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第173話 思い出の品を探して

 王宮からダスティンの武器店の自分の部屋に転移したユウキは、頭を抱えてベッドに倒れ伏してしまった。


(だ、誰…あの男…。見覚えがあるけど、お、思い出せない…。うう、頭が痛い…)


(あの男…、ララは、ララはわたしが殺したって、言ってた…。ち、違う…。ララはあいつらに、マルムトやゲラドに殺されたんだ…。わたしが殺したんじゃない…。でも、ララはわたしを庇って、わたしの代わりに死んだ。わたしのせいなの?)


(うう、ララに…ララに会いたい、会いたいよ…。そうだ、あそこに行けば…)


 ユウキは体を起こすと、心配そうに見ていたマヤたちの中にカロリーナを見つけ、その腕を取って転移の魔法陣を展開して消えた。残されたマヤたちはあっけにとられ、空になったベッドを見ているだけだった。


 ユウキとカロリーナが転移したのは、王都の南方アクーラ要塞から少し離れた小高い丘の上。以前、リーズリットからアクーラ要塞に向かうとき、休憩を取った場所だった。ここからは要塞の全容が確認できる。


「カロリーナ、今からアクーラ要塞を破壊する…。訓練場だけ防壁魔法で守って」

「いいけど…。ユウキ、何を考えているの?」


 カロリーナの問いにユウキは何も答えず、魔法の準備に入った。それを見てカロリーナは、ユウキの言った通り、全魔力を使って、何重にも重ねた氷の防壁を訓練場と要塞の間に展開した。


「星々の終焉の力、全てを破壊せよ。スーパーノヴァ!」


 元素の崩壊限界まで圧縮された小さな光の玉が、ユウキの手を離れ、アクーラ要塞の上空に達した瞬間、凄まじい爆発が起こり、巨大なキノコ雲が立ち昇り、大量の粉塵が舞い上がった。しばらくしてキノコ雲と粉塵が収まると、爆発後には巨大なクレーターが出来ており、要塞は完全に破壊されていた。一方で、カロリーナの強力な防壁魔法に守られた訓練場だけは、無事であった。


「な、何て凄まじい魔法なのよ…。ララのエクスプロージョン以上じゃない。これがユウキの、暗黒魔法の本当の力というの…」


 呆然とするカロリーナの腕を取ると、ユウキは転移魔法を発動させ、カロリーナだけをダスティンの武器店に送り届けた。


「あ、あれ、戻って来た?」

『カロリーナ様! ユウキ様は、ユウキ様はどうなさったのです!』


「ま、マヤさん。私にもわからないよ…。ユウキにアクーラ要塞まで連れて行かれて、ユウキが要塞を破壊するから、訓練場だけ守れって」

『訓練場だけ?』

「うん。後は言われた通りにして訓練場だけ防壁魔法で覆ったら、ユウキが要塞を破壊して、私だけ送り返された」


『一体、何のために…』

「わからない。何か目的があっての事だと思うけど、心配だな…」


 カロリーナを送り届けたユウキは、転移魔法を発動して訓練場の中、天井付近に転移し、下の様子を見る。訓練場には今も王都に戻れない学園生徒が多数集まっていた。


「なあ、今の爆発音、なんだったんだ?」

「わからないよ。魔女が来たのかな…怖い」

「凄い振動だったな」


 生徒たちは巨大な爆発音と振動で、皆一様に不安そうな顔をしている。その中に、偶然訓練場に来ていたレウルス王子とフェーリス王女、親衛隊長のルーテの姿があった。


「お兄様…、今のは…」

「ああ、もしかしたら、アクーラ要塞が魔女によって破壊されたのかもしれない。くそ、要塞には数千人からの兵が詰めていたんだぞ。どうなったんだ」

「レウルス王子。それにしてもおかしいですね。何故この訓練場は無事なのでしょうか」


 レウルスとルーテが外の様子を見ようと、出入り口に向かったのを見ていたフェーリスは、背中にぞっとする気配を感じ、後ろを振り返って天井を見上げると、真紅の瞳で自分を見下ろしているユウキと目が合った。


「ユ、ユウキ様!!」


 その声に、生徒たちは一斉にユウキを見てざわざわし始める。ユウキはサッと右腕を前に出すと、召喚魔法を唱え始めた。


「闇の世界に封じられし、死の戦士たちよ。今ここにその封印を解く。我、暗黒の魔女の求めに応じ、その力を行使せよ。全ての人間に死を与えたまえ…。出でよ、高位強化死霊兵ハイスペックアンデッド!」


 ユウキの召還により、訓練場の床から魔法陣が広がり、その中から死霊兵が現れた。戦斧を持った骸骨大戦士スケルトングレーターウォーリア、巨大な両手剣ツヴァイヘンダーを持った暗黒骸骨騎士スケルトンダークナイトが合わせて10体。その凶悪な姿に、生徒たちはパニックを起こして出口に殺到し始めた。


 ユウキは、円陣を組んだ死霊兵の中心に降り立った。そのユウキに向かって、バルバネスが大剣グレートソードを振りかざして突進して来た。骸骨騎士の1体がバルバネスの一撃を大剣で受け、突進を止める。バルバネスはユウキを睨みつけて叫んた。


「ユウキ、何しに来た! 何のつもりだ!」

「お前…、王都市民を何万人も殺したそうだな! 中には生徒の家族もいたんだぞ! おまけに学園も破壊しやがって…。教員も何人犠牲になったと思っていやがる!」


「あの可愛らしかったお前はどこに行った! すっかり魔女に成り下がったのか! この大バカ者が!」


 ユウキは何の感情もない目でじっと見つめると、バルバネスに拘束の魔法をかけ、床に転がした。そして、ゆっくりと近づいて、「ララの荷物はどこ…」と聞いてきた。


「ラ、ララの荷物だと…」

「……そう、ララの荷物。どこにあるの…」

「荷物なら、あそこの舞台袖に仕舞っている。後で、実家に届けるために取ってある」


 ユウキはそれを聞くと、暗黒騎士を護衛に連れて舞台袖に移動する。骸骨大戦士はユウキの後ろで邪魔が入らない様に守りを固めている。


 ユウキは舞台袖にある荷物を一つ一つ確認して回ると、ある荷物に目を止め、それを手に取ってしっかりと抱き締めた。その荷物は花柄の小さなリュックで、ユウキがそっと中を開くと、ハンカチや櫛といった小物のほかに、可愛い髪飾りがいくつかと、黄色の縁取りがされた緑色のリボンが入っていた。


「こ、これだ。ララにプレゼントした、わたしとお揃いのリボンだ…。ララに、ララに会えた…。う、うう~」


 今まで無表情だったユウキの目から大粒の涙が零れ、ララのリュックにポタ、ポタと落ちて染みを作る。


 声も出さず、ひとしきり泣いた後、ユウキはリボンを髪に結わえると、リュックを大事に抱えて舞台袖から訓練場に降りて来た。

 再び円陣を組んだ死霊兵の中に立ち、転移魔法を発動しようとした時、1人の少女が近づいてきた。


「ユ、ユウキ様…、フェーリスです。あなたに助けていただいたフェーリスです」


「フェーリス…」その名を聞いたユウキの瞳が一層妖しく光る。


「ユウキ様。もうお止めください! 以前の優しかったユウキ様に戻って。マルムト兄さまは死んだと聞きました。ユウキ様は仇を取ったのです。もう、復讐をする必要はないはずです。これ以上殺戮を繰り返すのでは、ララさんだって悲しみます。お願い、争いはもう止めて元の優しいユウキ様に戻って!」


「黙れ! 王家の者がララの事を語るな! 知ったような口を開くな!」

「わたしはお前たちの身勝手に巻き込まれ、魔女に仕立て上げられ、迫害を受けた。それでも、わたしはこの国のために戦った。大切な人たちを、愛する人を守るために…」

「その結果がこれだ。わたしは裏切られ、大切な人を失った…。絶対に許すことは出来ない。わたしを裏切ったこの国を亡ぼす。この国に住む者を生かしてはおけない」


「フェーリス…、お前も王家の人間、わたしの敵だ。この場はララのリボンに免じて、このまま去ろうと思ったが、お前の話で気が変わった…」


「死霊兵! この女を殺せ! ここにいる者どもを1人残らず殺すのだ!」


 ユウキの命を受け、骸骨大戦士がフェーリスの前に進み出ると、頭を目掛けて戦斧を振り下ろした。

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