第178話 Final battle with the dark witch(Part3:心の闇を祓いて)
少しの間体を休め、ある程度魔力が回復したユウキは、10mほど上空に飛び上がって、戦場の様子を見た。
「死霊兵は大分討ち取られてしまった…。しかし、もう死霊兵を呼び出すほどの魔力はない。……けど今なら戦場も混乱して、魔法兵も分散している。魔法攻撃を行う好機だ」
ユウキは魔法攻撃を行うため、両手を上げて魔力を練る。そして、頭上に超高温高圧の黒い玉を多数作り上げると、戦場目掛けて投げつけた。
「メガフレア!」
ユウキの魔法が着弾し、大きな爆発があちこちで引き起こされ、死霊兵も騎士団兵も一緒くたに巻き込まれ、ばらばらになって吹き飛び、酸鼻をきわめる悲惨な状況となった。それでもユウキは再度メガフレアを放つべく、魔力を練り始めた。
「う、ぐ…、げほ、げほっ…」
「イングリッド、大丈夫か?」
「は、はい…、何が起こったんですか」
「魔女だ、魔女が爆裂魔法を放ったんだ。くそ、大分被害が出たぞ…」
「マクシミリアン様!」
「ゼクス団長、無事だったか」
「ええ、それより見て下さい。再び魔女が魔法を放とうとしています。今一度、同程度の魔法を受けたら、騎士団は壊滅し、魔女の討伐は不可能になってしまいます。幸い、死霊兵も爆発に巻き込まれて大きく数を減らしました。ですので、残った魔法兵と弓兵で間断なく攻撃を続けます。その間に兵を再編し、突撃の準備を」
「わかった、采配は任せる」
「はっ、では!」
マクシミリアンが見ていると、第1騎士団の前衛から多数の矢と攻撃魔法が魔女に向かって放たれた。さらに、視線をずらすと残った死霊兵に向かってビックス団長自ら兵を率いて第6騎士団の面々が攻撃を加えていくのが見えた。
「よし、イングリッド、兵の再編を急がせるんだ。待機中の第4騎士団第2大隊を私の所に集結させろ。この兵を持って魔女を討つ!」
「は、はい…(マクシミリアン様、ユウキ様を殺すことしか考えてない。本当にいいんですか…)」
「イングリッド、ぼやぼやするな! 急げ!」
「は、はいぃ!」
「何とか、ユウキ君の魔法を防ぎ切ったな。ありがとう、フレッド、フィーア、ヒルデ」
「ですけど、私たちの魔法の範囲外の方々には大分死傷者が出たようですわ。」
「ああ、もうこれ以上、被害は出したくない」
そう話すモーガンの側に伝令兵が近づいてきて、何事かを報告した。その報告を聞いてモーガンの顔がパッと輝いた。
「みんな聞いてくれ、騎士団がユウキ君に向かって突撃する準備に入ったとの事だ。どうする、行くか?」
「もちろんです!」
フィーア、ユーリカを始め、ユウキの友人たちは即答し、突撃隊に加わるべく、移動を始めた。
ユウキはメガフレアの発動を止め、自分の周りに防御壁を展開し、自分に向けられた矢と魔法による攻撃を防いでいたが、間断なく襲い掛かって来る攻撃に防戦一方となっていた。そして、ついに耐えられなくなり、地上に降りたが、再び魔力を消費した影響で地面に膝を着き、苦しそうに喘いでいる。それでも、戦意は少しも衰えておらず、残存した死霊兵を自分たちの回りに集結させて防御陣を構築する。
「ユウキっ、大丈夫?」
カロリーナは再び消耗したユウキを支えるが、今度はダスティンたちに矢と魔法の攻撃が降り注いできた。
「カロリーナ。防御壁を張れ、全員を守るんだ!」
「は、はいっ!」
『ダスティン様、相手の様子がおかしいです。広場の中央に集結し始めています』
「うむ…覚悟を決める時が来たようだな。最後の突撃が来るぞ」
ダスティンの言葉に、全員ユウキを見て頷き、各々の武器を構えるのであった。一方、ユウキの意識は闇の中にあった。そして意識の底からユウキに呼び掛ける声が聞こえる。
(ユウキ…)
「誰?」
(ユウキ、ユウキ…)
「誰、ボクを呼ぶのは。ダーインスレイヴ?」
「あほかっ!」
「きゃいん!」
いきなりユウキの後頭部が「ぱしーん」と叩かれ、思わず悲鳴を上げたその瞬間、周りの闇が払われ、一気に明るくなった。
「なんなの!? 痛いじゃないの!」
「なんなのじゃないわよ! あんた、何やってんのよ!」
懐かしいその声にユウキが驚いて、ゆっくりと振り向くとそこには、ユウキの姉「望」がいた。
「お、お姉ちゃん…」
「私もいるわよー、えいっ!」
そう言ってユウキに抱き着いてきたのは「ララ」。突然の事にユウキは固まってしまう。
「ララ! ど、どうして…」
「私たち、ユウキの心が闇に包まれてからずっと呼び掛けていたんだけど、闇の力が強くて届かなかったの。今、ユウキの魔力は戦いで枯渇している。だから、闇の力も弱まって、私たちの声が届いたのよ」
「しっかし優季、あんた、なんちゅうーエロいカッコしてんのよ。それに何? そのバインバインの巨乳は! 何でそんなにおっぱい大きくなってんの? しかも、スタイルいいし、超美人じゃないのよ。私の体のハズなのにおかしい!」
「いや、おかしいって言われても…。それより何で2人が一緒にいるの?」
「私たち、天国で偶然出会ってね。すぐに意気投合して親友になったの。ユウキが大好きって気持ちが、2人を呼び寄せたのかな? ねー、ノゾミ」「ねー、ララ」
「偶然て…、そんなご都合主義な…」
「そんな事どうでもいいのよ! それより優季、あなた何やってんのよ。私は「この世界で幸せになって」と言ったハズよ。何故、この世界を破壊しようとしているのよ」
「それは…、この国がボクを魔女として謂れのない罪を着せて殺そうとしたから。好きな人に裏切られたから。何より、ララを、ボクの大切な親友のララを殺したから…」
「この世界が憎いと思った。悲しくて悲しくて心が闇に塗りつぶされた。ダーインスレイヴも力を貸してくれたの。全てを憎め、怒りを力に変えろって…」
「この…、スカポンタン!」
「きゃん! 痛たたた…」
ユウキは再び望に頭を叩かれて悲鳴を上げてしまった。それを見たララが、真面目な顔をしてユウキに語りかける。
「ねえユウキ。私、そんな事されても嬉しくないよ。私がユウキを助けたのは、私がそうしたいと思ったから。ユウキを守りたいと思ったからよ。死んじゃったのは結果でしかないわ。ユウキが私を大切に思ってくれて、死を悲しんでくれたことは嬉しいけど、世界を滅ぼすなんて理由にはならない」
「でも、ボクはララを殺した奴らが憎くて…。だって、ララだって将来の夢があって、幸せになるべき女の子だったんだよ! それが、あんな死に方をして。許せなかったんだ…」
「ありがとうユウキ。ユウキが私の事をそんなに想ってくれてて嬉しい。でもね、ユウキの行いは間違っていると思う。ユウキは私のお父さんやカロリーナの家族も皆殺しにするの?」
「え…、そんなことは…しない、と…思う」
「ハッキリ言いなさいよ!」望の怒りの声が飛ぶ。
「しません!」
「じゃあ、もう暴れるのは止めて。元のユウキに戻ってよ。ドジで泣き虫な可愛い女の子に戻って」
「ララ…。ボクだってもう止めたい。でも、この国の人たちはボクを殺そうとしている。ボクだってこの国の多くの人を殺めてしまった…。このまま戦おうが、止めようが、ボクを待っているのは「死」しかないんだ…」
「このバカ優季! 男女!」
「なんだよ! 酷い事言わないで! お姉ちゃんのぺちゃぱい!」
「酷いのはどっちよ。人が気にしていることを…男の子だったくせに、巨乳美少女になったからって…。でもまあ、その事は今はいいわ」
「優季、世界は綺麗な事だけじゃない。薄汚い部分もある。むしろそっちの方が多いわ。私たちのいた日本だってそうよ。昔は軍国主義が蔓延って、結果、戦争が起こり、民間人も含めて何百万人という人が死んだ。東京は空襲で焼き尽くされ、広島や長崎には原爆も落とされた」
「でもね優季。その多くの血を流したことによって、平和な、私たちのいた時代の日本がある。一つの時代を創るには、相応の代償が必要になると私は思ってる。今、この国はその過程にいるんだと思うわ。国民の血を流すことによって…」
「そうだよユウキ。マルムト王子が支配していたら、この国は戦乱によって大きく傷付いたと思うよ。きっと、今以上の多くの人々が傷つくに違いないよ。亡くなった方たちは可哀そうだけど、平和な時代を迎えるための礎になったと思うしかないんだ。私もその中の1人…。難しいけど割り切るしかないんだよ…」
「……………」
「優季、魔物との戦いも、マルムト王子の件も、そして優季が闇の力を覚醒させたことも、全てこの国が平和に繫栄していくための代償なんだよ。優季は新たな歴史を作る役割を引き受けてしまったのだと思う」
「優季、私たちがこの世界に来たのは、このためだったんじゃないかな。辛い思いを1人で抱えてさせてしまう事になったのは可哀そうだけど…」
「だけどもう十分。もう終わりにしようよ。私、ユウキがこれ以上傷つくのを見たくない。このままじゃ本当に心が壊れてしまうよ」
「お姉ちゃん、ララ…。ボク、これからどうしたらいいの…」
「優季、悪いけどそれは自分で考えるしかないわ。自分の道は自分で切り開くしかない」
「う、うん、わかったよ。でも今のボクの心はダーインスレイヴによって闇に縛られている。この闇を払わない限り、元には戻れないよ…」
「それは私たちで何とかするわ。ララ!」
「うん、ノゾミ。ユウキの心に光を!」
ユウキを挟んで前後に望とララが立つ。2人は手を繋いて輪を作り、ユウキをその中心に置いて祈りを捧げる。その瞬間、眩しい光が煌めいて、ユウキを包んだ…。
暖かい光に包まれて、ユウキの黒く塗りつぶされた心の闇が晴れて行く。そして、ユウキの心の中に2人が語りかけてきた。
(ユウキ、私はユウキを守れてよかったと思ってる。だから、私の事は気にしないで。復讐なんて忘れて楽しい事だけを思い出して。そして、ユウキはユウキの人生を送って。約束だからね、じゃあね)
「ララ…」
(優季、この世界で幸せになってという約束はずっと続いているよ。大変かもしれないけど、幸せの路を探してね。私はいつも見守っているから)
(さようなら、私のかわいい弟。私の体を優季にあげたのは間違いじゃなかったよ。さようなら、私の大好きな優季)
「お姉ちゃん…」
「2人ともありがとう。ボク…、ボク、頑張るよ」
『さようなら…。優季』