄のスピアだ。長さは2m程度。腰には鞘に収めたミスリルダガーを括り付けている。


「さあ、訓練を始めます。最初は魔法の使用は禁止、自分の腕前だけで戦って下さい!」


 エヴァリーナが右手をサッと上げて訓練の始まりを告げた。1人目は人間の兵士。ユウキより一回り大きく、腕の太さはユウキの胴位もある。兵士は戦斧バトルアックスを構えて近づいてくる。


 ユウキは槍を構え、兵士に対峙する。一瞬でふにゃふにゃした女の子の顔から戦士の顔になったユウキを見て、エヴァリーナは驚いた。


(一瞬で雰囲気が変わった…。ユウキ様って、一体、何者なのかしら)


 戦斧を振り上げて飛び掛かって来た兵士の動きを冷静に見たユウキは、スピアを足元目掛けて素早く払い、踝辺りを強く打った。鍛えることのできない部分を打たれた兵士は余りの衝撃と痛みにバランスを崩し、胴ががら空きになる。ユウキは、その隙を逃さず、鳩尾みぞおち部分に槍の石突を打ち込んだ。

 鳩尾を打たれた兵士は息が詰まり、床に転がってのたうち回る。それを見て次は獣人の兵士がユウキの前に来た。兵士は虎の様な顔をしている。きっと、人虎ワータイガーという種族なのだろう力が強そうだ。両手持ちの大剣、ツヴァイヘンダーを持っている。


 人虎の兵士がその巨体に似合わず、素早い動きでユウキに近付き剣を振り下ろしてきた。ユウキはスピアの柄で攻撃を抑えると、パワーで押し込まれる前にスピアを斜めにして剣を滑らせると、人虎の兵士を横に流し、その背中にスピアの一撃を与え、床に叩きつけた。


「ふふっ、激流を制するは静水ってね!」


(強い…。この兵士たちは、宰相家でも屈指の腕利きなんですよ。それを一蹴するなんて…、これならフランに勝てるかも…)


「はあ、はあ、はあ…、もうダメ…、もう動けない…」


 10人の兵士と訓練したユウキも、流石に体力を使い果たし、ばったりと床に倒れた。最初は兵士を圧倒したユウキも8人目、9人目となると体力が削られ、動きが鈍くなったところを責められて打たれることが多くなったが、何とか10人と戦い切り、全員を床に転がせた。よって、今、訓練場で立っている者はエヴァリーナだけとなっている。


 床に寝転がるユウキにエヴァリーナが近づき、上から顔を覗き込む。ユウキが見るとエヴァリーナの顔は満足そうに笑っていた。


「ユウキ様ってお強いですのね。それに、不思議なお方です。女の子らしくて、とても武器を持って戦うようには見えないのに、武器を構えた瞬間、別人のようになって戦う。貴女ならきっとフランを倒して優勝できると信じます」


「大会まで頑張って訓練しましょう。それに、連れて来た兵士にもいい勉強になると思います。団の訓練だけでは得られない何かをね」


「エヴァリーナ様…」

「ふふっ、私たちいいお友達になれそうです」


「エヴァリーナ様って、結構エロチックな下着を穿いてますね。わたしと気が合いそうです」


 ユウキの一言で、床に転がっている男性兵士たちの耳がピクリと動き、ゴロゴロとエヴァリーナの足元に転がって来た。


「きゃあ、どこ見てるんです! やだ、あなたたち、スカートの中を覗かないでください!いやあああーーー!」


 訓練場の中にエヴァリーナの悲鳴が響き渡った。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 今日も今日とで、ユウキはエヴァリーナが借り上げた屋内訓練所で、日々、帝国兵士と実戦的訓練をしている。今日も、10人の兵士と訓練し、兵士共々床に倒れ込んでいた。


 寝転んでいるユウキの息は荒く、はあはあと呼吸をする度に豊かな胸の小山が上下し、兵士たちの視線を集めている。最近は兵士たちも床に倒れる時はユウキの近くにわざわざ倒れ、小山の鑑賞会を行うようになっていた。

 その様子を見たエヴァリーナは呆れ果ててしまう。


「もう! 貴方たちは何を考えているんです! ユウキ様に勝てないだけでなく、そんな、イヤらしい視線を向けて。それでも宰相家に仕える帝国兵士ですか!」


「でもお嬢様、それは無理っていうもんです。ユウキ殿の胸は悪魔的ですぜ。武器を合わせる度に上下左右にプルンプルンと揺れて、もうそれだけで、うへへへへ…」

 1人の兵士がそう言い、他の兵士もうんうんと頷く。


「ヤ、ヤダ…」


 ユウキが心底怯えたような声を出し、サッと立ち上がってエヴァリーナの後ろに隠れる。エヴァリーナは「はあ…」とため息をつき、2人の女性兵士は床に転がっている男性兵士たちに「このドスケベ!」と言いながら、ガシガシと蹴りを入れている。

 ちなみに2人の女性兵士のバストサイズは平均的かやや下で、この部分でもユウキの勝利だ。


「はあ、どうしようもありませんね…。さあ、続きを始めますよ。ユウキ様には絶対優勝していただかなければならないんです。貴方たち立ってください。ユウキ様、もう一度総当たり訓練を始めましょう」


「う、うん…(兵士さん達、血走らせた目で胸を見て来るよぉ、やだな~)」


 再びユウキと兵士たちが実戦さながらの訓練を始める。ユウキのスピアと兵士の武器がぶつかり合う度に火花が飛び散り、凄まじい剣戟の音が響き渡る。パワーで劣るユウキはスピードと技の連携で対抗する。遠心力を使ったスピアの一撃で腹部を強かに打たれた兵士はユウキの胸を下から覗き込むように倒れ、スピアを振り上げたユウキの揺れる胸をガン見する兵士は頭に強烈な打撃を喰らう。しかし、顔は幸せそうだ。


「エヴァリーナ様! 兵士さんたち、わたしのおっぱいしか見てないんですけどぉ、帝国兵士ってこんなのばっかり何ですか? もう!」


 ユウキの抗議に頭に来たエヴァリーナは訓練の中止を宣言した。


「今日はお終いです! 貴方たちの事、お父様に報告しますからね!」


「お嬢様! 漢とは巨乳が大好きな生き物なんです! 我々は巨乳を愛するという信念を曲げる訳に行きません! が、宰相様に報告するのだけは勘弁していただきたい!」


 あまりの堂々とした物言いにエヴァリーナは心底がっかりしてしまう。人選を間違ったと後悔するが、後の祭りだった。


 このやり取りに呆れたユウキが更衣室で着替え(一緒に着替えた女性兵士に謝られてしまった)、訓練場の玄関から外に出るとエヴァリーナが待っていた。


「ユウキ様、今日はもう遅いですわ。私と夕食を共にしませんか?」

「え、いいんですか? やった! もうお腹ペコペコなんですよ」

「うふふ、さあ、行きましょう。ユウキ様の事、色々聞かせて下さいね」


 エヴァリーナと一緒に摂った食事はとても豪華かつ美味しく、さすが超一流ホテルと唸らせるものだった。訓練でお腹が空いていたユウキは、とにかく、目一杯がつがつと食べる。その姿はとても女の子らしくない。しかし、エヴァリーナはそんなユウキを微笑ましく見ている。


「ユウキ様って健啖家ですのね。私は食が細くて…、羨ましいですわ」

「それって、わたしが食い意地が張っているっていうことですよね…。うう、恥ずかしい」


「うふふ、そんな事ないですよ。そうだ! 今晩、お泊まりになりませんこと? ベッドも2つありますし、色々とお話もしたい…。いいでしょう?」

「えと、そこまで甘える訳には、うっ…、わ、わかりました。お言葉に甘えます…」


 ユウキが断ろうとしたら、エヴァリーナが悲しそうな表情をしたので、思わず承諾するのであった。


(エヴァリーナ様って、寂しがりやさんなのかな…?)


 そして、ユウキはお風呂をいただいた後、1人ベランダに出て夜空を眺めていた。交代でエヴァリーナがお風呂に入っている。


「寝間着を貸してもらったけど、スケスケのネグリジェとは…凄くエロいよこれ。私が着るとおっぱいバインバインで痴女っぽい…」


(……優季からユウキになって8年か。考え方も、意識も、行動も身体もすっかり女の子になったな…。もう、男の子だった頃の意識は思い出せなくなった。でも、いいんだ。今はこの姿が気に入ってる。女の子って可愛くていいよね…)


 ユウキはふと夜空を見上げる。無数の星々が白く輝いて大きな川のように流れている。


「わあ、凄い天の川…凄く綺麗…。天の川が見えるってことは、このイシュトアールも銀河系の一部なのかな? それとも別の銀河なのかな? この星々の中に太陽系も、地球もあるのかな、あるといいな…」


「あ、あの星、凄く明るい。きっとマヤさんだ。その近くの赤と黄色の星は助さん、格さん。あそこの赤くて大きい星はララかな? 天の川から離れた孤独な白い星はオヤジさんだ。1人で格好つけてるように見えるもんね。あははは」


「うふふ…。ぐすっ、みんな心配しないで、わたし頑張るよ…。みんなから助けてもらったこの命、大切に使わせてもらうね…。だから、見守ってて…」


(ユウキ様、泣いている? 過去に何かあったのでしょうか、何て悲しそうな背中…)


 ベランダで星空を見上げるユウキを見つけたエヴァリーナは、近寄ろうとしたが、ユウキの独り言と寂しそうな背中を見て、一瞬声を掛けるのをためらったが、思い切って声をかける。


「ユウキ様……」

「あ、エヴァリーナ様、お風呂から上がったんですね。あはは、なんか星空を見てたら感傷的になっちゃって…」


 エヴァリーナもベランダに出てきて、ユウキと並んで星空を見上げる。


(そう言えば、星空を見上げるなんて何年ぶりかしら…。最後に見上げたのはお兄様と一緒に日が暮れるまで遊んだ時だったかな…。あの頃は、お兄様とてもお優しかった…)


 エヴァリーナは幼い頃の記憶を思い出し、懐かしい気持ちになった。


「綺麗な星空ですね。こうやって星を見るのは久し振りです。小さい頃はお兄様と日が暮れるまで遊んで、星空を見上げて色々とお話したものです。いつからかしら、お兄様と離れてしまったのは…」


「この前、お話しましたよね。私、魔族の血を引いてるって。この血のせいで学校でも避けられて、イジメられていつも泣いてました。お兄様はそんな私を庇ってくれて、遊び相手になってくれた…。私、お兄様が大好きでした」


「エヴァリーナ様…」


「私たち兄妹が年頃になると、必然的に跡取りの話が出てきます。家臣の中ではお兄様より私を押す声が多くなって、そのうち、お兄様は私を敵視するようになりました」


「どうして、エヴァリーナ様が優勢になったのですか?」


「私が魔族の血を引くからです。帝国と魔族の国ラファールを繋ぐための道具…。魔族の血を引くものが帝国宰相の地位にあれば、今後の外交へのメリットが大きくなる。ただ、それだけの理由です…」


「お兄様は、それから私を恨むようになってしまったんです。自分の名声を高めて、本当に宰相に相応しいのは誰か家臣に認めさせようと、フランを見出し、大陸最強戦士決定戦に参加しているんです。3年連続優勝すれば「マスターガーディアン」の称号が得られる。過去、誰も得たことがない称号を手にし、私を蹴落とそうとしているんです」


「バカげてる…」


「ほんと…バカげてますよね。自分自身の努力を見せないで他人の力で得た称号なんて、役に立つものですか…。私は宰相の地位なんて欲しくないし、相応しくもない」


「私は、昔の様な優しいお兄様に戻ってほしい。自分の力で宰相の地位を手に入れてほしい。また、お兄様と一緒に仲良くしたい…」


「だから、大陸最強戦士決定戦でフランに勝つ者を探し、優勝の夢を打ち砕いて目を覚まさせたい。そういう事ですね」


 コクンと頷くエヴァリーナの両手を握ったユウキは、ニコッと笑って今は亡き姉の話をする。


「兄妹は仲良くしなくちゃいけません。仲違いしたままでは辛すぎます。それに、もし、そのまま永遠に別れることになったら後悔しか残らない…。そうなったら悲しいです」


「ユウキ様?」


「私は8年前に姉を亡くしました。とても大好きだった姉を。そして、最近も姉の様な存在の女性を亡くした…。失なった時に初めて、その人の存在の大きさがわかります。しかし、それがわかった時にはもう遅いんです。わたし、エヴァリーナ様の気持ちに応えます。兄妹仲良くですよ。なんか、やる気が出て来た」


「それに、あのフランて女、私の胸を見て「そんな重い物付けて戦えるの~」みたいな視線向けて来やがったんですよ。むかつく! わたしの自慢の巨乳で、あのペチャパイ女を叩きのめしてやるんだから!」


「あの、巨乳とかペチャパイは私の話に全然関係ないのでは…? いい話の流れが台無しになったような気が…」


 エヴァリーナの呆れたような顔に、ユウキは「てへっ」と舌を出し、お互い顔を見合わせて笑い合うのであった。


(エヴァリーナ様の期待に応えるためにも、全力を尽くす! しかし、わたしの幸せ探しの旅に全く関係ないイベントだよね、これ…)

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