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第19話 雨の日の出会い

 受験申し込みが無事終わり、試験まであと数日となったある雨の日。優季は宿の部屋で休んでいた。


「ううう…。やっぱり来ました、女の子の日が。じくじく痛むのはつらい~。でも試験に重ならなくてよかったよ~」

 

 マヤが生理用品をたくさん持たせてくれたので、その点は心配ないとは言うものの、体がだるく、動くのが億劫なことには変わりはない。優季はこの時間を利用して、改めて受験のしおりを開いてみた。


「ええと、前に聞いた話だと1日目は筆記試験で、2日目が実技だったな。ボクは剣術を選択しよう。ボクの魔法は使わないことにこしたことはないし…」


 筆記試験の内容を見てみる。

 

「筆記試験は、えと、文学、算術、歴史か…」

「ん? 歴史?」

「歴史って、ロディニア王国の歴史だよね。あれ、おかしいな。迷宮にあった歴史の本にはロディニア王国のことなんて書いてなかったような…。あ~~~っ!」


「おじさんの生きていた時代って、今より1000年以上も前じゃないのよ! アホかあの即身仏! 何が『これを読んでればよい』だよ! だめじゃないのぉ!」


「どうしよう、どうすればいい? 考えろ、考えるんだ優季!」

 優季はベットの上に上体を起こして頭を抱え、ない知恵を絞る。


「そうだ、王都なら図書館! 図書館があるはず! お腹は痛いけど、行くしかない」


 優季は急いで着替えて、1階の受付のお姉さんに図書館の場所を聞き、傘を借りて宿を飛び出した。


 雨に降られて気温が下がっている。お腹の痛みがつらくなるが、我慢して10分ほど大通りを進み、中級市民エリアに入る。中級市民エリアの西側区に国立図書館があった。


 入り口で入場料の大銅貨1枚を支払って中に入った。図書館は2階建てでとても広い。目的別に並べられた本棚の区域と、机と椅子が並べられた閲覧場所がある。今日は雨の日なので利用者はまばらだったが、暖房の魔道具が置かれていて、室内が暖かいのは助かった。


 時間がもったいないので、早速目的のロディニア王国の歴史に関する本を探す。


「ああ、あったあった。よかった~、やっぱり王都。歴史って言っても結構あるな」

 適当に何冊か選び、閲覧場所で読み始める。


「ぐぐ…、人名地名、年代ごとの出来事が多くて覚えるのが大変だ。でも、覚えなきゃ。がんばれボクの脳細胞!」


 優季が歴史書と格闘していると、不意に声をかけられた。


「歴史の勉強をしていますの? あなたも受験生?」

「はい?」


 優季が顔を上げて声をかけてきた人物に目を向けると、そこには、キレイなドレスを身に着けた女性が優季を見下ろしていた。女性は同年代くらいで、長く美しい金色の髪、色白で長いまつ毛の切れ長な目、深い青の瞳をした美人だった。


(び、美人だ。誰この人?)

 優季が見とれていると、相手はにこっと笑って自己紹介してきた。


「あっ、ごめんなさい。私、フィーア・オプティムスといいます。私も受験生ですのよ」

「実は私、王都に来るの初めてでして、友達もいなくて…。何もする事がなくて本でも読もうかと図書館に来たんですの。もし、王立高等学園の受験生でしたら、お友達になっていただけないかな、と思ったのですけど…」


 優季が呆けていると、フィーアと名乗った女の子は怪訝そうな顔をする。


「…あの、どうかしました?」


「あ、えと、びっくりしちゃって。ボク、ユウキ・タカシナっていいます」

「ボクも受験生で、王国の歴史がちょっと? ではないくらい不安だったから、あわてて一夜漬けしようかなと、図書館に来てました。たはは…」


「フフ、面白い方ですのね。よかったら一緒にお勉強しましょうか」

「え、でも悪いよ」

「いいんですのよ。どうせ暇で図書館に来てみたのですし」

「じゃ、お願いしようかな。実はどこを勉強したらよいか分からないし、出来事もさっぱり覚えられなくて、はは…」

「ふふふっ」


 フィーアは物知りだった。優季に年代、出来事、関わった人物ごとにポイントとなる部分を教えてくれ、優季はとにかく持ってきた紙に書き写す作業に没頭した。2人が勉強を始めて大分時間が経ち、日が沈みそうになった頃、


「いや~、ホント助かりました。後はこれを丸暗記するだけです!」


 優季が力いっぱいお礼を言うと、フィーアは笑いながら、


「私もユウキさんに知り合えてよかったです。今度は試験場で会いましょう」


 と言って帰って行った。出口に向かったフィーアを見ると付き人と思われる男の人が現れ、立派な馬車が迎えに来ていた。


「凄い馬車。貴族様だったのかな…。さて、ボクも帰ろう」


 昼間降っていた雨は止んでいたが、冷え込みが強くなり、寒さが身に沁みてお腹にキュンと来るので急ぎ足で紅水亭に向かうのであった。

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