第181話 Final battle with the dark witch(Part6:助三郎)
『格よ、逝ったか…。ダスティンのオヤジも先に逝っちまった…。俺も間もなく逝く。待っててくれ…』
そう呟いて魔剣デス・ゲイズを構える助さんを数百人以上の王国兵が囲み、その中心にマクシミリアン王子がいた。
『たかがスケルトン1体に大層な事だな』
「黙れ、魔女の手先め! お前たちのせいでどれ程多くの国民が傷ついたと思っている!」
『よく言うぜ。元々お前たちの親子喧嘩が発端だろうが。大体、王家の信頼を得ようとして、俺たちが手塩にかけて育てた可愛いお嬢を魔女に仕立て上げ、殺そうとしたのはお前たちじゃねえか!』
「確かに発端は弟の王位簒奪と言う無謀な夢から始まった…。そのため国民を煽動し、ユウキを魔女に仕立てあげ、傷つけたのも確か。それについては言い訳はしない」
「しかし、理由はどうあれ、あの女は正真正銘魔女と化し、多くの国民を殺した事実は変わりはない。私は国を治める者として、魔女をこの国から排除する責務がある」
『……お前、マクシミリアンと言ったな。お嬢がどれだけお前を好いていたか分からんだろう。お嬢はな、どんな気持ちで戦ってきたか分かるか? お嬢はこの国が好きだった。大切な友人、愛する人が住むこの街が好きだった。だから時に心を鬼にして戦ってきたんだ! 本当は争い事が嫌いな優しい心の持ち主なのに…。それなのに、お前たちは…』
『処刑台の上からお前の姿を見て、助けに来てくれたと信じて希望を持ったお嬢をお前は黙殺したな…。お前の妹を命がけで助けたお嬢を見殺しにした。ダスティンのオヤジが教えてくれたぜ。可哀そうなお嬢…。この卑怯者が…、俺は絶対に卑怯者を許す訳にはいかねぇ!』
「……」
『俺はここで消える…。だがな、マクシミリアン。お前だけは殺す。消えるのはそれからだ!!』
『ぬぉおおおおお! デス・ゲイズ、俺に力を貸せ。潜在能力解放!』
助さんの能力が、魔剣の力を得て大幅にパワーアップする。助さんはマクシミリアンに向かって魔剣を振り上げ、瞬時に間合いを詰めて来た。
マクシミリアンの危機に、王国兵が一斉に助さんに飛び掛かったが、助さんはデス・ゲイズを横に薙いで、一気に十数人を斬り飛ばした。さらに、マクシミリアンの盾になろうとした王国兵を頭から両断する。
『捕まえたぜクソ王子! 喰らえ、重破斬!』
「くっ!」
大技を放った助さんの斬撃をマクシミリアンは辛うじて受け止めるが、パワーに押し込まれ、剣を弾かれてしまった。
「しまった!」思わず叫んだマクシミリアンに、助さんは再度斬撃を放つ!
『決まった!』
勝利を確信した助さんの攻撃を1本の槍が防いだ。
『なんだと!』
「マ、マクシミリアン様を、私の旦那様をやらせはしません!」
「イングリッド!」
『くそ…、なんだ、このちんちくりんな女は』
「何ですって骸骨野郎! 私はイングリッド。マクシミリアン様の妻となる女よ!」
『ほう…、お前もお嬢の敵と言う事か。なら遠慮はしねえ、クソ王子共々ぶっ殺してやる』
『しかし、お嬢の方がよっぽどいい女じゃねえか。クソ王子は貧乳ブス専か? 趣味がわりぃな。ハハハハ』
「ぐぬぬぬ…。この骸骨野郎…、木っ端みじんにしてやる!」
『ハハハ、行くぞ。ちんちくりん!』
体勢を低くして飛び込んだ助さんの斬撃がイングリッドを襲う。目の前に迫ったデス・ゲイズを槍の柄で辛うじて防いだイングリッドが、斬撃の勢いで盛大に飛ばされ、地面に転がった。
「ひゃあああ」
「イングリッド!」
「王子、これを!」
助けに入ろうとしたマクシミリアンに、ラブマンがハルバードを投げて寄越した。マクシミリアンはそれを受け取ると、助さんに向かって斬撃を放ち、意識を向けさせた。
助さんは、ハルバードの斬撃を弾き返し、カウンターの一撃を返す。両者は激しく打ち合い、周囲に剣戟の音が響き渡る。
『どうした、その程度か! 魔剣デス・ゲイズの即死効果が怖いか、腰が引けているぞ!』
「く…、うりゃああ!」
『ふん、甘い!』
助さんはデス・ゲイズを下から斬り上げ、ハルバードを跳ね上げてがら空きになった胴に蹴りを入れて、吹き飛ばした。
「があっ!」
マクシミリアンは切れた口の端から血を流しながら、ハルバードを支えにして立ち上がる。イングリッドはマクシミリアンに駆け寄って後ろから支えた。
『死ね、マクシミリアン!』
「そうはいかん! 妻よ、私に力を!」
マクシミリアンと助さんの前に、ラブマンが立ちはだかり、デス・ゲイズを大剣で受け止めた。さらに、後方からラブマン分隊5人の精鋭が同時に剣を槍を打ち込んで来る。
助さんは、デス・ゲイズを横に薙いで何とか直撃を防ぐが、精鋭の1人が槍を地面を這うように薙いで、助さんの足を払った。
『うぉっ!』
集団攻撃に対処していた助さんは、不意の足払いに対応できず、バランスを崩してしまった。マクシミリアンはその隙を見逃さず、ハルバードを力いっぱい振り下ろし、デス・ゲイズを持つ右腕を斬り飛ばした。
『ガァッツ…』
武器を失った助さんが棒立ちになった瞬間、ラブマンが大剣を一撃し、助さんの腰から上の背骨を鎧ごと切断し、助さんは上下に分断されて地面に倒れた。
「…やったぞ! 魔女の眷属、悪魔のスケルトンを倒した!」
マクシミリアンの勝鬨に、配下の騎士たちは「うおおお!」と雄叫びを上げた。しかし…。
『ハ、ハハハ…、よく見ろ、卑怯者め…。最後は俺の…勝ちだ。ハハハ…』
「何だと?」
助さんの笑いにマクシミリアンが周囲を見回すと、デスゲイズに胸を貫かれたイングリッドが倒れている。
「イングリッド!」
マクシミリアンが慌てて駆け寄り、抱き上げて名前を呼ぶ。イングリッドはうっすらと目を開けると、小さく何かを呟き、事切れた。
「どうして…」マクシミリアンの言葉に、ラブマンが、イングリッドの胸から助さんの手が付いたままのデス・ゲイズを抜き、地面に投げ捨てた。
「マクシミリアン様…。イングリッド副官は斬り飛ばされた腕に操られた魔剣によって胸を貫かれたものと…」
「そ、そんな、そんなバカなことがあるか! イングリッド! 返事をしてくれ、私の妻になるのではなかったのか! イングリッドぉおおお!」
『フ、フフフ。大切な者を失った気持ちが分かるか…卑怯者…。お、お嬢、ユウキ…、お前の気持ち、解らせてやった…ぜ』
「……貴様、よくもイングリッドを…」
マクシミリアンは、憤怒の形相で助さんを見下ろし、ハルバードを構えた。助さんは振り上げられたハルバードを見つめながら、ユウキの事を想う。泣きながらマヤに連れられて走り去っていくユウキ。泣き顔で自分を見ていたユウキの顔を…。
(お嬢、お前には泣き顔は似合わないぞ…。可愛く笑え、笑った顔が一番だ…。元気でな…ユウキ…。お前と過ごした時間は…、最高に楽しかったぜ…)
マクシミリアンがハルバードを助さんの頭蓋に叩きつけ、魔石もろとも完全に粉砕した。その瞬間、助さんは青白い炎に包まれ、一瞬の後に僅かな灰となった。デス・ゲイズもまた同時に消滅した。
マクシミリアンは助さんの灰を踏みにじると、配下の騎士全員に向かって命令を下した。
「魔女を追う。我々の手で魔女を討つのだ!」