第161話 決意を胸に
アクーラ要塞で再建を図るマクシミリアンたちに、国王夫妻が処刑され、第1王女フェーリスが王都の中央広場で公開処刑されるという知らせが入り、その場の全員が衝撃を受けていた。
「ち、父上と母上が…。斬首の上、晒し首に…。くそっ、何ということだ!」
「これで、マルムトのヤツがこの国の王か。今度は我々の方が反逆者と言うことだな」
マクシミリアンとレウルスが怒りと諦めの入り混じった声で呟く。
「父上と母上は失ったが、フェーリスは何としても助けたい。処刑まであと5日しかない。皆、協力してくれないか」
マクシミリアンはその場にいる全員を見回して言うが、誰も何も言わずマクシミリアンやレウルスをじっと見つめている。
「ど、どうした…。皆、何故何も言わない…。協力してくれないのか?」
マクシミリアンのその言葉に、ゼクス団長がゴホンと咳払いをして口を開いた。
「マクシミリアン様。国王夫妻亡き今、マルムト様が正式にこの国の王に名乗りを上げ、承認されれば我々はマルムト様に従わなければなりません。騎士団は国に、国王に仕える者。もし、国王から旧国王一家を捕らえよと命令されたら、我々はあなた方を捕まえなければならない」
「…………」
「レウルス様、マクシミリアン様。僭越ながら申し上げます。お2人には隣国へ亡命なさるようお勧めします」
「なに、亡命だと!」
「フェーリス様はお助けできません。なれば、国の命令が下る前にお2人には亡命いただき、命を存え、再起を期していただくのがよろしいかと存じます」
「亡命…。しかし、その場合、フェーリスを見殺しにすることになる。フェーリスを…」
マクシミリアンがゼクス団長の言葉にショックを受け、フェーリスを見殺しにするという選択肢を突きつけられたことに動揺し、目を閉じて考え込んでしまった。
「マクシミリアン様…」
「…………」
レウルスとイングリッドが見つめる中、マクシミリアンは意を決したように目を見開いて、椅子から立ち上がって大声で叫ぶ。
「私はフェーリスを助けに行く! 妹1人救えないで何が王位継承権者だ!」
「私はこの国を愛し、この国の平和を愛した国王マグナスの息子。この国の平和と安定を守るため、戦う義務がある。そしてまた、家族もまた大切な存在だ。マルムトは実の親を非情にも殺した。私は家族を愛している。フェーリスを見殺しにしたら私はマルムトと同じになってしまう。私はフェーリスを必ず助け出す!」
「よく言った、マクシミリアン! オレも一緒に行くぞ!」
「マクシミリアン様、イングリッドも一緒に行きます。将来の義妹を助けなきゃ!」
「ありがとう、兄さん。イングリッド。しかし、兄さんは連れて行けません」
「なぜだ、納得できる理由があるのだろうな」
「はい。もし、万が一私が倒れるようなことがあったら、兄さんが王位を継がなけれなりません。その時は兄さんにこの国をお願いしたい」
「く…この時になって、何もできないというのか。しかし、分かった。お前の言うことは最もだ。納得はしないが、マクシミリアンに従おう」
「皆に言っておく。マルムトがこの国を簒奪したように、私はあいつからこの国を取り戻すために戦う。たとえ第1、第6騎士団が敵になろうとも私は戦う。逃げも隠れもしない」
「あいつはこの国を戦乱に巻き込もうとしている。そんなことは許さない。私は必ず国を奪い返し、元の平和で豊かな国に戻して見せる!」
「この国の王はあいつではない。この私だ!」
マクシミリアンはそう宣言すると、会議場から出ようと皆に背を向けた。マクシミリアンに続いてレウルスとルーテ、イングリッドが立ち上がる。その時、マクシミリアンの背後から声が掛かった。
「待てマクシミリアン。いや、マクシミリアン様」
「オレたち第6騎士団は、マクシミリアン様に着いて行きますぜ」
「ビッグス団長…。いいのか?」
「ああ、魔物をこの国に嗾けたのはマルムト一派だろう? それに、魔物と国の存亡をかけて戦っている最中に支援もせず王都を攻撃した第2、第3騎士団の奴等を許すわけにはいかねえ。全員まとめてきっちりと落とし前をつけてやる」
「ビッグス…、お前、反逆者に成り下がろうというのか」
「馬鹿野郎! 反逆者っていうのはな、今、王宮でのうのうとしている奴らだ! 正統王位継承者はマクシミリアン様だ。マルムトに付こうって言うならゼクス、お前こそ反逆者だ」
「ふん、お前に言われるまでもない。私はマクシミリアン様の決意を待っていたのだ。第1騎士団は王家の盾。真の王家継承者がマクシミリアン様となれば、目的はただ一つ、簒奪者の手から王都を取り戻すだけだ」
「くそ、可愛げのねえヤツだな。テメエはよ!」
「ありがとう2人とも。君たちが味方に付いてくれて私は嬉しい」
「しかし、マクシミリアン様。状況は何一つ変わりませんぞ。フェーリス様の救出に騎士団を動かす訳にはいきません。今、無理に戦端を開くと戦力を大幅に減じてしまいます」
「わかっている。王都には私と、私の最も信頼する部下、ラブマン以下5名のみ連れて行く。イングリッドはここで待機だ」
「イヤですよー。私は自分の手で義妹を助けるんです。絶対付いて行きますー」
「はあ、わかったよ…」
「クックック、マクシミリアンもその娘には形無しだな。そういえばフローラ、冒険者の件はどうなった?」
「はい団長。リーズリットの冒険者組合に当たったんですけど、人材がいないということで断られました。なんでも、傭兵で徴用された影響で冒険者自体が不足しているみたいで」
「ビッグス団長、王都には私たちだけで十分です。ゼクス団長と一緒に来るべき時に向けて戦力の回復をお願いします。あと、兄さんの事も頼みます」
「待てマクシミリアン。ルーテも連れて行け。王都に潜入するには役に立つ」
「わかりました。ルーテ、頼めるかい」
「お任せください。必ずやフェーリス様を助け出して見せます」
会議室を後にしたマクシミリアンは、ラブマンたちが控える第4騎士団の割り当て部屋に向かった。
(フェーリス、今暫くの辛抱だ。必ず助けてあげるからね…。)
学園生徒に割り当てられた訓練場の片隅で、国王と王妃の悲報を聞いたユウキがずっと泣いていた。カロリーナとララはユウキの背中を優しく撫でて慰めている。
「うううっ、グスッ…。あの優しかった王様と王妃様が…、酷いよ。斬首して晒し首なんて、酷すぎるよ…」
「ユウキ、もう泣き止みなさい。泣いても王様と王妃様は戻ってこないよ。それよりも、これからどうするかだよ」
「うん…、ゴメンね、めそめそして。ボク、フェーリス様を助けに行く。きっと不安でいっぱいだと思う。フェーリス様もボクの大切なお友達だもん。ボクが必ず助け出して見せる。フェーリス様は絶対に死なせない、死なせないんだから」
「マヤさん、一緒に来てくれる?」
『モチロンですとも! ユウキ様の行く所に必ずマヤありです』
マヤはギュッとユウキの手を握る。
「私たちも行くよ」
「ララ、カロリーナ、ダメだよ。もしかしたら死ぬ可能性だってあると思うんだ」
「なら、尚更一緒に行くよ。私たちもユウキと一緒に戦う。ユウキを助けたいから」
「わかった…、ありがとう2人とも。時間があまりないから、準備出来次第行こう」
「うん! 先生たちには見つからないようにしないとね」
ユウキたちもまた、フェーリス救出のため、王都に向かう決意をしたのであった。
リーズリットのオプティムス侯爵家別荘の一室では、フィーア、ユーリカ、ヒルデ、ルイーズがひそひそと話をしている。
「国王様と王妃様が処刑されて、フェーリス様の公開処刑の日取りが決まったとの通達がありました。きっとユウキさんはフェーリス様を救出するために王都に向かうと思いますわ」
「同感です。私たちも王都に潜入しませんか? ユウキさんを助けたいです」
「ええ、急いで準備を整えましょう。私は馬車の手配をしてきます」
リーズリットの冒険者組合では、リサたちが冒険者組合の立て直しに奔走していた。組合の一室でオーウェンとダスティンが密談している。
「騎士団から依頼の王都への潜入員を断ったのか」
「ああ、今回の戦いで大分冒険者からも戦死者をだしたからな。ただでさえ、冒険者の数は足りないんだ。これ以上アイツらに付き合っていられっか」
「うむ…、オーウェン。俺は王都に行くぞ」
「止めとけ。今王都に行ってもいい事は無いぞ」
「わかっている。だが、恐らくユウキはフェーリス王女を助けるために王都に行くはずだ。王女はユウキの友達だからな。ユウキは絶対に友達を見捨てるようなことはせん。俺はあいつを手助けしたいのだ」
「確かにな…。ユウキならそうするだろう。俺だってユウキとフェーリス王女との仲は知っている。よし、俺も行こう。直ぐに馬車の用意をする。ダスティン、お前も早く準備しとけ」