第177話 Final battle with the dark witch(Part2:憎悪の戦場)
王国軍の一角、学園生徒の部隊にも死霊兵が襲い掛かっていた。生徒たちはバルバネスを始めとした教員の指導の下、集団戦闘でしのいでいるが、実力が劣る生徒たちは徐々に、追い込まれていった。
ユーリカは戦斧で、暗黒骸骨騎士と斬り結んでいるが、相手の方が実力が高く、防戦一方となっている。頭上からの斬撃も横からの薙ぎ払いも大剣で弾かれ、また、体に当たっても多少のダメージは無視して、逆にカウンターを狙ってくる。ユーリカはこのカウンター攻撃で、傷を負う割合が増えて来た。
「う、ぐっ…隙が全く無い。何て強さですか、この骸骨騎士…。これが、ユウキさんの召還術の力なのですか…」
暗黒骸骨騎士のパワースラッシュを辛うじて防いだユーリカだったが、強烈な威力に手が痺れてしまい、大きな隙が出来てしまった。そこに、再び暗黒骸骨騎士の斬撃が迫る!
「きゃああっ!」
「ユーリカさん! トルネードランスっ!」
ユーリカの危機に、フィーアが風魔法を放つ。槍のように鋭い竜巻が暗黒骸骨騎士の上腕骨を叩き折り、装着していた鎧ごと上半身を粉砕した。
「ユーリカさん、大丈夫ですか。これ、治療薬です」
「はい、ありが…、あっ、フィーアさん危ない!」
ユーリカに駆け寄ったフィーアに、骸骨大戦士が戦斧を振り下ろしてきた。フィーアが大きく目を見開いて悲鳴を上げたその時、2人の危険に気づいたヘラクリッドが骸骨大戦士の後ろから強烈な拳の一撃を加え、頭蓋骨を粉砕した。頭を失った大戦士は、フィーアの脇に倒れ、動かなくなった。
「2人とも大丈夫ですかな。戦場が混乱していて単独行動は危険です。少し後ろに下がりましょうぞ…、ぐぶうぉおっ!」
後方に下がろうと言ってフィーアに手を差し出したヘラクリッドが、血を吐き出して前のめりに倒れそうになる。
「きゃあああ! へ、ヘラクリッドさん!」
フィーアとユーリカが倒れそうにになるヘラクリッドを支えると、その背中に骸骨大戦士が叩きつけた戦斧が深々と突き刺さっていて、大戦士が「カカカカカッ」と勝ち誇った笑い声を上げる。
「お、おのるぇええ……」
ヘラクリッドは自分に傷を負わせた骸骨大戦士に対し、最後の力を振り絞って向かって行く。その、鬼気迫る表情に、さしもの骸骨大戦士も後ろに退くが、ヘラクリッドは、大戦士の間近に迫ると、大きく振り被って、渾身の拳を大戦士の顔面に撃ち込んで頭蓋を粉砕した。
「拙者、ヘラクリッド…ムスクルス。たとえこの体が肉片、いや、血の一滴になろうと戦い続ける戦士である…。だが、拙者の命はここまで。後は頼み申した…」
「さ、最後にアル殿と…、抱擁を交わしたかった…」
学園の名物、筋肉を愛した男、ヘラクリッドは死霊兵との戦いの中で散った。その巨体にフィーアとユーリカの涙の雫が落ち、勇者の墓標となった。
「シャルロット! 骸骨兵に矢は効かない。僕の後ろに下がって」
「う、うん。フレッド、ゴメンね。役に立たなくて…」
「いいんだよ。おっと、骸骨騎士が向かってきた。アースウォール! ヒルデちゃん頼む!」
「任せて下さい! ダウンバースト!」
上空から吹き下ろした暴風に十数体の暗黒骸骨騎士が巻き込まれ、全身をバラバラにされて、動きを止めた。
「やった! やりましたー!」
「危ない! ヒルデ、避けて!」
「えっ、ひゃあああ!」
骸骨暗黒騎士を倒したヒルデが油断したところに、骸骨大戦士が戦斧によるパワースラッシュを放ってきた。ヒルデは恐怖に動くことが出来ず、ぺたんと地面にしゃがんでしまった。そこにルイーズが飛び込み、骸骨大戦士に体当たりして、ヒルデへの攻撃を逸らしたが…。
「あうっ!」
「ルイーズさん! ウォーターバレット!」
ルイーズの体当たりによって体勢を崩した骸骨大戦士に、ヒルデの水弾が無数に浴びせられ、全身の骨を砕いて破壊した。ヒルデは急いで倒れているルイーズの下に駆け寄る。フレッドとシャルロットも寄って来た。フレッドは、周囲に防壁を展開し、死霊兵の接近から、3人の女の子を守る体勢を取った。
「ルイーズ、ルイーズ。大丈夫?」
「……う、ううん。うあ、い、痛たた…」
ルイーズは、左腕を痛そうに押さえていて、ヒルデがそっと手を触れてみると骨が折れていた。
「ああ、骨が折れている…。ゴメンなさい、ルイーズさん」
「うう…、ヒルデさんが無事でよかったです。ただ、この腕ではもう戦えないかな…」
「ルイーズちゃん、これ治療薬だ。とりあえず飲んで。シャルロット、骨が折れた部分に添え木をして、包帯で固定して。あとは、一旦先生の所まで後退しよう」
「わかった。フレッド、もう少し私たちを守ってて」
「オーケー、慌てず落ち着いて治療してくれ」
フレッドはルイーズの治療が終わったのを確認すると、その場の全員を連れて戦線から後退していった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ヘラクリッド戦死の報は、教員たちにも衝撃を持って受け止められた。特に担任のバルバネスの怒りは大きかった。バルバネスは自分の大剣を手に取ると、前線に向けて飛び出して行った。
「くそ、俺のクラスからまた戦死者を出すとは…。ユウキ、お前、ここまでやるっていうのか。本当に以前のお前ではなくなったんだな。それなら俺も吹っ切れた。お前はもう俺の生徒ではない。容赦はしないぞ…」
学園生徒の窮地は続いていた。負傷して後退する生徒が続出し、中には重症の者もいて、多数の死者も出していた。しかし、ユウキによって家族を殺され、家を破壊された者も多く、ユウキを倒すという怒りの念と決意の下、その士気は高かった。もうそこには学園の人気者で男子の憧れの美少女というものは失われ、ただの憎悪の対象でしかなかった。
学園生徒に向かって、新たに骸骨大戦士の集団が襲い掛かって来た。フィーアやヒルデといった攻撃魔法が使える生徒で迎撃するが、いかんせん攻撃魔法の使い手は少数しかおらず、じりじりと骸骨大戦士が迫って来る。それを見て、ユーリカやイグニスといった、直線戦闘を得意とする者が魔術師の前に出て武器を構える。
「うぉおおりゃあああ!」
突然の掛け声とともに、モーガン率いる傭兵団が横合いから骸骨大戦士の集団を襲った。突然の出来事に、骸骨兵は対処が出来ず、右往左往しているうちに、骸骨大戦士は次々に討ち取られていった。
「ユーリカちゃん、大丈夫か!」
「はっ、はい。大丈夫です。あの…、助けに来てくれたんですか?」
「ああ、学園部隊が崩れると、一気に戦線が崩壊するからね。応援に来た」
「モーガンさん…、私のために来てくれたんですね…。嬉しいです」
(ユーリカさん、モーガンさんはそんな事言ってないです)
フィーアは心の中で呟くが、ユーリカの夢を壊さないよう、口には出さなかった。
「レオンハルトさん、どうしたの? 怖い顔をして」
シャルロットが、難しい顔をして戦線の先を見つめているレオンハルトを見つけ、気になって声を掛けた。
「ん…、シャルロットちゃんか。いや…、ユウキちゃんの事を考えていたんだ。オレは今でも信じられないんだよ。今の状況をユウキちゃんが引き起こしているって事をさ。あの可愛いユウキちゃんが、そんな事をするはずがないって思ってしまうんだ…」
「レオンハルトさん、あたしも同じ気持ちだよ。何とかユウキを助けられないかな…」
「ああ、そうだな…」
レオンハルトとシャルロットが戦線の先を見つめている間にも新たな死霊兵が向かってきた。傭兵団と学園生徒は、再び戦いに身を投じて行くのだった。