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第165話 魔女裁判(前編)

「マクシミリアン様に出会うとは僥倖でしたわ。実は王都にどうやって入り込もうかと悩んでいたところでしたの」


 フィーア、ユーリカたちとオーウェン、ダスティンは偶然、フェーリス王女救出に向かうマクシミリアン率いる部隊と王都の手前で出会い合わせ、一緒に行動することになった。そして親衛隊長ルーテの案内で城壁の外から王都内に抜ける隠し通路を使って、侵入を図っているところだった。


「しかし、王都の地下にこんな大規模な隠し通路があったなんて驚きだな」

 オーウェンが周囲を見回し、驚きを隠せない様に言う。


「これは元々王族の緊急避難用に作られたもので、代々の国王と親衛隊長の秘密とされてきたのです。今回の政変でも、この通路を使って国王様たちを逃がすつもりだったのですが、私の力が及ばなかったばかりに…」


「気にするなルーテ。その時に使わなかったお陰で、今こうして王都への侵入を果たすことが出来る。さあ急ごう。グズグズしているとフェーリスの処刑が始まってしまう」

「はい、マクシミリアン様」


「マクシミリアン様、処刑は恐らく中央広場で行われると思います。そこに向かって救出のチャンスを伺いましょう。王宮は警備が厳しく侵入は困難と予想されますので」

「ああ、イングリッド、君の言う通りだ。ルーテ、案内を頼む」

「はい。中央広場へはこの先の分岐を左です」


「フィーアさん、ユウキさんをどうやって探します?」

「そうですね…、ユウキさんもフェーリス様の救出に来るはずです。ですから、私たちもマクシミリアン様と行動を共にしましょう」

 フィーアの言葉にユーリカ、ヒルデ、ルイーズが頷く。


(ユウキ、早まったことをしていないだろうな。俺が行くまで無事でいろよ)

 ダスティンは悪い予感がして自然と速足になるのであった。



「カロリーナ、マヤさん、助さん格さん。処刑台が中央広場に設置されたわ」

「うん、それじゃあ目立たない様に行きますか」

『はい』


 偵察から戻ったララの報告を聞いて、カロリーナ、フェーリスと3人のアンデットたちも、ユウキを救出するため中央広場に向った。


(ユウキ、待っててね。必ず助けるから)



 中央広場の中ほどに、10m×10mの広さの大きな処刑台が設置されている。高さも2mほどあり、遠くからでも処刑の様子が見えるようになっている。また、その左隣に処刑台を見下ろす位置に豪華な椅子が置かれた見物台が併設されていた。

 処刑台の周辺は多くの王都市民でごった返していて、一種異様な雰囲気となっている。


 マクシミリアンたちは、中央広場から少し外れた建物裏のマンホールから地上に出て人混みの最後方、建物と建物の間の路地に目立たないように身を隠し、処刑台を望んでいる。


「この人混みでは処刑台に近付くのは容易ではないな…」

「マクシミリアン隊長、その時は我々が騒ぎを起こします。隊長はその隙に姫様を助け出してください」

 ラブマンの申し出にマクシミリアンは少し考え、とりあえず保留することにした。


「フィーア、ユーリカ。俺たちはユウキが出てきたら助けに入るぞ。準備をしておけ」

「はい、ダスティンさん」

 フィーア、ヒルデは魔法の準備をし、ユーリカ、ルイーズはそれぞれ武器を構えてその時を待つ。



「凄い人だね…」


 マクシミリアンたちの反対側にララ、カロリーナとフードで顔を隠したフェーリスが来ていたが、あまりの人出に驚いていた。マヤと助さん、格さんは別行動を取って処刑台の近くの目立たないところに隠れてる。


「ねえ、あれフィーアじゃない?」

「え、ウソ…、ホントだ。ユーリカやマクシミリアン様もいる」

 カロリーナが目ざとくフィーアの姿を見つけると、ララもフィーアだけでなくマクシミリアンの姿を確認した。


「フェーリス様、マクシミリアン様がいました。行ってみましょう!」

 ララがフェーリスの手を引いて、目立たないように人混みに紛れながらフィーアたちの元に向かう。


「お兄様!」

「ふぇ、フェーリス!? 捕まっていたのではなかったのか。何故ここに?」

「はい、昨夜ユウキ様たちに助けていただいたんです。そして今までララ様とカロリーナ様に匿って頂いてたんです。私が今、こうしていられるのはユウキ様のお陰です。本当に感謝しています。ですけど…」


「ララ、カロリーナ。ユウキはどうした」

「オヤジさん、ユウキは…」

「だから、ユウキはどうしたって言うんだ!」


 2人の周りにダスティン、オーウェン、フィーアやユーリカたちが集まってユウキの姿が見えないことを問い質すが、ララもカロリーナも黙ってしまい、中々答えない。2人はやっと声を出して処刑台を指さした。


「ゆ、ユウキは…、あ、あそこ…」

 ララとカロリーナが指示した場所を見たダスティンが青ざめる。


「ま、まさか…。そんなバカな…」



 広場に集まった全員が見守る中、見物台にマルムトやイズルード、マグナが上がり、手で合図すると、ゲラド司教が処刑台に立ち、にやけ顔で集まった民衆を見回した。


「本日の公開処刑は国に仇なした王族の娘、フェーリス王女の予定であったが、昨夜、ここに御座すマルムト様の手により、国を混乱させ、民衆を苦しめた悪なる存在「黒髪の魔女」を捕らえることが出来た!」

「よって、今から魔女の取り調べを行い、その罪を白日の下に晒すこととする! ここに集まりし者たちよ、汝らを苦しめた魔女に正義の鉄槌を下すのだ!」


 処刑台の周りに集まった民衆が当初の予定が変更されたことに一瞬騒めくが、魔女と聞いて「うおおおお!」「魔女に鉄槌を下せ!」「魔女を生かしておくな!」と一斉に声を張り上げた。


「くそ、マルムトの奴め、何てことをするんだ。ユウキ君をフェーリスの代わりに処刑台に上げるとは…」

「まるで王様気取りですね。マクシミリアン様、いかがなさいます?」

「イングリッド。もう少し様子を見ることにしよう。その旨、皆に伝えてくれ」

「はい、わかりました!」


「カロリーナ、私一番前に行ってみる」

「えっ、待って。私も行く」


 ララとカロリーナは処刑台のすぐ下に向かうため、大勢の民衆の中に潜り込んで行った。



「さあ、魔女をここに!」


 ゲラド司教が合図をすると、大きな首切り斧を持った執行人がユウキを連れて処刑台に上がって、ユウキを乱暴に台上に転がした。


「あうっ!」


 ユウキは叩きつけられた痛みで顔を顰めた。また、起き上がろうとしても両腕を手枷で固定されているため、中々体を起こす事が出来なかったが、それでも何とか四つん這いになり、処刑台の上から周りを見回すと、そこには憎悪に満ちた目を向けて来る大勢の人々がいて、ユウキは「ひっ!」と短く悲鳴を上げた。



「ユウキっ! 何て事しやがる!」

「待て、ダスティン! 今飛び出して暴れたら、奴らは直ぐにでもユウキを殺すぞ!」

「クソっ!」


 ダスティンはユウキを助けようと飛び出そうとしたが、オーウェンに止められ、鬼の形相をして処刑台上のゲラドらを睨みつける。


「お兄様、ユウキ様を助けて。お願いします。ユウキ様を助けて下さい!」

「マクシミリアン様、私たちからもお願いします。ユウキさんを助けるため、手を貸してください! ユウキさんを助けて…」


 フェーリスもフィーアたちもマクシミリアンに縋り付くような目を向けてきて懇願するが、マクシミリアンは思案に沈んだ表情で、ユウキを見つめている。


(フェーリス救出という目的は達せられた今、直ぐにでもここを離れるべきだろう。しかし、それではユウキ君が処刑されてしまう。フェーリスの恩人の彼女を犠牲にしていいのか? 何とかしたいが、戦えばまたフェーリスを危険に晒すことになる。どうすれば…)


「マクシミリアン様、今すぐここを離れるべきです。見てください、処刑台の後方には騎士団の大部隊が控えています。あれは、きっと私たちが来ると見込んで、捕えるために配備していると思われます。フェーリス様の御身を確保できた今、ここに長く留まるべきではありません」


「私もそう思います」

 イングリッドの進言にルーテも賛同する。


「何ですって! ユウキさんを見捨てろっておっしゃるの!」

 フィーアとユーリカが気色ばんでイングリッドに詰め寄ったが、イングリッドは平然と言い放った。


「私はマクシミリアン様の副官です。正しいと思われる事を言ったまでです」

「こ、このちんちくりん女、許さないです!」

「誰がちんちくりんですって! 乳がデカいからって生意気よ!」


「止めんかお前たち! 今は争っている時ではないぞ!」

 ダスティンの怒声にイングリッドとユーリカは「むむむ」と睨み合う。


「……もう少し様子を見よう」

 睨み合う2人を一瞥し、マクシミリアンは様子を見ることに決めた。



『ユウキ様!』

『待て!』ユウキの元に飛び出そうとしたマヤを助さんが抑えた。

『今はマズイ。お前が出た瞬間、お嬢が殺されるぞ。もう少し様子を見るんだ』

『うぐぐ…、ユウキ様…』



「さあ、魔女を断罪する時が来た。今から魔女裁判を執り行う!」


 ゲラド司教が高らかに宣言し、民衆が怒号や罵声をユウキに浴びせる。人々の喧騒が最高潮に達した今、魔女裁判が始まろうとしていた。

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