第159話 フィーアとの別れ
「第1、第6騎士団がミザリィ平原で魔物の主力軍と戦闘を行っていて、誰も他に気を回す余裕がなかった。突然、王都の東門から第2、第3騎士団が雪崩れ込んで来て、王宮と主要省庁を制圧に掛かったんだ。財務局も襲われて、多くの職員が捕らわれた。私は、部下の手引きで何とか逃げ、屋敷に戻ってマーガレットと馬車で逃げる準備をしていたのだが、屋敷周辺も第2騎士団に囲まれてしまった」
「しかし、侯爵家騎士団が第2騎士団に突入し、突破口を開いてくれた。そのお陰で王都から逃げることに成功したのだが、途中、追っ手に捕まってしまってね。あとはこの通りだ。マーガレットに怪我がなくて良かったが、騎士団には大分犠牲者を出してしまった…」
「あの、首謀者は誰なんですか」フィーアが訊ねる。
「第3王子のマルムト様だ。背後に新興宗教団体「新世界の福音」がいる」
(やっぱり!)ユウキが心の中で毒づく。
「そいつらって、ユウキを異端者扱いした教団だよ」
カロリーナがそっと耳打ちしてきた。
「あの、アレス様。聞いてもいいですか」
「国王様やフェーリス様は無事に逃げられたのでしょうか?」
「私も逃げるのに精一杯で、国王様と王妃様、フェーリス様の行方はわからないんだ。恐らく捕らえられた可能性が高い。ただ、レウルス様は親衛隊長のルーテと一緒にアクーラ要塞方面に向かっている姿が目撃されている」
「他の省庁の大臣や官僚は多くが捕らえられるか、殺されたようだ。また、王国憲兵隊は騎士団と激しく戦った末、制圧されたと聞いている。すまんねユウキさん。これ以上は分からないんだ」
「いえ、ご無理を言って済みません。教えてくれてありがとうございました」
アレスが疲労を見せたので、ユウキたちは退出し、食堂に集まって、今後の対応について話し合っている。
「ユウキ、どうする?」
ララとカロリーナが不安そうに聞いてくる。
「うん、そうだね…。ここにいても情報はこれ以上集まらないと思う。だから、ボクはマヤさんとアクーラ要塞に行ってみる。あそには学園のみんなもいるし、バルバネス先生やモーガンさんもいる。何か分かるかも知れない」
「うん! なら、わたしたちも行く」
「わかった。ララ、カロリーナ、一緒に行こう。ただ、他の皆はこの別荘にいて」
「どうしてですか! 何故一緒に行ってはいけないの?」
「フィーア、落ち着いて聞いて。アレス様は国の重鎮。反逆者に命を狙われるかもしれない。騎士の数も少ないし、守ってあげる人は多い方がいい。フィーアたちにはアレス様を守ってもらいたいの」
「納得はできませんが、わかりました…。ユウキさん、くれぐれも気をつけて下さいね」
(ゴメンねフィーア。アレス様を守ってというのは建て前なの。あなたは魔女の噂がある子と一緒にいてはいけないよ。侯爵家の立場が悪くなるから、ボクと離れた方がいい。このままだとどんな噂が広がるか分からない。使用人たちの目で良く分かった…。今まで本当にありがとね。王都での初めての大切なお友達…)
ユウキは心の中でフィーアに謝まるのであった。
「ユーリカ、ヒルデ、ルイーズはフィーアを助けてあげて。お願いね」
「あたしはユウキと行くよ」
「シャルロット…」
「クラスの友達に会いたいし、ユウキのお手伝いもしたい。フィーアにはユーリカたちがいれば十分でしょ」
「ありがとうシャルロット。一緒に行こう」
「よし! シャルが加わって、巨乳2貧乳3ね。いいバランスね」
「カロリーナの言動はいつも良く分かんないな」
ララの呆れた声に、カロリーナを除くユウキたち4人が笑い合うが、対照的にフィーアたちは不安げに見つめるのであった。
翌日の早朝、準備を整えたユウキたち5人は、フィーアたちと別れを告げ、アクーラ要塞に向かって歩き出した。坂道を下る途中でユウキは別荘を振り返り、心の中でフィーアやユーリカ、ヒルデ、ルーズにもう一度別れを告げた。
(さようなら。ボクの大切なお友達…)
太陽が天頂に近付いた頃、途中の草原で昼食休憩をとることにした。適当な木陰にシートを広げてめいめいに座り、マヤが用意してくれたサンドイッチを食べる。周囲を見ると、たくさんの人がリーズリット方向に向かって歩いているのが見えた。
(みんな王都から逃げて来たのかな…。着の身着のままの人もいるし、荷車を曳いている人もいる。リーズリットに着いても住むところあるのかな。どうするんだろう)
ユウキがそんな事を考えながら、人々を見ていると見知った顔を見つけた。
「あ、あの人…。オーーーイ、リサさーーーん! オーーーイ!」
ユウキが立ち上がり、大声を出して手を振ると、向こうも気が付いたようで、ユウキたちに向かって歩いてきた。
「リサさん、組合職員の皆さん。ご無事だったんですね」
「ユウキさんたちも…。魔物との戦いでは学園生徒の皆さん頑張ったそうですね。王都を守ってくれてありがとうございました」
ユウキはリサたちを座らせ、食事と飲み物を分け与えると、人心地ついたようで、表情が少し柔らかくなった。
「うあ~、助かりましたぁ。王都から何も飲まず食わずで歩いてきたんですよぉ」
「ふふ、よかった。その王都なんですが、一体どんな状況なんですか?」
「私たちも良く分からないんですよ。騎士団が市内の各所を押さえて暴徒と化してしまって、一部では略奪や女性への暴行も行われてまして、私たちもどんな目に遭うか分からないので、とにかく隙を見つけて逃げて来たんです」
「酷い…。とにかくリサさんたちが無事でよかった。これからどうするんですか?」
「ええ、リーズリットの冒険者組合に行ってみようかと考えてます」
「あ、そこにはオーウェンさんもいる筈ですよ。いい判断だと思います」
「おお、私の判断は間違ってなかった。さすが私、何故結婚できないのか不思議なくらい」
「あはは、ボクたちはアクーラ要塞に向かいます。では、気をつけて」
「はい、私たちも行きますね。後でまた会いましょう」
昼食休憩後、半日ほど歩き、美しい夕焼け空をマヤと手を繋いて眺めながら進むと、目的地のアクーラ要塞が見えて来た。要塞の通用門で学園生徒であることを告げるとしばらく待つように言われた。
「ねえユウキ、何かバタバタしてるね。王都の件で慌ただしいのかな」
ララの言葉にユウキも要塞の人の動きを見ると、確かに慌ただしい。(何かあったのかな?)と考えていると、バルバネス先生が来てくれた。
「おお、お前たちだけか。あとの者はどうした?」
「バルバネス先生! はい、ボクたちだけです。あ、あとこの人はマヤさん。ボクのお世話をしてくれているお姉さんです」
『初めまして、マヤです。ユウキ様がいつもお世話になっております』
「あ、ああ、こりゃどうもご丁寧に。担任のバルバネスです。さあ、みんなの所に案内しよう。着いて来い」
要塞の中を移動中に、ユウキは簡単にここに来た経過を話した。フィーアたちはリーズリットに残っていることも。先生が言うには学園側でもあまり情報がなく、王都に残った1年生や生徒の家族がどうなっているのか全く分からない状況であること。第1、第6騎士団に様子を尋ねても「情報収集中」の一点張りで何も教えてくれないとのことで、要塞に来れば何か得られると期待していたユウキは、自分の見通しが甘かったことに気づいた。
長い通路を歩いているとある男性が目に入った。その男性は副官と思われる同年代の少女と部下らしい騎士6人と歩いており、少女はニコニコと男性に話しかけ、男性も優しい笑顔を向けている。
(マクシミリアン様…)
ユウキが歩みを止めて、前を歩く2人を見ていると、急に腕を取られてよろめいた。
「ほら、行くよユウキ。もうあんな男忘れなよ。縁がなかった。それだけ。ユウキは巨乳美少女なんだから、あんなヤツよりイイ男が一杯見つかるよ。より取り見取りだよ」
「ふふふっ、ありがとうカロリーナ。ボク全然気にしてないよ。行こう、皆待ってる」
(マクシミリアン王子…、バカな男だね。そんな女よりユウキの方がよっぽど美人じゃない。性格だって凄くいい子なのに…。ユウキを悲しませたこと、絶対忘れないから)
カロリーナはマクシミリアンに一瞥をくれると、ユウキを追って走り出した。
バルバネス先生に案内されたのは、訓練場らしい大きな建物の中。どうやら学園生徒は、ここで集団生活を送っているらしい。食事は材料は提供されるが野外炊飯、トイレは共同、風呂は野外に大きなテントを張って、その中に1度に20~30人入れる板張りの簡易浴槽を置いているとのこと。水は井戸から汲み、お湯は魔道具で沸かしている。
「学園の生徒はここで共同生活だ。慣れない暮らしで皆疲れも溜まってきている。何か動きがあればいいんだがな」
「そうですね…。ボクたち、クラスのみんなの所に行ってみます」
「おーい、みんな久しぶり。フレッド君元気だった?」
「あ、ユウキさん、ララさんたちも。みな元気だよ。今の所はだけど」
クラスメイトが「あ、ユウキだ!」と言って集まって来た。
「セーラ、リン、イグニス君とケント君も元気そうだね」
「うん、今のところはね…。でも、王都の家族がどうなっているのか心配なんだ」
リンとセーラが不安そうに話す。
「ララのおじさんの家も心配だね。ん、ララ、どこ見てんの?」
ユウキがララの視線の先を見ると、ヘラクリッドに抱かれて、満更でもない顔をしているアルがいた。ララは何とも言えない表情をしている。
「ああ、アレね。魔物の部隊と戦ってからずっとあんな調子だよ。なんかさ、その気がある男たちも集まってきて、気持ち悪くて、気持ち悪くて…」
リンが心底嫌そうだ。ユウキも男色は最悪に嫌いなので目を合わないようにし、心の中でアルに(さようなら、アル。もうボクに近付かないでね)と別れを告げる。
「ユウキさん、皆さん、お風呂の順番が来ましたよ。一緒に入りませんか?」
「セーラ、ありがとう。マヤさんも一緒に入っていい? カロリーナも行くよ(にひひ)」
「う、うん…(くそ~、2人してスーパーサイズを見せつける気か、憎らしや~)」
お風呂に入ったユウキとマヤのおっぱいの迫力に一緒に入った女子は、自分のサイズと見比べて盛大にため息をつくのであった。カロリーナはユウキとマヤに挟まれて悔し涙を流し、ユウキの裸を覗こうとした勇気ある男子はバルバネスに見つかり、強烈な拳骨を喰らっていた。