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第170話 王都奪還作戦

『マヤ、お嬢の様子はどうだ?』

『まだ眠っています…。召喚魔法は大分消耗が激しいようですね』

『だが、あれからもう3日だ。体の方が心配だな…』


 マヤたちが心配そうにユウキを見ていると、部屋の外から足音が聞こえ、誰かが階段を上がって来た。マヤがゲイボルグを入り口に向けて構え、警戒体勢をとる。足音はドアの前で止まると、ゆっくりと開いて、足音の人物が姿を現した。


「やっぱりここにいたのね…」

『カロリーナ様、どうしてここが?』


「ふふん、私にはユウキの所在を感知する力があるのよ。な~んてね。何となく勘かな、ユウキの事だから、きっと色々な思い出が詰まっているここしかないかなって…」


『カロリーナ様、ユウキ様は…』

「うん、分かってる。ユウキ、辛いことがあり過ぎて壊れちゃったんでしょ。だから、私はユウキを支えてあげたくて。マヤさんたちと想いは一緒…」


「マクシミリアンはね、ユウキを王国の敵と認定したわ。正式にユウキを討伐する命令を下したの…。各騎士団も同意した」


『そうですか……』

「でもね、私はユウキの味方をすることに決めたの。私の命と心を助けてくれたユウキを今度は私が助ける。最後までユウキの味方をするという、ララとの約束でもあるしね。それに、あんな王家のヤツらにユウキを絶対に殺させはしない。絶対に…」


『カロリーナ嬢、ありがとうな。お嬢に寄り添ってくれるのはカロリーナ嬢、アンタだけだ。オレたちも最後までお嬢に付き合うつもりだ』

「うん、ガンバロウ!」


「俺も付き合うぞ」

 そういって姿を現したのは、ダスティンだった。


「オヤジさん! 来てくれたの?」


「当たり前だ。ここは俺の家だぞ。それに…」ダスティンはユウキの寝顔を見る。

「ユウキは俺の娘みたいなもんだ。娘を守らない親がどこにいる。カロリーナ、もちろんお前もユウキと同じ、俺の娘だ」


「オヤジさん! ありがとう。グス…、うっうっ、うぇええ…」

 カロリーナはダスティンの胸に飛び込んで泣き出した。ダスティンはカロリーナの頭を撫でながら、優しく「なんだなんだ、お前も泣き虫になったのか」と言い、それを見て、マヤたちも笑いながらカロリーナの頭を撫でてあげるのであった。



 アクーラ要塞からダスティンとカロリーナが消えた数日後、要塞の会議室で王都奪還に向けた作戦が決行されようとしていた。


「魔女のお陰と言っては何ですが、現在、マルムト一派の戦力は大きく弱体化しています。偵察兵の報告によると、主力の第3騎士団は兵力1万程。しかも、魔女を恐れて王宮内に全戦力を置いています。また、教団兵もいますが、兵数は1千程しかなく、我々の敵ではありません」


「俺たちの兵力は第1、第6合わせて2万。倍の数で攻めることが出来る。それに、要塞にいる学園生徒から義勇軍を募っている。学園生徒は魔法が使える者が多い。十分戦力になる。王都に帰りたい者も多いから必死に戦うだろうさ」


 ゼクスとビッグスの説明に、マクシミリアンは頷く。


「準備が整い次第、王都に向けて進撃する。先鋒は第1師団、後詰に第6師団だ。第4師団の1千6百は司令部直属とし、魔女が出てきた場合の対処に当たる。輜重隊の護衛は学園生徒に担ってもらおう」


「兄上はアクーラ要塞にて、後方から輸送物資の支援をお願いします」


「皆、この戦いで王国を取り戻し、魔女を排除して元の平和な国を取り戻す。もう暫くの辛抱だ、全員の力を貸してくれ!」


 マクシミリアンの激にその場の全員が「おおう!」と答えるが、フィーアとユーリカだけは複雑な表情をして、その様子を見つめていた。



 アクーラ要塞で王都奪還作戦の決定がされていた頃、ダスティンの武器店ではユウキが目を覚ました。


「マヤさん、ユウキが目を覚ました。ユウキ、ユウキ、分かる? 私よ、カロリーナ!」

「……カ、カロ……」

「そうよ! カロリーナ。分かる?」

「……」


 再び、黙ってしまったユウキに少し落胆しながら、カロリーナはユウキをベッドから起こした。ユウキの煽情的で禍々しい鎧は消えていて、今はいつもの寝間着を着ている。カロリーナがユウキの髪を梳かしていると、マヤが食事を持って上がって来た。


『久しぶりなので、お腹に優しいスープを作ってきました』

「ユウキ、食べる? ホラ、アーンして」


 カロリーナがスプーンをユウキの口に寄せると、ユウキは小さく口を開けた。カロリーナはユウキの口にスープを流し込むと、こくんと飲み込み、表情は変わらないものの、少し頬に赤みがさしたような気がした。



 王都奪還の命が下され、1週間が経過した後、マクシミリアン率いる2万の軍団は、王都の城壁前に集合し、いつでも突入できる大勢を整えていた。部隊の最後方に設置されたテントの中で、マクシミリアンは最後の打ち合わせを開いていた。


「王都の様子を報告してくれ」

 イングリッドが何枚かの羊皮紙を持ち、目を通しながら報告する。


「えっと、マルムト一派は王宮内に引き籠ったままです。第3騎士団の主力は破壊された門の内側に配置されており、厚い防御陣を敷いているようです。また、王宮内には精鋭兵と教団兵が配置されています」

「第5騎士団を襲ってからの魔女の動きは今の所ありません。所在も不明なので、少し不気味ですね」

「王都市民は魔女が怖いのか、出歩く人は少ないようです。ただ、中央広場は瓦礫撤去のため多くの人が作業をしています。破壊された学園とその周辺は、今の所手つかずの様ですね」


「マクシミリアン様、よろしいですか?」

 ゼクスが発言を求めて来た。


「魔女を気にしていては作戦は出来ません。ここは、中央広場から大通りを抜けて、一気に王宮を目指しましょう。第3騎士団が防御陣を敷いていると言っても、大した厚みは無いはずです。間断なく攻め続けて一気に瓦解させ、王宮内に突入するのです」


「魔女が出てきたら当初の予定どおり、第4騎士団で対処をお願いします」


「うん、ゼクス、ビッグスよろしく頼む」

「1時間後に作戦を決行する。イングリッド、各部隊に命令を!」

「はい! あなた…、ではなくて、マクシミリアン様!」



(ピク…)

 ユウキは迫りくる戦いの気配に反応し、ベッドの上に立ち上がった。


「ユウキどうしたの?」

 カロリーナの問いにユウキは答えず、右手を上げて闇の衣を体に纏い、あの禍々しい鎧を身に着け、転移の魔法陣の準備に入った。


「マヤさん! オヤジさん! ユウキが何処かに行こうとしている。早く来て!」


「どうした!」

「ユウキが転移の魔法陣を展開したの! どこかに行こうとしている!」

『私たちも行きましょう! 助さん、格さん準備はいい?』

『おう!』


 ユウキが転移の魔法陣を完成させる。全員その効果範囲に入って間もなく、魔法陣が発動した。


 カロリーナたちが移動した場所は王宮の屋根の上、正門前の広場と庭園が見渡せる場所だった。正門はララのエクスプロージョンで破壊されたが、その瓦礫は撤去され、木材を組み合わせてバリケードが作られていた。


「ここは王宮の屋上…。うわ、高くて怖い」

『カロリーナ様、足元が不安定です。私に捕まっていて下さい』

「う、うん…」


『おい、向こうを見ろ。大軍団が王宮目指して進んで来るぞ!』

「きっと、王国の奪還作戦が始まったんだわ」


 ユウキは眼下のマルムト麾下の兵と遠くに見える奪還軍を交互に見ると、スッと飛び上がり、最も高い位置にある尖塔の先に降り立ち、両腕を広げて召喚魔法を行使した。


「闇の世界に封じられし、死の騎士たちよ、今ここにその封印を解く。我が暗黒の魔女の求めに応じ、その力を行使せよ。全ての人間に死を与えるのだ。出でよ、高位強化白骨騎士ペイルライダー!」


 カロリーナとダスティンが固唾を飲んで見守っていると、王宮の庭園と正門のバリケード前の地面から、大きな骨の馬に跨った白骨騎士が続々と現れた。そして、庭園に現れた白骨騎士は第3騎士団に、バリケード前に出現した白骨騎士はマクシミリアンの部隊に向かって突進していった。


 召還を終えたユウキがみんなの下に降りて来ると、真紅に燃える瞳を輝かせる。


「マルムトとイズルードを殺す…」

 そう言って転移魔法を発動させ、屋根の上から消えた。

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