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第167話 魔女降臨

 カロリーナはパニックになった群衆に突き飛ばされて処刑台の下で転んでしまい、背中を強かに打って息が詰まって、起き上がることが出来なかった。やっと普通に息が出来るようになり、身体を起こそうとした時、処刑台の上から何かが体の上に「ドサッ!」と落ちて来た。


「うわっ! いたた…。なに、何が落ちて来た…の…。ひいっ!」


 カロリーナが自分の体の上に落ちて来たものを見た。それは身体を斜めに切り裂かれ、下半身を失った1人の少女の亡骸。切り口からは血が飛び散り、内臓や背骨がはみ出して無残な姿となっている。その凄惨な姿にカロリーナは、地面に向けて何度も嘔吐した後、何とか気持ち悪さを堪え、恐る恐る亡骸となった女の子の顔を確認すると…。


「きゃああああああ! ララ、ララ! しっかりして!」

「どうして…、どうしてこうなったのよー! ララ! ララァーー! うわああああっ」


 変わり果てた姿となったララを抱き締め、カロリーナの絶叫が響き渡った。


 フィーア、ユーリカ、それにマクシミリアンたちも処刑台の上で起こった事に意識が付いて行かず、呆然として見つめていた。


「ふぃ、フィーア…さん。ラ、ララさんが、ユウキさんを庇って…からだが…」

「ああ……」

「あっ! フィーアさん、しっかり!」


 フィーアがあまりのショックに気を失って倒れそうになるのをユーリカが慌てて支える。フェーリスやイングリッドたちも青ざめて立ち竦み、言葉を発することが出来ないでいた。



 処刑台の上、助さんがユウキの背中を叩いて呼びかけるが、ユウキはララの血で真っ赤になりながら、ララの下半身とかき集めた内臓を抱き締めて蹲っている。


(ララ、ララ。どうしたの? どうして返事してくれないの? 体…、半分どこ行ったの?)


(ララ…、ララァ…どうしてボクを庇ったのよぉ…。どうして死んじゃったのよぉ…)


(ララ、ボクの大切なお友達…。ボクの初めてのお友達…。辛いときも悲しいときも、いつもボクを明るく励ましてくれた…。いつもボクを支えてくれたかわいい女の子。将来はお父さんと一緒に魔具屋さんをするのが夢って言ってたのに…。ボクの、ボクの大切な大切な宝物……)


 その時、ユウキの心の奥で「パリン…」と何かが壊れる音がした。


(許さない…許さない…許さないぞ。ボクの大切な人を奪った者を、自分たちの欲望のためにボクを巻き込み、ボクを魔女と決めつけ、あまつさえララの命を奪った者たちをボクは絶対に許さない。そう、絶対に許すことが出来ない!)


 助さんは集まって来た教団信者や騎士たちからユウキを守るために戦いながら、ユウキの様子を見ていたが、ユウキの体から黒い霧のようなものが出ていることに気づいた。


『何だ? お嬢の体から黒い霧が出ているぞ…、イヤな予感がする。マヤ! どこにいる。早く来てくれ! お嬢がおかしい!』



 ユウキの明るく優しい、そして何よりも自分の大切な人を守りたいという気持ちを持って美しく輝いていた心の光が消え、深淵の底から湧き上がって来たような、どす黒い闇で覆われて行く。その闇の中からユウキに語りかける声がする。


『憎め…』


「………」


『憎め…』


「誰…?」


『憎め…。お前から大切なモノを奪った奴らを憎め…』


「誰なの?」


『我が名はダーインスレイヴ』


「ウソよ。ダーインスレイヴはクレスケンと一緒に葬ったはず」

『そうだ…。だが、お前は我を葬るとき、我の欠片で怪我をした。その時、我の思念がお前に入り込んだのだ』


「………」

『本体を失った我は間もなく消える…。だが、最後にお前に力を与えよう…』


「力を、ボクに…?」

『そうだ。お前の憎しみを具現化させる力だ。お前が無意識に抑えている暗黒の力を解放させてやろう…』


『その力でお前から大切な者を奪った奴らを皆殺しにするがいい。自分たちの欲望のため、お前に無実の罪を着せて殺そうとした国を破壊すればいい。お前の愛と信頼を裏切った男を殺せ。憎め! 恨め! 憎しみを力に変え、怒りを爆発させるのだ!!』


「ボクを迫害し、ララを殺した奴らを、ボクの愛を裏切った男を殺す…。そうだ…殺す! 殺してやる! こんな国滅ぼしてやる! ダーインスレイヴ、ボクに力を!」



『カロリーナ嬢! ご無事ですか!』

「うう、グスっ、ううっ…。ララ…、ララァ…」

「か、かくさん…、ララが…、ララがぁ~」

 カロリーナはララの亡骸を抱いて泣き崩れている。


『カロリーナ嬢、ララ嬢はユウキお嬢様を助けに入って司教に斬られたのです。ララ嬢はその身を犠牲にしてユウキお嬢様を助けて下さった…。感謝してもしきれない。さあ、ここを離れましょう。ここにいてはあなたも危ない』


「うう、ララ…、ララらしい…。いつもユウキの事考えて…。でも、死んじゃったら何にもならないよ…。バカぁ…」


 格さんが優しくカロリーナを立たせると、そこにダスティンとオーウェンが駆け寄って来て、身体が切断されたララとそれを抱くカロリーナ、その側に凶悪な格好をしたスケルトンが立っていたことに驚いた。


「ラ、ララ…。カロリーナ! ララはどうしたんだ。お前は大丈夫なのか!」

「この化け物! お前がララを殺ったのか! カロリーナから離れろ! ぶっ殺してやる!」


 ダスティンとオーウェンが格さんに詰め寄るが、その前にカロリーナが立って泣きながら2人を止める。


「止めて! このスケルトンはいい人なの! マヤさんと同じ、ユウキの育ての1人なのよ」


『そういう事です。ここは危険です。何か良くない事が起こる気がします。早く移動した方がいい。お二方、カロリーナ嬢とララ嬢をお頼みします。私はユウキお嬢様の元に向かいます』


「お、おう…」

 ダスティンはやっとのことで返事をすると、格さんは頷いてユウキの元に向かった。 


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


『はあああっ!』

「ぬん!」


 マヤとマグナは激しい戦いを繰り広げていた。マヤはゲイボルグを素早く突き出すが、マグナは大剣と体捌きで全て躱し、反撃してくる。マヤはゲイボルグの柄でマグナの反撃を防ぐが、一進一退の攻防が続いていた。


「ふん、不死体ゾンビのくせにやるな。そう言えば昨夜のスケルトンもそこそこ強かったが、お前たち一体何者だ」


『私はユウキ様の側に仕える者。名前はマヤ。ユウキ様が付けて下さった大切な名前です。私はユウキ様を助けなければならない。邪魔をしないでください』


「そうはいかない。魔女はマルムト様の、この国の敵。魔女の仲間であればお前も敵だ。今ここでお前を倒す!」

『そうはいきません! 貴方との戦いもいい加減飽きてきました。決着をつけることにします。覚悟してください!』


 マグナが咆哮と共に一気にマヤの元に踏み込んできて、猛烈な勢いで大剣を振り下ろしてきた。

「喰らえ! 神速の剣、飛竜空烈斬!」


 マヤはゲイボルグを体に寄せて防御するとともに、バックステップで後ろに下がる。


『よしっ、躱した…。えっ、ウソ!』


 剣の範囲から逃げ出せたと思ったマヤだったが、マグナの大剣はさらに伸びてきて、マヤに迫って来た。


『きゃあっ!』


 マグナの必殺剣をかろうじてゲイボルグで防いだマヤだったが、凄まじい剣の威力に押し飛ばされて地面に転がされてしまった。


「ちっ、浅かったか…」


 マヤはゲイボルグを支えに立ち上がる。その時、ドレスの右胸の部分がはらりと捲れ、胸が大きく見えてしまってた。


『……! このスケベ野郎、もう許さない。私も必殺技でお返しします!』

『ゲイボルグ!夜空に流れる星々のように敵に降りそそげ!』

流星槍りゅうせいそう!』


 マヤはゲイボルグを空高く放り投げた。上空高く飛んだゲイボルグは10本に別れ、マグナ目掛けて一気に降り注ぐ。そのさまは正に流星雨の様であった。

 マグナは、降り注ぐゲイボルグを跳ね飛ばそうと剣を振るったが、剣が当たった瞬間、ゲイボルグが消えた!


「幻影か!」

『そうです!流星は夜空に光る星々の幻影、ホンモノはここです!』


 マグナが目を向けると、いつの間にかゲイボルグを構えたマヤが目の前に迫っている。マグナが迎撃しようと剣を向けたが、時すでに遅く、ゲイボルグはマグナの心臓を貫いていた。


「ぐ、ふ…。ま、まさかこのオレが、ここ…で、終わるなんて…な。見事だ…、マヤ」

『貴方も素晴らしい剣士でした。さらばです!』


 戦いを終えたマヤはマグナに敬意を捧げると、ユウキの元へ駆け出した。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 処刑台の上で助さんは困惑していた。また、ユウキを殺そうと集まっていた教団信者もマルムト麾下の騎士も同様であった。


「お、お嬢…、どうしたんだ。どうしたんだ一体!」


 助さんが声をかけると、黒い霧を纏ったユウキが立ち上がり、上空に飛びあがると「うわあああああああ!」と大きな叫び声を上げた。その瞬間、手足に掛けられた枷も魔法を封じる首輪も塵となって消滅し、闇がユウキを包んで周囲に猛烈な勢いで広がり始めた。


「ま、マズイ!」


 助さんは処刑台から飛び降り、離れるため走り出した。そして、こちらに向かってくるマヤを見つけると、すれ違いざまに腕を掴みんでマヤを止めた。


『マヤ、行くんじゃない! お嬢から強烈な負の感情が具現化して溢れ出ている。飲み込まれると消滅するぞ!』

『そんな…、ユウキ様! ユウキさまぁーー!』

『格、聞こえるか? お前もお嬢から離れろ!』


 ユウキを中心に広がった闇は周囲の物を飲み込み、消滅させて行った。ララの半身も、ゲラドや執行人の死体も、教団信者や騎士たちも全て、死する者、生きる者の隔たり無く、黒い塵となって消えて行った。


 その様子を広場の北側でマルムトやイズルード、アイリが、南側でマクシミリアンたちとダスティン、カロリーナが、少し離れた場所で合流を果たしたマヤと助さん、格さんが呆然として見ていた。そして、その全員が同じ言葉を口にした…。


「あれは一体何だ…。何が起こっているんだ…」



 中央広場にいた全員が固唾を飲んで見守る中、周囲に広がっていた黒い霧が爆発的に拡散した。そして、その中から現れたのは、身体のほとんどを露出し、胸と腰回り、膝下だけを禍々しい鎧で覆い、黒い髪を靡かせ、血のような真っ赤な瞳で無表情に周囲を見つめるユウキだった。

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