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第18話 ユウキ武器店に行く

 説明によると、試験申し込みは2月の上旬からここで始まること、試験日は3月の10日、11日の2日間に亘って行われるという。試験の内容は初日はテストで文学、算術、歴史の3教科。2日目は実技。剣術か魔法を選べるらしい。また、受験費用として銀貨10枚がかかるという。試験の時の服装は自由とのこと。


「あの、剣を返してもらいに来ました」

「ああ、君か。引換券と交換だ」


 優季がミスリルダガ―を返してもらうと、兵士が話しかけてきた。


「君、その剣は凄いね。それほどの技物を持っているのは貴族にもいないよ。あまり見せびらかさない方がいいね。トラブルのもとになるかも知れない」

「あ、はい、わかりました…」


「いや~学園、おっきかったね~。想像以上だったよ~」

「さて、受験申し込みまで、まだ何日かあるね。申し込みには一緒に行こう」

 とララが誘ってきたので、日にちと時間、集合場所を決めた。


「ユウキは、申込日までどう過ごすの」

「うん。考えたんだけど、王都の町を見て回りたいなって。でも、その前に普段使いの武器を買いたいな」


「武器? 持ってるじゃん」

「うん。でも今持っている武器は、めったに人に見せるべきものではないと思うんだ。エミリーのこともあるし、兵士さんにも注意されたし」

「あ~、そうだったよね。そうだ、アル、案内してあげなよ」


「ん、俺がか、いやだ」


「何でよ、女の子が困ってるでしょ。アルは王都の武器街知ってるでしょ。連れてってあげてよ」

「女と出歩くなんざ、お断りだ」

「なに硬派ぶってんのよ! ユウキ1人街を歩かせられないでしょ。案内しなさいよ」


「お前が連れて行けよ」


「私、明日からしばらくおじさんのところで魔道具づくりの手伝いをしなければならないのよ。あんた暇でしょ」


「アルくん、お願い」


 優季が両手を合わせてお願いすると「わ、わかったよ」とアルはあっけなく落ちた。


「うむ~、納得いかない!」


 ララは自分が頼んでも言うこと聞かないのにと少しヤキモチを焼くのであった。



 アルが優季を武器屋に案内する日、優季との待ち合わせ場所に近付くと、優季が既に来ているのが見えた。

 

「アイツ、早いな」などと思っていると、なんか様子がおかしい。

 アルがよく見ると、優季が男に絡まれており、かなり困っている様子。「しかたねえなあ」と呟くと優季のいる場所にゆっくり近づいて行った。

 

「おい!」

「あ、アル」優季がホッとした顔でアルを見る。


 一方で優季にちょっかいをかけていた男が憎々しげにこちらを見る。男は優季やアルと同じくらいの年頃か。身長は優季より大きいが、アルより一回り小さい。体形はお世辞にもいいとは言えず、小太り気味だ。顔も美形とはほど遠い。


「何だ! お前は。私はこのお嬢さんと話をしているのだ! 邪魔をするな!」

「いや、見ていたが、一方的に迫っていただけだろう。迷惑そうだったぞ。こいつは俺と約束があるんだ。さっさと帰れ」


「何だと、お前は私が誰だか知らんのか! フォンス伯爵家の嫡男、クレスケンだぞ!」

「知らねえなあ。さ、ユウキ行くぞ」

「う、うん」

「待て!」


 後ろで喚いている男を無視し、優季とアルは武器屋街に向けて歩き出した。


「いや~、助かったよ。もうしつこくてさ」


(今日のカッコも何つーか…。よく似合ってて可愛い。ララも可愛い方だと思うがユウキの可愛さは別格だ)   


 アルは優季の可愛らしい格好を一瞥すると、男が寄ってくるのは仕方ないと思うのだった。


 商店街を抜けてしばらく行くと、武器防具を加工販売している鍛冶屋街に出た。その中の小汚い1軒の店に入る。


「ここ?」

「ああ、あまり大きな店は商売第一だからやめとく。こういう店がいいんだ」


 中に入ると、店は無人だった。「おーい。誰か居るかー」声をかけるが返事がない。「おーい」とさらに大声を上げると、


「何じゃ。うるさい」と言いながら店主が出てきた。


 武器屋のオヤジは身長140cmほどと低いが、横幅が広く、筋肉が発達した頑健そうな身体付きをしている。顔いっぱいに顎髭が生え、厳めしい顔つきしている。


「ドワーフだ」


 優季はびっくりした顔でオヤジを見つめる。オヤジはそんなユウキを無視して、アルに話しかける。


「そんで、今日は何の用じゃ」

「ああ、この子が武器を欲しいってんでな。案内してきた」

「ん、この娘っ子が武器を? やめとけやめとけ。武器はチャラチャラした女のおもちゃじゃねえんだよ」

「あ、あの、そこを何とかお願いします」

「オヤジ、こいつは見た目によらず強えぞ」

「ほう、そうなのか? 信じられんな」


 アルは王都までの道中に盗賊に襲われて、撃退したことを話した。


「オヤジさん。実はボクの持っている武器は少し特殊で、悪目立ちしてしまうんだ。トラブルの元だって。だから、別に武器がほしいの」

「特殊とはなんだ」


 オヤジの目の前に優季がミスリルダガーとスモールソードを差し出した。オヤジはまず、ミスリルダガーを鞘から抜いた。


「うぬ、これは…。ミスリルダガーか。しかし、これほど純度の高いミスリルなぞ見たことがないわい。一体どこで手に入れた?」


「もう1本はスモールソードか。うお、こ、これはまさか…、まさか魔法剣か!」


 アルもこれには驚いた。アルも優季の持っている剣は初めて見た。美しく白銀に輝く刀身。刀身には謎の文字が刻まれている。柄には緑に輝く宝玉が埋め込まれている。宝玉からも魔法の力を感じる。こんな剣がこの世にあったのか。


「魔法剣。今よりはるか昔、魔法が今より高度に発達していた時代に作られたという。既に失われた技術なのだ。いまでは誰も再現することはできん。魔力に優れたエルフやドワーフでもな」


「なぜ、そんなものをお前が持っているのだ。どこで手に入れたのだ。たのむ! 教えてくれ!」

「ごめんなさい。それは教えられないの。ボクを育ててくれた人との約束なんです」

「どうしても、どうしてもか」

「うん。どうしても」

「…わかった」


「よし、お前に武器を渡そう。確かにお前の武器は人前では目立つ。代わりの武器があったほうがいい。そうだな…」


 オヤジは武器の棚を漁りだし、1本の剣と1本の短剣を持ってきた。


「このスモールソードは鋼製だが、並の剣より丈夫に打ってある。もう1本は両刃のナイフだ。予備としては十分だろう」

 

 優季はスモールソードを持ってみる。魔法剣より重いが何とか振り回せるだろう。手にもしっかりと馴染む。ナイフも持ちやすく、取り回しやすい。


「うん、とてもいい剣です。気に入りました。これにします。おいくらですか?」

「金はいらん。その代わり、お願いがある」


 オヤジのお願いとは、しばらくの間魔法剣を借りて調べてみたいとのことであった。優季はしばし悩んだがその希望を受け入れることにした。ドワーフにとって未知の武具に出会うということは鍛冶師としての魂が揺さぶられるのであろう。


「わかりました。ただし、ボクは王立学園を受験します。入学するまでの間まででいいですか。入学時には返してください。それまでは誰にも知られないようにしてください」

「おお、それでいい。十分だ。感謝するぞ。では、早速…」

「ミスリルダガ―は持ち帰っていいですか」

「ああ、そいつは純粋なミスリルというだけで、特別な力はないからな」


 オヤジは魔法剣を持って奥に引っ込んでしまい、放置された2人は、顔を見合せて笑い合うと武器屋を後にした。


「なあ、用事は終わったんだろ。帰るか」

「ちょっと待って、せっかく街に出て来たんだから、もう少し案内してよ。そうだ、ボク、服屋に行ってみたい!」


「はあ~、わかったよ」


 優季がアルとやって来たのは、フリフリの服が並ぶ女性向けの店だった。アルは激しく後悔した。こんなところに入っているのを誰かに見られたら生きていけないと思う。


「ねえねえ、こんなのどうかな」


 優季は嬉しそうに服を何着も見せてくる。


「あ、ああ、いいんじゃねえの…」


 正直、女性の服なんて全然わからないアルはあいまいに相槌を打つ。そのうち、優季は下着が並べてあるコーナーに行ってしまった。さすがにあそこに行くのは無理だと思い、離れたところから様子を見ていることにした。


(なんだ? ユウキが持っている下着。布が少なくてエロくないか。もしかしてあんなの穿いているのか。想像したら…マ、マズイ、マズイぞ。体の一部が…。ユウキに知られないようにしなければ…)


優季の買い物が終わるまでの間、アルはひたすら脂汗を流して耐えるしかなかった。


 服屋で優季と別れたアルは、前屈み歩きでなんとか家にたどりついた。アルの帰りを察知したララが早速やってきて、


「どうだった! 美少女とのデートは。むふふ」

 などと聞いてきたが、アルは「疲れた…」と返すのが精いっぱいだった。


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