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第185話 茜空の旅立ち

「ユ、ユウキ…、どうしちゃったの! 髪の毛…切っちゃったの?」

「へへ、ショートカットも似合うでしょ。結構、気に入ってるんだ」


「ユウキ…」

「今までのユウキは死んだの。これからは新しいユウキとして生きることにしたんだ」


「そう…。うん、いいと思うわ。しっかし、美少女は何をしても似合うって典型よね。何だか悔しい…」

「あはは。そうだ、実は一度オヤジさんの家に戻ってね、カロリーナの部屋から荷物持ってきたよ。はい、これ必要でしょ」


 そう言って、ユウキはマジックポーチからドサドサと本をいっぱい出した。


「うわあぁ、お、乙女の秘密ぅ~!」

「ぷくく、カロリーナったら、貧乳が自慢じゃなかったの?」

「く…、な、無いよりはあったほうがいいに決まってるじゃん…。ふええん」


「それと、近日中に出発するね。伯爵様から馬車も出してもらえることになった」

「うん…、わかった。あの、あのね…。出発の日まで、一緒に寝てくれない?」

「うふふ、いいよ。実はわたしもそうしたいと思ってたんだよね」



 ユウキが、フォンス伯爵に暇を告げてから数日が経ち、いよいよ旅立ちの日となった。


「ユウキ君、君には息子の件でとても世話になった。本当に感謝している。それと、この国の事はもう忘れなさい。君の新たな旅立ちには不要なものだ」


「はい、伯爵様には色々と助けていただいて感謝しています。あの、たまにですけど、手紙書いてもいいですか?」


「ああ、そうしてくれ。楽しみにしている。君のこれからの旅路に幸あることを願っているよ」


「はい、ありがとうございます…。グス…」


「さあ、もう行きたまえ。御者は私の最も信頼する者だ。安心してくれていい」


「はい、本当にありがとうございました。伯爵様、さようなら」


 ユウキは御者に「よろしくお願いします」と告げ、馬車に乗り込み、既に乗車していたカロリーナの隣に座る。ハウメアーまでは3日の行程だが、人目を避けるため、途中の町や村には寄らず、野宿をしながら進むことになっている。


 馬車の中でユウキはカロリーナといっぱいおしゃべりをした。学園での初めて出会いや、メイド喫茶の思い出、夏の臨海学校、学園祭のこと、そして魔物との戦い…。話題は尽きることがなかった。その間にも馬車はゴトゴトと進む。


「私、ホントにユウキと出会ってよかった。ユウキと友達にならなかったら、今の私はなかったと思う。ユウキは私の命と心を救ってくれた天使なのよ」

「……でも、わたしのせいでみんなバラバラになってしまった。ララも、アル君も死なせてしまった…。カロリーナもユーリカと決別させてしまうことに…」


「伯爵様も言ってたけど、もう魔女だった事は忘れなさい。それに、私はユウキと一緒で幸せだったからいいのよ…」


「うん、ありがとう。あ、そうだ!」

「カロリーナ、この指輪を貰ってくれない?」


 ユウキは自分の指から金色に輝く指輪をはずすと、カロリーナの手を取ってカロリーナの指に嵌めた。


「え、でも、これユウキの大切な物じゃ…」

「だからカロリーナに貰ってほしいの。もし、どうしても寂しくなったら、その指輪に話しかけてみて。もしかしたら、いいことあるかもよ」


「ふふ、ありがとう。大切にするね」



 王都を出て3日目、馬車はハウメアー市に到着した。カロリーナの案内で馬車は人目につかないよう、市内を迂回して広大な畑作地帯の農道を進み、カロリーナの実家を目指す。カロリーナは久しぶりに見る風景に懐かしさで胸が一杯になり、うっすらと涙を浮かべていた。


「カロリーナ、見えて来たよ」

「う、うん…。わあ、懐かしいな。パパとママ、元気かな…」


 間もなくして、柵に囲まれた白壁の平屋建ての大きいな建物の前に到着した。ユウキは家の前で掃除をしていた使用人に、カロリーナを連れて来たことを告げ、ご両親を呼んでほしいとお願いすると、ビックリした様子で急いて家の中に入って行った。


 しばらく待っていると、家の中からカロリーナの両親と兄弟たち、ガイアさんが慌てた様子で出て来た。


「お久しぶりです…」

「ユ、ユウキ君か、信じられない。本当にユウキ君だ…。カロリーナと君は王都の戦いで死んだと聞かされていたから…」


「突然に済みません。あの、御者さん、お願いします」


 御者が馬車の扉を開いて、カロリーナを抱きかかえ、両親の前に連れて来た。


「カ、カロリーナ、カロリーナじゃないか! う、ぐ…っ、うおおお!」

「パパ、ママ、みんな…。ただいま…」


「す、済まない…。突然の事で取り乱してしまって。さあ、家の中に入ってくれ」

「はい」


 御者はカロリーナをガイアに引き渡すと、ユウキに向かって「私はここで…」と言うので、ユウキは御者に向かってお礼を言った。御者はユウキに一礼して王都への帰途についた。



 リビングに通されたユウキは、カロリーナの両親、兄弟、三連星の全員が揃ったのを確認すると、王都での出来事を詳細に話し始めた。


「カロリーナは最後までわたしの親友として、わたしを見放さず側にいてくれました。でも、その結果、酷い怪我をしてしまって…。私の魔法と、この神剣「極光」の力で傷は塞がりましたが、自由に体を動かすことが出来なくなったんです」


「でも、リハビリと言って、少しずつ体を動かす訓練をすれば時間は掛かるけど、元通りに動けるようになります。そのためにご家族に協力していただければと思って…。私たちは王国の敵として討ち取られた事になっているので、生きていることが知られてはいけないんです。ですから、カロリーナをここに匿ってもらえればと思いまして、お連れしたんです」


「そういう事か…。何とも…言葉が出ないな…」

「でも、あなた。死んだと思っていたカロリーナが帰って来たんですもの。こんな嬉しいことはないわ。私たちで支えてあげましょう」

「そうだな。でも、ユウキ君はこれからどうするのだ?」


「はい、わたしはもうこの国にはいられません。ですから旅に出ようと思います」

「そうか…。私としては、君にもずっとカロリーナの側にいてほしいのだが…」


「ありがとうございます。でも、もう決めたことなので…」

「あと、神剣はずっとカロリーナの側に置いてください。この剣はカロリーナの守護者。あらゆる災厄からカロリーナを、この家を守ってくれます。それと…」


「このお金をカロリーナのリハビリに使ってください」


 ユウキはマジックポーチから金貨の入った袋を取り出し、テーブルの上に置いた。カロリーナの父は袋の中を改めると驚いてユウキを見た。


「ユ、ユウキ君…、こんな大金は頂けないよ。これは君が使った方がいい」

「大丈夫です。私はまだ持ってますから。だから是非受け取って下さい」

「パパ、これはユウキの気持ちよ。頂きましょう」


「わかったよ。ありがとう、ユウキ君。これはカロリーナのために使わせてもらうよ」


「はい…、私はそろそろお暇します。カロリーナを…、よろしくお願います」



 ユウキはカロリーナ一家に別れを告げ、新たな世界に向け歩き出した。カロリーナの家が段々小さくなっていく。ユウキは、今一度別れを告げるため、振り返ると家の前でガイアに抱かれたカロリーナが、ぶんぶんと手を振っているのが見えた。


「カロリーナー、さよーならー! 元気でねー! いつか、いつかまた会おうねー!」


 ユウキも思いっきり手を振って別れの挨拶をした。どの位手を振っただろうか…。ユウキは手を下ろすと、涙で潤んだ眼を拭い、再び歩き出した。


「お嬢様…ユウキ殿、行ってしまいましたね」

「うん。でもね、ユウキの声聞こえたよ。「また会おうね」って言ってた。だからこれが永遠の別れじゃないよ。きっと、きっとまた会えると信じてる」


「お嬢様…」

「あはは、ガイアにお嬢様って言われると違和感が凄いね」

「え、そうですかい?」

「うふふ、でも悪い気はしないかな。さあ、家の中に入ろう」


 カロリーナは、ガイアに抱かれたまま家の中に入る直前、もう一度ユウキの歩いて行った方向を見て「バイバイ、ユウキ」と小声で別れを告げるのであった。



 街道を1人歩くユウキはふと空を見上げた。夕暮れ時の空は真っ赤で、所々に浮かぶ雲は茜色に染まって美しく、ゆっくりと西に向かって流れている。


「わあ、なんて綺麗なの…」

「……美しい夕焼け空。もう一度マヤさんと見たかったな…。マヤさん…、マヤさんに会いたいな」


 ユウキが空を見上げながらマヤの名を口にすると、上空にキラリと光る物が見えて、ユウキの目の前に落ち、ドスッと音を立てて地面に突き刺さった。


「こ、これはゲイボルグ! ど、どうして…。マヤさんと一緒に消滅したのではなかったの?」


 ユウキがゲイボルグを抜いて呆然と見ていると、不意に「ユウキ様…」と声が聞こえた気がした。


「い、今の声…。ま、まさか…」


 ユウキは周囲を見回すが、地平線に沈みかかっている夕日に照らされた幻想的な風景が広がるだけ。


「そうだよね…。幻に決まっている…。だって、だって、マヤさんはわたしを逃がすため、戦って犠牲になったんだもの…。ここにいる訳がない」


 ユウキはゲイボルグをじっと見つめる。


「ゲイボルグはマヤさんの心を受け継いだ槍…。きっと、わたしを心配したマヤさんが届けてくれたんだ。ありがとうマヤさん…。ゲイボルグはわたしが大切に使わせてもらうね。それとね、わたし、みんなの気持ちを受け取っているから。必ず、約束を守ってこの世界で幸せになってみせるから。だから心配しないで…」


 ユウキはそれ以上何も言わず、ゲイボルグを抱き締め、今までの事を思い起こす。この国で過ごしたのは2年半しかなかったけれど、楽しかった事、辛く悲しかった事、色々な出来事がたくさんあった。そのどれもが昨日のように思い出せる。


 どのくらい時間が経ったろうか。ユウキはふと空を見上げた。いつの間にか日は沈み、暗くなった空には無数の星々が煌めいている。その美しく壮大な光景は、夜空の星になったマヤ、助さん、格さんのアンデッドたちやララ、ダスティンが、ユウキの旅立ちを優しく見守っているようであった…。

ここで第3章は終了です。全てを失ったユウキは自分の居場所を見つけるため、新たな土地を目指して旅立ちます。どんな世界が、出会いが彼女を待ち受けているのか、次章に続きます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ユウキ、一人ぼっちになりましたね。つらい… 新たなる出会いに期待一杯です。
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