第179話 Final battle with the dark witch(Part4:守護者達の戦い)
ユウキが目を覚ました時、暗黒騎士たち死霊兵の防御陣を突破して来た王国兵とダスティン、マヤ、助さんと格さんが激しく戦っていた。カロリーナはユウキを背にして4人に防御魔法をかけ続けている。
「こ、ここは…あっ、マヤさん、みんな…」
「ユウキ! 気が付いたの? 体は大丈夫?」
「カロリーナ。今は一体どうなっているの?」
「ユウキ? あなた…。もしかして、元に戻ったの…? 今までの事、覚えてる?」
「う、うん、覚えてる…。ララが死んで、ボクが魔女として覚醒したことも、大勢の人を傷つけ、殺したこともみんな覚えてる…。とんでもない事をしてしまった…」
「ユウキっ! ユウキが元に戻った! オヤジさん、マヤさん、みんな、ユウキが元に戻ったよぉー!」
「何、本当か!」
『ああっ、ユウキ様…。戻って来られたんですね。よ、良かった…』
『お嬢、俺は信じていたぜ! くそ、こいつらウゼってえ!』
『お、お嬢様のおっぱいが復活された! 勇気百倍!』
「ユウキー。もう、魔女のままかと思った…。戻ってきて嬉しいよー、ふええん…」
「カロリーナ…。ゴメンね、心配かけて…」
カロリーナがユウキに縋り付いて大粒の涙を流し、泣き始めた。
ダスティンやマヤたちは、ユウキが魔女から元のユウキに戻った事を喜ぶが、王国兵が間断なく攻めて来るので、対応するのに精一杯になっていた。王国兵は斬られ、突かれて倒れても、次から次へと襲い掛かって来る。その目は魔女を倒すという決意と殺意でギラギラしていて、流石のマヤたちも押され始めていた。
「みんなが危ない! カロリーナ、ボクも戦う」
そう言って、立ち上がろうとしたユウキの背後から黒い影が飛び込んで来た。
「ユウキ! お前のせいでララが死んだ! ララの仇だ、喰らえ!」
背後からユウキを狙ってきたのはアルだった。アルは、戦場を大きく迂回し、誰にも分られないよう、ユウキたちの背後に忍び寄り、チャンスをうかがっていたのだ。アルは、ララの死はユウキのせいであると信じていて、幼なじみで一時は恋人だったララの仇を討とうとしていた。
妨害もなくユウキに接近したアルと振り向いたユウキの目が合う。アルは一瞬ユウキの瞳に浮かんだ驚きと悲しみに怯むが、そのまま、ハルバードをユウキ目掛けて叩きつけた。
「ユウキ、危ない! アイス・シールド!」
カロリーナは危険を察知すると、ユウキを突き飛ばし、自身に防御魔法をかけてユウキの盾になった。全身の力を込めて振り下ろされたアルのハルバードは、カロリーナの防御魔法を撃ち破り、小柄な彼女の体に深々と食い込んだ…。
「げふっ…」
カロリーナの口から、夥しい血が吐き出される。それを見たユウキが悲鳴を上げた。
「きゃああああああ! カ、カロリーナぁー!」
「カロリーナ、カロリーナぁ、死んじゃダメぇええ、しっかりして! カロリーナぁー!」
「くそっ! カロリーナが邪魔しなければ殺ってたのに。今度こそ…」
アルは再度ハルバードを掲げた。
「小僧! ユウキはやらせん!」
その声と共にダスティンがユウキとアルの間に割って入り、戦斧でアルの胴を薙ぎ払い、体を両断した。アルは何が起こったか理解できず、最後の瞬間までユウキを見続けていたが、やがて、視界が暗転した。
「すまんな小僧。ユウキを殺させる訳にはいかんのだ」
「ア、アル…」
ユウキは倒れたアルを見て、悲しい気持ちでいっぱいになり涙を零す。
『ユウキ様、カロリーナ様に治癒魔法を!』
「かけている。かけているんだけど魔力が足りないの…。どうしたらいいの…。このままじゃカロリーナが死んじゃうよぉ!」
『……そうだ! 神剣ですユウキ様。神剣の加護を得るのです。極光はカロリーナ様の守護剣。ユウキ様の魔法と神剣の力でカロリーナ様を癒すのです。早く!』
ユウキは、カロリーナの背中から極光を抜きカロリーナの体の上に置いた。極光は黄金色に光り輝くとカロリーナを少しずつ癒し始める。ユウキもまた、残った魔力の全てを使い、治癒魔法をかけ続ける。
『マヤ、もう抑えきれん! お嬢たちを連れて逃げろ!』
『でも、そうしたら助さんたちが…』
『奴等、人海戦術で嵩にかかってきやがった! 暗黒騎士たちもほとんどやられちまった。ここは俺と格で防ぐ。お前はお嬢を守れ! 早く行け! 長くは持たんぞ』
『マヤ、助さんの言う通りです。ここは我々を信じて任せて下さい。お嬢様を頼みます』
『わかりました。助さん、格さん、ありがとう…』
『ああ、行け! お前と一緒にお嬢の世話をした時間は楽しかったぜ』
『私もです。マヤのおっぱい鑑賞が出来なくなると思うと、寂しいものがあります』
『……バカ』
ユウキはカロリーナに治癒魔法をかけていた。神剣の加護もあって傷は塞がり、顔色も少し良くなった。ただ、まだ呼吸は浅く、予断は許さない状態が続いている。
「何とか命は繋がった…。よかった…。ううっ」
『ユウキ様、カロリーナ様は如何なりました』
「うん…、命の危険は脱したよ。ただ、どこかで休ませないと…」
『わかりました。とにかくここから逃げます。私に着いて来て下さい!』
「えっ、に、逃げる!?」
『はい。ここはもう保ちません。カロリーナ様を背負って! さあ、早く!』
「でもオヤジさんたちが…」
『彼らの事はいいから急いで!』
「う、うん…」
ユウキは極光を鞘に納めると、カロリーナを背負ってマヤと手を繋いだ。マヤは助さんたちを一瞥して『ごめんなさい…』と心の中で謝ると、戦場からの離脱を図るため、ユウキを連れて走り出した。
『ダスティンのオヤジ、アンタもお嬢と一緒に行ってくれ!』
「……いや、オレはここで戦う。ユウキの逃げる時間を稼ぐ」
『バカか、ここで戦うってことは死ぬっていうことだぞ!』
「俺はユウキを自分の娘のように思ってきた。ユウキと暮らした2年半は、俺の人生の中で最も充実していた。だから俺はユウキを守りたい。なんせ娘だからな、親が娘を守るのは当然だ。それに…」
ダスティンは倒れているアルをちらと見る。
「それに、あの小僧はララの友人でユウキとも仲が良かった。俺はユウキを守るためとはいえ、小僧を殺してしまった。この責任は取らねばならん」
『そうか…、分かった。オヤジ、右を頼む。俺は中央の集団、格は左の敵だ! 行くぞ!』
『うおおっ!』
ユウキを逃がすため、助さん、格さん、ダスティンは迫りくる王国兵に向かって行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ぬおぉおおおお! やらせはせん! やらせはせんぞぉおおお!」
ダスティンは鬼神のごとく、バトルアックスを横に薙ぎ、叩きつけて王国兵を何十人も斬り裂いて倒して行った。しかし、王国兵も仲間が倒されても怯まず、複数人が同時に剣や槍で攻撃してくる。その攻撃を躱しながら、目の前の兵を斬撃で倒すと、横から戦斧の一撃が飛んできた。
「ぬっく、何奴!」
ダスティンがその一撃を防ぎ、攻撃してきた相手を見る。
「ユーリカか…」
そこにはバルディッシュを構え、悲しみを湛えた目でダスティンに対峙するユーリカがいた。
「ダスティンさん…もう止めて。武器を捨てて投降して下さい。私、ダスティンさんと戦いたくない」
「ユーリカ。気持ちは嬉しいが、俺は最後までユウキを守ると決めた。だから、お前たちをユウキの下に行かせる訳にはいかん」
「俺を止めたいと思うなら戦えユーリカ。かかってこい!」
「ダスティンさん…。分かりました、行きます!」
ユーリカがバルディッシュを上から叩きつけるが、ダスティンもバトルアックスで受け止め、力を込めて押し返す。パワー負けしたユーリカは「きゃあっ!」と小さく悲鳴を上げ、たたらを踏んで後方に下がるが、ダスティンはその隙を見のがさず、パワースラッシュを放ってきた。
「くっ!」
ユーリカは、横から飛んできたパワースラッシュをバルディッシュの柄で、辛うじて受け止めたが、ダスティンは連続してバトルアックスを叩きつけ、ユーリカは防戦一方となってしまった。
「この程度かユーリカ!」
「ま、まだまだぁ!」
何とかダスティンの攻撃を凌いだユーリカが、反攻に出てバルディッシュの斬撃を右から左から加えるも、ダスティンは難なく捌いてカウンターを当てて来る。
(くうっ、戦いの経験値が違いすぎる。もう防ぐので精一杯。このままでは…)
「きゃああっ!」
ユーリカの油断を突いたダスティンがバトルアックスでバルディッシュを絡め取り、ユーリカの手から弾き飛ばした。
「し、しまった…」
「ユーリカ、引け! 俺にお前を殺させるな!」
バトルアックスを向けられたユーリカは、2歩、3歩と後退さりし、ダスティンから少し距離を取ると腰に帯剣していたダガーを抜いて構える。
「そうか…、覚悟はいいな。ユーリカ」
そう言って、ダスティンは斬撃の構えを取り、大きくバトルアックスを振りかぶった。
「ユーリカさん、伏せて! ウィンドカッター!」
その声にユーリカが地面に伏せると、彼女の頭上を風の刃が飛び、ダスティンの体を斬り裂いた。
「ぐっ! フィーアだな…」
ダスティンが体中から血を流しながら、魔法を放った少女の名を発した時、後方から接近した王国兵によって多数の槍が背中から突き込まれ、胸まで貫いた。
「ぐ…ほっ…この…、野郎…」
「きゃああああ! ダスティンさーん!」
ユーリカの絶叫を受け、王国兵に向き直ったダスティンに、別の王国兵が何人も接近し、前と左右から剣を何本も突き刺す。
「ユ、ユウキ…。に、逃げろよ…。逃げて生きるんだぞ…。最後にお、お前の顔を、もう、一度、見…、見た…か…った…」
ダスティンは最後にそう呟くと、バトルアックスを振りかぶった姿勢のまま地面に倒れ、壮絶な戦死を遂げた。ユーリカは、倒れ伏したダスティンに駆け寄り、一言「ダスティンさん…」と名前を呼ぶと、その亡骸に抱き着いてわんわん泣き出した。
ユーリカがダスティンに縋り付いて泣いているのを見ていたフィーアは、ユーリカの事を側にいたフレッドとシャルロットに任せると、ヒルデに声を掛け、ユウキを追うことにした。
「ヒルデさん、ユウキさんを追いましょう。ユウキさんは私たちの手で…」
「……はい」
ユウキの逃げた方角に向かった王国兵を追って走り出したフィーアとヒルデの頬を涙が流れていった。




