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第162話 王都潜入

 アクーラ要塞を出発し、昼夜歩き続けて2日目の夜、ユウキとマヤ、ララ、カロリーナは王都を取り囲む城壁に辿り着いていた。4人は人目に付かないよう、背丈の高い草むらに隠れている。


「ユウキの治癒魔法による筋肉強制治癒運動による歩行はキツイ…。肉体は大丈夫でも心が死ぬ。休みなしなんて鬼か! このおっぱい鬼!」

「でもぉ、そのお陰でぇ~、予定より早く着いたですしぃ~」

「ユウキ、その言い方止めなさい。無性に腹が立つ」


「あはは、ごめんごめん。でも早く着いたのはホントに良かった。処刑の日まで、まだ3日あるから何とかなりそう」

『ユウキ様、ここからどう侵入するのですか? さすがに門は警備が厳しそうですよ』

「うん、実はね…、この先に城壁が崩れて中と外が通じている所があるんだ。人目につきにくい場所だから、そこから侵入できると思うよ」


「アンタ、よくそんな事知ってるわね」

 カロリーナが感心したように聞いてきた。


「訓練で毎日早朝に城壁周辺を走っていたからね。カロリーナも一緒だったはずだけど」

「私はユウキに付いて行くのが精一杯で、周りを見る余裕なんてなかったわよ」


『しっ! 城壁の上、警備兵です』


 ユウキたちは壁際に身を寄せ、草むらに深く屈んで警備兵をやり過ごした。


「行こう、こっちだよ」

 マヤたちはユウキの後を静かに付いて行く。北東方向へ壁伝いに行くと、確かに城壁が高さ2m、幅50cmほどの亀裂となっている場所があった。


「ここから侵入できるはず。トンネルは高さはあるけど幅が狭いから、横になって進むしかないね。荷物は全部マジックポーチに入れてしまおう。じゃあ、ボクから行くね」


 ユウキが体を横にして亀裂に体を潜り込ませるが、中々奥に進むことが出来ず、悪戦苦闘している。


「どうしたの。全然進まないけど、何か問題があったの?」

「いや…、おっぱいが亀裂に入らなくて…。はは、大きいのも困りものだね」

「じゃあ、少し削りますぅ? 私みたいに平らにしましょうか?」

 カロリーナが一瞬で冷たい目になり、ユウキの胸を見て、ナイフを取り出した。


「カロリーナ、目が怖い、目が怖い。ナイフ仕舞って」


『しかし、困りものですね。ユウキ様で入れないなら、私じゃもっと無理です。ララ様とカロリーナ様は全然大丈夫そうですけどね。おほほほ』

「こ、この超乳力者ども…、乳が垂れる呪いをかけてやる…。神様、どうかユウキの乳を萎びた大根のようにしてください。お願いします!」


 呪いをかけているカロリーナを除く3人で亀裂を調べていると、ララが「あっ!」といって、地面を指さして言った。   


「ここ、地面の近く幅が広くなっているよ。ここならユウキとマヤさん入れるんじゃない。ただ、腹這いになって進まなきゃだけど」

 ユウキが確認すると、確かに腹這いになって進めば通れそうだ。


「じゃあ、私とカロリーナから先に入るね。安全を確認したら合図するから」

 といって、ララは体を横にして亀裂に入って行った。


「次は私ね。あら、胸が小さいからすんなり入るわ、無駄にデカいと大変よね、ほほほ」

「イヤな笑い方をするなあ。あ、ララから合図が来た。ボクから先に行くよ」


 ユウキは腹這いになって、ずりずりと匍匐前進して行く。湿った土の匂いが鼻につき、得体の知れない小さな虫が体に這い上ってきて気持ち悪い。それでも少しずつ前に進んで、城壁の内側に到着した。


「うへぇ~、泥々だあ、ああ、虫も服のあちこちに集ってる。もう、やだなあ」

「ユウキ大丈夫? マヤさんに合図するよ」

「あ、うん、お願い」


 ララがマヤに来るよう合図を送る。しばらく待つとマヤもずりずりと匍匐前進でやって来た。


『はあ、結構大変でした。服は汚くなるし、お尻がつかえて進み難くて…』

「ああ~、マヤさんお尻も結構バインバインだもんね」

『ユウキ様、その言い方、少しイヤです…』


「しっ! 誰か来る。警備兵かも」


 周囲の様子を伺っていたカロリーナが小声で教えて来た。ユウキは素早く辺りを見回し、隠れることのできそうな物陰を見つけ、全員にそこに隠れるよう指示する。全員、息を殺して様子を伺うと、2名の騎士団兵が灯りを持って歩いてくるのが見えた。


(亀裂を調べられたら何者かが侵入したことが分かられてしまう…。さっさと向こうへ行って)


 警備兵は動くものがいないか確認しただけで、亀裂には気づかず、直ぐに別な方へ行ってしまった。ユウキはホッとして大きくため息をついた。


「ねえ、ユウキ。これからどうするの?」

「うん、動くのは明日にして、今日は作戦を考えながら体を休めよう。そのためには拠点が必要だね…。そうだ、ボクたちの家に行ってみない?」

「うん、わかった」

『私も異存はありません』


 4人は夜の闇の中を物陰に隠れながら慎重に進む。途中、巡回中の警備兵がいたが、うまくやり過ごした。商店街の大通りを走り抜け、久しぶりにダスティンの武器店に到着すると素早く裏口に回って周りに人がいないこと確認し、とりあえず一息ついた。


「やっと着いたね。いやー、ハラハラドキドキの連続だった」

「ふふ、ララったら。マヤさん、家の中に入れる?」

『はい、確か鍵の隠し場所は…。あ、ありました』


 家の中は真っ暗だったが、久しぶりに嗅ぐ家の匂いにユウキは懐かしさを覚えた。マヤはロウソクに火を灯して周囲を確認する。


『王都が占領された時、略奪が行われたと聞いていましたが、ここは大丈夫の様ですね。ただ、用心のため、余り灯りは使わないようにしましょう』

『お腹が空いたでしょう。何か簡単なものを作りますね』


「おっと、その前に私たちお風呂沸かして入らない? 昼夜走り通しで埃だらけの汗だくだし、ユウキとマヤさんに至ってはドロドロだよ」


 カロリーナの提案を受け入れたユウキたちは、井戸から水を汲んで、音を立てないように湯船を満たし、湯沸かしの魔道具を使ってお風呂を沸かし始めた。


「疲れた…。少し休憩したいね。でも、お風呂の番はどうしよう」

「仕方ない、ホントはイヤだけど、あのコンビを出すか。見張り番も必要だしね」


 ユウキはそう言って、ネックレスの宝珠を握り締め、2人のスケルトンを強く想うと、黒い空間が現れ、その中から助さんと格さんが現れた。


「おおー、助さんと格さんだー」

 カロリーナは2人のスケルトンの出現に大喜びだ。


「早速で悪いんだけど、助さんは裏庭で見張りをお願い。格さんはお風呂の火の番をして」

『任せとけ』

『私にとって最高の仕事です!』


 助さんと格さんがそれぞれの仕事に向かったのを見届けると、全員、汚れた服を脱いで下着姿になり、リビングの椅子に座る。少しはしたなかったが誰も見ていないと割り切った。お風呂が沸くまでの間、フェーリスの救出について話し合う事にした。


「ねえ、ユウキ。フェーリス様の救出ってどうするの?」とララがユウキに聞いてきた。

「うん、フェーリス様は恐らく王宮の地下牢にとらわれていると思う。問題はどうやって王宮に潜り込むかなんだよね」

「王宮には、いっぱい騎士団が詰めているから、簡単には近づけないよね…。何か、騎士団の気を引くことがあればいいんだけど」


「それだカロリーナ! 王宮の連中を1ヶ所に集めて、その隙に潜り込めばいいんだ」

「でも、どうやって?」

「うーん…、そうだ! ララのエクスプロージョンで王宮の門を派手に破壊しよう。そうすると門の所に注意が行く。そこに助さんと格さんが王宮の庭に突入して、暴れまわって混乱に拍車をかけるんだ」


「その隙にボクとマヤさんが王宮に忍び込んで、フェーリス様を救出する」


「私とカロリーナは、どうするの?」

「ララとカロリーナは、王宮の裏門の近くに移動して隠れてて。ボクたちがフェーリス様を連れてきたら引き渡すから、ララとカロリーナはフェーリス様を逃がす役目をお願い」


「ボクとマヤさんは追っ手がいたら食い止める。後は頃合いを見計らって撤退する」

「き、危険よ! ユウキとマヤさんだけじゃ無理だわ。囲まれたらどうするのよ」

「ララ、ボクに暗黒魔法があることを忘れてない? 大丈夫だよ。マヤさんもいるし」


「無理はしないでね。絶対よ」

「うん、無理はしない。約束する」


 一通り明日の予定を話し終えた頃『お嬢様方、お風呂が沸きましたぞ』と格さんが呼びに来たので、4人で一緒に入ることにした。


「格さん。お風呂にはマヤさんも一緒に入るから、覗いたらどうなるか分からないよ」

『ほっほっほ、流石の私もマヤを覗いたらどうなるか理解しているつもりです。私も命は惜しいですからね』


「ぷくく、スケルトンが命が惜しいって、どういう事よ」

「うふふふ、ユウキの仲間たちって面白いわよね~」


 ララとカロリーナは、格さんのふざけた発言に笑い出してしまった。それを見たユウキもマヤも釣られて笑ってしまうのであった。


 すっかり体もキレイになって、疲れも軽くなったユウキは久しぶりの自室で、美容魔具を使って自分磨きをした後、ベッドに入った。


(しばらく干していないから、お布団、少し湿ってるな。でも、地面や訓練場の床の上に比べたら天国だよ。とりあえず、ゆっくり眠ろう」

(明日はフェーリス様を何としても助けなきゃ。きっと辛い思いをしているはず。もう少しの辛抱ですからねフェーリス様…)



 王宮の地下牢では、フェーリスが明り取りの窓から見える暗い夜空を眺めている。両親が処刑されてから心労が祟り、食欲がなく大分やつれている。それでも生きたいという気持ちは強く、希望は捨てていない。


(私の処刑の日が近づいている…。でも、きっと助けは来る。希望は絶対に捨てない。最後のその一瞬まで…)

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