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第187話 フェーリスとの再会

 サザンクロス号の乗船券を購入した翌日、ユウキは何をしようか悩んでいた。


「出港は明日だし、特に準備するものもない…。そうだ、ここからならあそこが近い。あそこに行ってみようかな」


 ユウキは身支度を整えると、宿を出て、大通りに出た。まだ朝も早い時間だったので、大通りには人も少なく、見立ちたくないユウキには助かった。お客もまばらな辻馬車に乗り、1時間ほどでリーズリット市の外れに出て、綺麗な砂浜海岸に到着した。ユウキはここで降り、浜に向かって歩いて行く。長さ2kmほどの海岸には小さな波が打ち寄せ、心地よい波音を立てていた。


「臨海学校で遊んだ海岸…。懐かしいな」

「季節はずれだからかな、人もまばらでとても静か…」


 ユウキはサンダルに履き替え、波打ち際まで歩いて行く。水平線の向こうまで青い空と白い雲が続いていて、とても美しく、ユウキはその景色に感動する。


「楽しかったな、臨海学校…。海水浴にビーチバレー、地曳き網、バーベキュー。みんなで騒いでホントに楽しかった…。なんだろう、今となっては全て夢だったみたいに感じちゃうな…」


 ユウキは心の中で友人たちの名前を呼ぶ。そのうち段々寂しさが募り、自然と涙で視界がぼやけて来た。


「いけない、もうこの国とは決別したんだ。泣いちゃダメ…」


 海からの優しい風を受けながら景色を心に刻み付けていたユウキは、ふと、人の気配を感じて後ろを振り向くと、1人の少女が立ち尽くし、呆然とユウキを見つめているのに気が付いた。


(フェ、フェーリス様だ…)


「あ、あの…。もしかして、ユ、ユウキ様…、ですか?」

「え…い、いいえ。人違いだと思いますよ」

「でも、短くなっているけど黒い髪…」

「(何とか誤魔化さなきゃ…)えと、そう、わたしは南から来た旅行者でミナ…、ミナトと言います」


「ミナト…様、そうですか。私の存じている方にあまりにも似ていたものですから…。あの、私はフェーリスと言います。(この方はユウキ様だ。間違いない!)」


「そう、フェーリスと言うの。お知り合いになれて良かったわ。じゃあ、ごきげんよう…」

「待って! あの、待ってください!」


 ユウキはそそくさと立ち去ろうとしたが、フェーリスに呼び止められてしまった。


「な、なにか…?」

「あの…。もし、お時間がありましたら、少し、私のお話を聞いていただけませんか? ご迷惑かも知れませんけど、聞いていただきたいんです…」


(フェーリス様、凄く悲しそうな顔、あんなに明るかった子が…。全部わたしのせいだよね。申し訳ありません…)


「え、ええ、少しの間でよければ…」


 ユウキとフェーリスは、波打ち際から離れ、砂浜の背後にある階段状の防砂堤に並んで腰かけた。少しの間沈黙が2人を包んだが、ぽつぽつとフェーリスが小さな声で話し出した。


「私のお友達にユウキ様という女性がいたんです。私より2歳年上だけなのに、凄く美人で、女らしくて、羨ましいくらい胸も大きくて…。それに、とても優しいのに、いざとなったらどんな強敵にも立ち向かって行く…、私の憧れの女性でした」


(そういえば、フェーリス様の胸…全然成長していない)


「今、何か失礼な事考えませんでした?」


(心を読まれた!?)


 フェーリスはユウキとの思い出を話し出した。友人の少なかった自分と仲良くなってくれて嬉しかったこと、王宮住まいで中々会えなくて寂しかったこと、なので、学園祭に連れて行ってもらってユウキの活躍を見るのが楽しみだったことや、演劇大会で大笑いしたこと、初めてのお泊りでゲームをしたり、女の子同士でお風呂に入ったり、ダスティンの工房で様々な体験をさせてもらったことなど…。


「男の兄弟しかいなかった私にとって、ユウキ様はお姉さんのような存在でした…」


「でも、マルムト兄様の一件で全て失ってしまった…。平和だった王国も、優しかったお父様、お母様もいなくなった…。私も処刑されそうになりました」


「でも、ユウキ様が命がけで助けに来て下さった。あの時は本当に嬉しかった。でも、私を逃がすためにユウキ様が捕まって、魔女に仕立て上げられて、王国の敵として処刑されることになってしまった…」


(…………)


「処刑台の上で集まった人たちに罵声を浴びせられ、悲しそうに周囲を見るユウキ様を見て、私、胸が締め付けられるようで、マクシミリアン兄様にユウキ様を助けてくれるようにお願いしたんですけど、兄様はユウキ様を見捨ててしまった…。私に力がないばかりに、何もできなくて、本当に…本当に申し訳なくて…、う、ううっ…」


 ユウキは、フェーリスの涙をハンカチで優しく拭いてあげる。


「暗黒の魔女となって、破壊の限りを尽くし始めたユウキ様を助けたくて、カロリーナ様に一緒にユウキ様の元に連れて行ってもらうようお願いしたんですけど「王家はユウキの敵だ!」と言われて拒絶されてしまって…」


(カロリーナ…)


「アクーラ要塞にユウキ様が現れた時、私、何とかユウキ様を止めたくて、声を掛けたんですけど、憎しみに燃える赤い目を向けられて、王家に属する者は全て殺す、私も殺すと言われてしまい、私、恐ろしくて、身が竦んでそれ以上何もできなかった」


「結局、私は何もできないまま、最後の戦いでユウキ様は討ち取られてしまった…。死体さえ残らなかったと…。何故、ユウキ様を殺さなければいけなかったの? 悪いのは私たちなのに…」


「私は、なんて無力だったのだろう。ユウキ様を助けることも、元に戻すこともできなかった。いっそ、あのままユウキ様に殺されていれば良かった…」


「ミナト様。私は、私は一体どうすれば良かったのでしょうか。ずっと考えているのに、答えは出ないんです…。う、グス…ううっ…うあああっ」


(…………)


 ユウキはフェーリスの背中を優しく撫でながら、語りかける。


「フェーリスさん。そのユウキって言う人、今の話を聞いて感謝していると思いますよ。それほどまで思ってくれて嬉しいってね」


「それにその事は終わった事なんですよね。魔女は死んだんでしょう? 死んだのならもうこの国に現れる事は無い。フェーリスさんが気に病むことはないですよ。忘れた方がいい。それに、貴女は王家の人間として、この国を立て直していかなければいけないんです。元の平和で、豊かな国にね」


「フェーリスさん、貴女ならきっと出来る。この国を…いえ、大陸の国々を新たな時代へ導くことが。貴女ならきっと…」


 ユウキはキュッとフェーリスを抱き締める。フェーリスはユウキの大きな胸に顔を埋めると心が安らいでいくのを感じていくのだった…。


「(温かい…。ユウキ様…、フェーリスはやっと救われました…)うふふ、ミナト様。私、少し心が楽になりました」


 フェーリスがユウキに笑いかけた時、遠くからフェーリスを呼ぶ声が聞こえ、1人の女性が近づいてくるのが見えた。


「あ、ルーテだ。私、もう行かなくちゃ。ミナト様、お話を聞いていただいてありがとうございました。では、ごきげんよう」


 そう言うとフェーリスは小走りで、迎えに来た女性の下に行き、こちらに振り向いて手を振ると、ぺこりとお辞儀をして帰って行った。


「フェーリス様、ずっと悩んでいたんだ。わたしのせいで…申し訳ありませんでした…。もう会う事は無いと思いますけど、お元気で…」


 思いがけずフェーリスと出会ったユウキが海岸から大通りに戻る頃には日も高くなり、お昼時に近くなっていた。


「はあ、お腹が空いたな。どこかレストランとか、食べるところはないかな…。あ、丁度レストラン見っけ。席も空いてそう、ここに入ろう」


 大通りに面したレストランに入ったユウキは、奥側のテーブルに座り、水を運んできたウェイトレスにランチセットを頼んだ。

(ご飯食べたら買い物行こうかな)などと考えていると、ロールパンと薄くスライスした肉の香草焼き、サラダと海鮮スープがセットになったランチが運ばれてきた。


「おお~、美味しそう…。もう、お腹ペコペコだよ。いただきます」


 ユウキがランチを食べていると、「相席いいか」と声がした。ユウキが顔を上げると冒険者風の男が小さな笑みを浮かべてユウキを見ている。年の頃は20歳くらい、見事な銀髪の逞しい体つきをしたイケメンだ。


「席は他にも空いてますよ」ユウキがそっけなく言う。

「まあまあ、1人で食べても美味しくないだろ、一緒に食べようぜ。おっと、俺はミュラー、よろしくな」


「ごちそうさま。わたし、食べ終わったからごゆっくりどうぞ」

 ユウキはニコッと可愛く笑うと、手をひらひらと振ってレストランを出た。1人残されたミュラーは、残念そうにユウキの後ろ姿を目で追うのであった。


(ふう、危ない、危ない。男はもう当分懲り懲りだよ)


 ユウキはマクシミリアンの件で、若干男性不審になっていて、女性に簡単に声を掛けて来る男は苦手になっていた。速足で通りに出ると、なるべく目立たないように端の方に移動して、ようやく落ち着くこと出来た。


 買い物でもしようかと思ったが、考え直して宿に帰ろうとしたユウキは、急に腕を掴まれ、狭い路地に引き込まれてしまった。


「きゃあっ! 何をするの!」

「しっ! 静かに…私です。リサです」

「リサさん!?」


 ユウキの前に現れたのは、王都の冒険者組合の事務員リサだった。

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