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第197話 テンプレ的展開

 斡旋所の中で睨みあう3人のガタイのいい冒険者と1人の巨乳美少女。ユウキは冒険者たちを見る。1人は身長2mはありそうな、狼の様な精悍な顔をした獣人の男で全身が青い毛に覆われ、胸板が厚く、いかにも戦士という風体。背中に1.5mはありそうな大剣を背負っている。もう1人は人間の男性で小型の弓ショートボウとショートソードを装備している。ユウキを見てにやけている顔がとてもスケベっぽく見える。

 最後は獣人の女性で、猫耳を生やした野性的な美人で、長い尻尾はあるが人間に近い姿形をしている。胸はBカップ位と控えめなスレンダー体形。腰に2本の短剣を帯剣し、いかにも俊敏そうだ。


 一方、ユウキの格好は、桜色の可愛いブラウスに、パステルグレーのチェック柄のミニプリーツスカートにエンジのエナメル靴。髪には可愛い髪飾りと赤いリボン。おまけに花柄の可愛いリュックを持っていて、どう見ても場違い感が半端ない。


(確かに、冒険者斡旋所には似合わない違和感バリバリの装いだわ。ここは下手に出てトラブルを回避しつつ、ここから去るのが正解…)


 ユウキは作戦を決め、よいしょっと立ち上がって、パンパンとスカートの汚れを払うと冒険者たちに向かってニコッと笑った。


「わたし、旅をしていて、どうしても身分証が必要になって、こちらで冒険者登録をさせてもらったの。この格好が気にさわったなら謝るね。ごめんなさい」

「じゃあ、わたし帰るから…」


 ユウキはペコリと可愛らしく頭を下げると、そそくさと冒険者たちの脇を通って外に出ようとするが、その前にスケベそうな顔をした男(以降、「スケベ男」)が立ちはだかり、通せんぼする。


「ネーちゃん娼婦か街娼だろ。どうだ、今からオレと楽しまねえか? 金は払うぞ」


(むっか! わたしのどこが娼婦に見えるってのよ! どう見ても市井のハイスペック美少女じゃないのよ。あったまきた!)


 ユウキが厳しい目つきでスケベ男を睨むが、男はイヤらしい笑いを浮かべてユウキの胸に手を伸ばしてきた。ユウキは左手で胸を庇うと、右手で思いっきりスケベ男の顔に平手打ちをかました!


「バッシーン!」と景気のいい音が斡旋所内に鳴り響き、スケベ男は吹き飛び、テーブルとイスを巻き込んで床に叩きつけられた。思いがけないユウキのパワーに斡旋所内にいた者たちは呆気にとられる。おまけに、本を読んでいた神官服の少女もテーブルの転倒に巻き込まれて転がっていた。


「て、てめえ…。こっちが優しくしてれば付け上がりやがって…、ぶっ殺してやる!」


 スケベ男は顔を真っ赤にして、怒りをあらわにし、ショートソードを抜く。それを見た斡旋所のオヤジが大声で怒鳴りつけて来た。


「お前ら! 剣を持って店の中で暴れるな! 外でやれ、外で!」

「ちっ…。おい! おっぱい女、表出ろ!」

「いいけど…、今度はおっぱい女って…。酷いよ、悲しくなるよ、もう…」


 斡旋所の外に出た冒険者たちとユウキ。女の子に剣を向けるスケベ男に、道行く人々が「なんだなんだ」と集まって来る。むろん、斡旋所のオヤジとアリッサも出てきて、事の成り行きを見ている。


 スケベ男はニヤリと笑うと「ひん剥いて素っ裸にしてやる!」といって飛び掛かって来た。意外なスピードにユウキは驚きながらも体捌きで躱すが、スケベ男は、地面を蹴って素早く反転すると、ショートソードを横に持って、素早く斬りつけて来る。ユウキは冷静に動きを見て、剣の切断範囲外に出ると、ミニスカートを穿いていることも忘れ、スケベ男の土手っ腹に強烈な蹴りをお見舞いした。


 蹴りを入れた瞬間、大きく振り上げた足の間からピンクのパンティーが覗き、集まった人々から歓声が上がる。一方、強烈な打撃を喰らったスケベ男は、息が詰まり身体をくの字に曲げてたたらを踏む。ユウキはその隙に、男の脇に回り、無防備になった背中にエルボードロップをお見舞いすると、スケベ男は「あわびゅっ!」と変な悲鳴を上げて、地面に叩きつけられ、動かなくなった。

 ユウキはスケベ男の頭を踏みつけ、高々と右手の人差し指を上げて勝利のポーズをとると、ギャラリーから大歓声が沸く。



「よくもジェスをやってくれたわね! 次はあたいだよ!」


 今度は猫耳娘が両手に短剣を持って襲い掛かって来た。ユウキは斡旋所の壁に立てかけてあった物干し竿を持つと、棒高跳びのように竿を支えにしてピョンとジャンプし、猫耳娘の頭に両手を載せ、その上で体を倒立回転させて、両ひざを猫耳娘の後頭部に打ち付けた。

 ユウキのニーキックを受けた猫耳娘は一瞬で意識を刈り取られ、ユウキを襲う姿勢のまま地面に倒れ、こちらもピクリとも動かなくなった。


 倒立回転した際、ミニスカートが地面の方にハラリと捲れ、ピンクのパンティーとお尻の線がくっきりと露になり、集まった人々から盛大な拍手が送られる。しかし、ユウキは拍手の意味に気づいていない。声援を送ってくれたものと思って、ニコニコと手を振るのであった。



「ルイザ! よくもやりやがったな…もう許さねえぞ…。痛い目見せてやる…」


 獣人の男が、毛を逆立てて怒りに満ちた目を向け、背中の大剣を抜き放った。それを見たユウキは、数歩下がって身構える。


(やっだー、正にテンプレだよ、この展開。この犬っころは何言っても聞かなそうだし、どうやって戦おうかな…)


 ユウキは、今すぐにも飛び掛かりそうなウルスを見てニヤリと笑うと、ウルスを指さし、集まった人々に向かって、大声で叫んだ。


「みなさーん! 聞いてくださーい! この犬っころ、か弱いわたしを捕まえて、俺の言うことを聞けってぇー、聞かないと力ずくで犯すぞってぇー、大勢の前でめちゃめちゃにするぞって脅してきたのー、こわーい、助けてー、犯されるぅー!」


「え、お、おい! 俺はそんな事言ってねえぞ!」

 ウルスは慌てて弁明するが、誰もそんな事は聞いていない。周囲は全員ユウキの味方だ。たちまち、ウルスは怒号の標的になる。


「てめえ、ウルス! 獣人の風上にも置けねえ!」「女の敵!」「この万年発情期野郎!」「俺も混ぜろ!」


 周囲の罵声にたじたじとなったウルスがユウキを見ると舌をペロっと出して見せた。それを見たウルスは完全に頭に血が上って、大剣を振り上げるとユウキに向かって飛び掛かった。


「うおおおお! 俺は犬っころでも、発情期でもねえー! それに、俺は貧乳派だぁー! でかいおっぱいは好きじゃねえんだー!」


 ユウキは、自分の性癖を叫びながら接近するウルスに向かって、小さく「身体拘束」と言って指をぱちんと鳴らす。魔法を掛けられたウルスは一瞬で体が動かなくなり、足がもつれて地面に叩きつけられた。


「うぐおっ! な、何だ…、体が…、体が動かねえ…」


 ユウキは、地面にへばり付き、唸り声を上げるウルスの背中をがっしりと踏みつける。


「こ、この…野郎…」


「私は女よ。野郎じゃないよ。ウルスと言ったかしら、仲間の教育はちゃんとした方がいいよ。それから、もうわたしを見かけても関わらないでね」


「ぐ、分かった…、もう許してくれ…、俺たちが悪かった」

「わかればいいのよ。じゃあ、わたしは行くから」


 観衆の拍手を受け、街の中に戻って行くユウキを見て、斡旋所のオヤジは密かに感心していた。


(おいおい、ウルスたちはクラスBの実力者だぞ。それを武器も持たず、簡単に一蹴しやがった…。大陸を旅すると言っていたが、案外大丈夫そうだな。面白い。ここを離れるまでしっかり働いてもらうとするか…)



「うう…、いたた…」

 後頭部を押さえながら、ユウキとジェスの乱闘に巻き込まれた神官の少女フェリシアが目を覚ました。


「いったい何が起こったの…。ああーっ、本が、本がバラバラにぃ…、どうしてぇええ!」



「はあ~、到着早々めんどくさい事に巻き込まれた。先が思いやられるよ。わたしは絶対に平穏無事に生きると決めているんだから、気をつけないと」


「あ、ここが街の人に教えてもらった宿屋街みたいだね。せっかくだから、いい宿に泊まろうかな。お金はあるし」


 ユウキは大通りに面した、比較的大きく綺麗な宿に入った。受付のお姉さんに、宿泊料を聞くと、1泊2食付きで銀貨1枚、大浴場もあり、部屋も空いているとのことだったので、1ヶ月ほど逗留する事を申し込んだ。


「はい、宿泊承りました。「エポナホテル」にようこそ。タイミングよかったですよ、1ヶ月後にお祭りがあるでしょう、もう少ししたら、どのホテルも一杯になってしまいますからね。はい、部屋の鍵です、部屋は3階になりますよ」


 受付のお姉さんから鍵を受け取り、3階に上がって部屋に入り、ドタンとベッドに倒れ込む。


「はあ、疲れた~。今日はお風呂に入ってゆっくり休もう…」


 ユウキはラミディアに到着して1日目だというのに、へとへとになってしまうのであった。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 冒険者登録とテンプレ的出来事をこなした次の日、ユウキは部屋の窓から空を見る。上空は雲ひとつ無い青空が広がっている。


「いいお天気だなぁ。今日は街を観光をしてみようかな? 受付で聞いたら、街の北東に小高い丘があって、頂上は公園になってて、凄く眺めがいいって言ってたし、大通りから観光馬車が出てるから、市内観光もできるね」


 ユウキは観光馬車乗り場に来た。馬車は20人乗りのオープンタイプで、料金は1人銅貨5枚。ユウキは料金を払って馬車に乗り込んだ。馬車には恋人同士や親子連れが十数人ほど座っていて1人者はユウキだけ。仲睦まじそうな恋人たちをじっと見るユウキ。


(さ、寂しくなんかないもん。わたしだって、いつか必ず素敵な恋人を見つけるもん)


 心の中で強がるユウキが座席に座り、御者は客が全て乗車したのを確認すると、馬車を出発させた。


 観光馬車はコトコトと進み、賑やかな大通りを抜け、官庁街から住宅街へ進んで行く。住宅街の途中から坂道になり、ゆっくりと丘を登り始めた。


(綺麗な住宅街。街路樹の緑が爽やかな感じがしていいなあ…)


 坂を上り始めて30分位経ったろうか、ユウキは他のお客の会話を聞きながら風景を見ていると、丘の上の停留所に着いた。馬車から降りて頂上の展望台に向かう。


 展望台には大勢の観光客がいて、雄大な景色を見て感嘆の声を上げている。ユウキも一番前に進み、眼前に広がる大海原を見て、その美しい風景に思わず声を上げた。


 海は穏やかで、風による波が一定方向に複雑な模様を作りだしている。また、北や東へ向かう何隻かの船が見えた。北へ向かう船はロディニアに行くのだろう。ユウキは水平線の方へ目を向けてみた。


(水平線の向こうにはロディニアがある…。ダメ、忘れようとしても思い出してしまう…)


 ユウキがロディニアでの出来事を思い出して涙ぐむ。隣のカップルが訝し気にユウキを見て来るが、人差し指で涙を拭いてカップルに「えへへ」と愛想笑いをすると、そっと展望台から降りた。


「あはは、ちょっと恥ずかしかったな。さ、お腹すいたし、どこかいい場所を探して、お昼を食べようかな。えっと、いい場所無いかな…。あ、あそこの木陰よさそう」


 見つけたのは公園の端にある1本の大きな木。四方に枝が張り出していてちょうどいい木陰になっている。また、そこからも海が一望できるため、何組かの親子連れがシートを広げてお弁当を食べていた。


 ユウキは適当な場所にシートを広げて座ると、リュックの中から包みを取り出した。包みはホテルにお願いして作ってもらったお弁当で、色々な具を挟んだサンドイッチ、香辛料をたっぷりかけて焼いた薄切り肉と野菜を挟んだパン、鳥のから揚げ、ポテトサラダなど。そしてマジックポーチから取り出したのは、エリスで買ったレーチ。


「うわあ、凄く美味しそう。では早速、いただきまーす。うん、美味しい!」


 ユウキは雄大で美しい風景と美味しいお弁当に大満足。先ほどの悲しい気持ちもどこへやら、お腹が膨れるに従って幸せな気持ちになって来た。


 食事も終わって、ゴロンとシートに横になる。空は青く、海から吹いてくる優しい風は潮の香りを運んで来て心地よい。木の枝には小鳥が止まっていて、「チチチ、ピチチチ」と可愛い声で鳴いている。ユウキは目を瞑って小鳥の声に耳を澄ませてみる。


「はうう…、お天気もいいし、お腹も一杯。なんて幸せな時間なの…」


「あら、貴女は…」


 ユウキが幸せタイムを満喫していると、不意に声を掛けられた。上半身を起こして見ると、ユウキより少し年下くらいの女の子が見下ろしている。女の子は左右で異なる色の瞳を持ち、見事な銀髪を腰まで伸ばしている。服は清楚な白のワンピースで胸はかなり控えめ。


(わ、オッドアイの子だ。わたしに何か用かな?)


「あの…、貴女、昨日冒険者斡旋所で、冒険者の方と揉めていた方ではありませんか?」

「え、あ、はい…。そうだったですかね…」

「やっぱり!」

「え?」


「私、フェリシアと言います。貴女がぶっ飛ばした冒険者に巻き込まれて、盛大に転ばされた神官服の女と言えばお分かりになりますでしょうか?」


「えっと…、あ、あ~~! 斡旋所の奥で本を読んでいた方ですか?」

「そうです。思い出しましたか?」

「はい…、思い出しました。ビンタしたスケベ男がテーブルを巻き込んで倒れた時、神官服の女の子も巻き込まれていたような…。確かパンツは白のお子ちゃまだったような…」


「そ、それはどーでもいいんです! ていうか、よく見てましたね!」

「問題はですね、私が読んでいた本が、転んだ拍子にバラバラに破けてしまったことなんです! 図書館から借りたとっても貴重な本で、凄い額の弁償金を取られました」


「うっ、ごめんなさい。あの…、弁償金、わたしがお支払いします」

「いいえ、これは私の落ち度もあるので結構です。その代わり一つ貸しにしておきますね。覚えててくださいね。全く…」

「はい…、ごめんなさい」


 謝るユウキを尻目にフェリシアはぷんすかしながら、展望台の方に歩いて行った。


「はあ~あ、せっかくのいい気分が残念な気分になっちゃったよ。明日は斡旋所に行ってみようかな? お祭りまで時間があるし、何か仕事があるかも知れない。気分転換に簡単な仕事を受けてみてもいいかもね…」


 ユウキは再びゴロンとシートの上に横になって、目を瞑るのであった。


翌日…

「と、言ってたそばから来ましたよ、女の子の日が。うぐぐ、お腹が痛いし、気分が重い。動きたくない…。斡旋所に行くのは無理…」


「そういう訳で、今日、明日は部屋でゆっくり過ごすことにしました。寝ててもいいけど、とりあえず、身体に負担がかからないような事でもしようかな…。そうだ、この機会に手紙でも書いてみよう。カロリーナとフォンス伯爵、元気にしてるかな?」


 ユウキは机に座り、マジックポーチから便箋と封筒を出すと、ホテル備え付けのペンを使って手紙を書きだした。


 夕飯の時間になっても部屋から出て来ないことを心配したホテルの従業員が部屋を訪れてみると、ユウキが手紙を書きかけのまま、机に突っ伏してぐうぐう寝息を立てているのを見つけた。よほど疲れていたのかなと思った従業員は、毛布を持ってくるとユウキにそっと掛けてあげるのだった。

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