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第156話 乳の探究者とカロリーナ

 ユウキたちがフィーアの別荘に来てから2日が経過したが、王都の情報もなく、何をすることも無しに時間ばかりが過ぎている。ユウキとララ、マヤはベッドに腰かけて、身の回りの小物の整理をしたり、本を読んだりしていた。そんな時、窓から外を眺めていたカロリーナがユウキに話しかけて来た。


「ねえ、ユウキ。私たちに何も言わないで1人で出かけて行ったけど、何があったの?」

「え、うん。えっとね…」


 ユウキは学徒出陣の説明があった日、学園でフォンス伯爵と会って話をしたこと。グランデ・ステップという場所でクレスケンと決闘したこと。その際にルナと言うオーグリスの女の子に命を救われたこと。そして、クレスケンを倒し、ルナと一緒に埋葬してきた事を話した。マヤはルナの事に話が及ぶと悲しそうな表情をして俯いてしまった。


「そんな事があったんだ…」


 ララとカロリーナは言葉も出ない。暗い顔をして俯く2人をただ見つめるだけだ。


「私、そのルナっていう子に会ってみたかったな」

『ルナは魔物とは思えないくらい、優しくて美しい子でしたよ。本当にいい子でした』

「そっか…」


 ララが、何かに思いを馳せるような表情をするマヤを見つめる。


「ねえユウキ。その時、助さんも格さんも一緒に戦ってくれたんでしょ。どうしてエンペラーとの戦いの時は出さなかったの?」

「うん、あそこは騎士団が入り乱れて戦っていたから、助さんや格さんを突っ込ませたら魔物と間違えられて危険かなって思って。まあ、あそこはマヤさんだけで十分だったし」


「そっか…。ねえユウキ、私、2人に会いたい」

「え?」

「私、助さんと格さんに会いたい。ダメ?」


 カロリーナの突然のお願いに、ユウキは困惑してしまう。マヤに助けを求めるように視線を向けると、マヤがニコッと笑ったのを見て「わかったよ」と言って、ネックレスを取り出すと宝珠を握り締め、2人の事を強く想った。


 部屋の中に黒い渦が巻いてその中から暗黒騎士の格好をした助さんと、突起がたくさんついた肩パッドとマントに怪しげな仮面を着けた世紀末帝王風の格さんが現れた。格さんは片手を仮面に当てて変なポーズをとっている。


『お嬢様方、お久しぶりで御座います。乳の探究者、只今惨状!』

『おい、格よ、違うぞ。参上だ参上』


「う…、うぷ…、ぶわははははは! なに、エロ骸骨、何なのその恰好。怪しくて可笑し過ぎるぅ! あはははは」

「あはははは、酷すぎる。何なのポーズ。面白すぎて腹痛い」

 カロリーナとララが格さんを見て大爆笑する。格さんは調子に乗って益々変なポーズをとる。それを見て、2人は益々笑い転げる。


 カロリーナとララを笑わせて満足した格さんは、うんうんと頷くとスッと素早く移動してユウキの前に立ち、両手でユウキのおっぱいを下からポンポンと弾ませる。


『うむ! やはりユウキお嬢様のおっぱいは最高です! この大きさ、この重量感、それでいて弾む躍動感、形の美しさ、全てにおいてパーフェクトです。「乳の探究者」たる私も大満足の逸品です。ああ、マヤはいけません。ただデカくて重いだけ。美しさを感じませんからね』


「きゃあああ! このエッチ、ドスケベ、ケダモノ、不埒者ぉ~。もお~この大変態!」

 ユウキが顔を引きつらせ、悲鳴を上げて乳の探究者を突き飛ばして両手で胸を隠す。


『はっはっは。ユウキお嬢様は可愛いですなぁ』

 にこやかに笑う格さんの頭蓋をがっしりと掴む者がいた。格さんがギギギと首を回すと、そこには阿修羅の形相をして笑顔を浮かべたマヤ。


『マ…、マヤ様!』

『探究者殿、ユウキ様に対しておふざけが過ぎるのでは? それに、私の胸にご不満がおありで? デカくて重いだけで悪う御座いましたね!』

『ひぃ…!』


 格さんが短い悲鳴を上げた。次の瞬間、マヤの強烈なパンチが頭蓋に炸裂し、ドッガラガッシャーンと凄い音を立てながら部屋の隅まで飛ばされて転がった。マヤに叩きのめされた格さんを見てカロリーナが、泣き笑いのような複雑な表情を浮かべる。


「は…、あは…、あはは、格さんだ…、格さんだ、格さんだ、かくさぁ~ん!」

 カロリーナは転がる格さんに抱き着き、イヤイヤをして泣き出した。突然の事にその場にいた全員が驚いて言葉を失ってしまう。


「うう…、うああああ…。いつもの格さん、いつも通りの格さん、ブレない格さん、どんな時でも場を面白くしてくれる格さん! 格さんを見ると安心する。安心するのよぉ~」


「わた、わたし…、ユウキの故郷から戻ったをあとは、ずっと、ずっと辛いことばっかりだった。魔物にハウメアーが襲われて、家族が無事かずっと不安だった…。ユウキが突然いなくなってずっと心配だった…。神剣があるから怖い魔物と戦った…。本当は泣きたくなるくらい怖かったのに、みんなを守らなくちゃって、強がって我慢してた…」


「我慢してた…、我慢してたのよぉーーー! うわああああああん、うえええん!」


「グスッ…、ユウキにも家族にも会えたし、みんなと楽しくお話しても、不安な気持ちは全然消えなくて…。そんな時、ユウキの故郷で格さんとふざけ合ったこと思い出して…会いたくなった…。マイペースで何事にも飄々としてブレない格さんに会ったら、この気持ち楽になるかなって思って…。うわああああああん」


「ゴメンね、ゴメンなさい格さん。私の勝手で呼び出してもらって、ごめんなさぃい…」


 格さんは自分にしがみついて嗚咽するカロリーナを黙って見つめ、話を聞いている。そして、泣き止むまでカロリーナに抱きつかれたまま支えてあげている。それを見ていたユウキも切なくなってマヤに寄りかかり、ララも感情が高ぶって涙を零しながら、助さんのマントで「チーン」と何度も鼻をかむ。


『ララ嬢、俺のマントで鼻をかむのは止めてくんねえか』

「あら助さん、ごめんなさい。手近な布がなくって。あ、また鼻水が出そう」

『だから止めてくれよ…』


「格さんゴメンね…」

『いや、若い女性に抱き着かれて泣かれるとは望外の喜び。しかし、全く胸の圧力を感じられないとは残念の極み。ユウキ様級であればウハウハでしたのに、やはり貧乳はいけませんな』


「やかましい!!」

 カロリーナは、格さんの頭を「ペシン!」と叩いて泣き顔から笑顔になる。


(カロリーナ…、カロリーナも辛かったんだ…。ボクにも一因があったなんて、ゴメンね)

 ユウキは格さんとふざけ合うカロリーナを見て、心の中で謝るのであった。


 ーーーーーーーーーーーー


 暇になったフィーアとユーリカは、ユウキの部屋を訪ねるため、別荘の廊下を歩いていた。ユウキの部屋の前に着いてドアを開けようとした時、中から声が聞こえてきたので耳を澄ませてみる。


「あ、ううん…、ああ、いや…、ひうっ! そこ、そこはダメぇ…」


(な、なんですか、この悩ましい声。この声はユ、ユウキさん!)

 2人はドアに耳を当てて聞き耳を立てる。


「ああん…、はあん…、いやあ…、あはぁ! も、もっと…」

『おい、声を立てるな。外に響くだろ』


(男の人の声! と言うことは…。これわ~、アレですか、アノ声ですの!)

(ユウキさんが、あのユウキさんが、大人の階段上ってる! 相手は誰なんでしょう?)

 フィーア、ユーリカが茹だこのように真っ赤になって顔を見合わせる。2人の心臓は早鐘のようにドキドキしている。


「ああっ、ああ…。い、痛い!」


「やだっ!」

「な、ナニをしているんですか! いやらしい!」


 ユーリカとフィーアはドアを蹴破って室内に乱入した。そこに見たものは…、ベッドに横になり、マヤにマッサージされているユウキと、ゲームをしているララとカロリーナだった。4人はキョトンとした顔でフィーアとユーリカを見ている。


「ぜーはーぜーはー、あ、あれ…?」

「どうしたの? 2人とも」


「どうしたのじゃありませんよ!」

「も、もう! ユウキさんが変な声を出すから、ナニしてるって思ったじゃないですか!」

「変な声って…、しょうがないでしょう。マッサージされてたんだから。それに、ナニって何ですか? ユーリカさん(ニヤニヤ)」

「も、もう! ユウキさんのえっち!」


「あの、男の人の声も聞こえたんですけど…」

「男の人? ここにはボクたちしかいないよ。フィーアは幻聴でも聞いたの? もしかして欲求不満なんじゃない?」

「そ、そんな事ありませんよ! たぶん…」


「ところで、あそこの隅にある2体の骸骨標本は何ですか? 凄い格好ですね」

「ああ、あれはね、ボクのコレクション。この部屋のオブジェに出してみたの。ホ、ホントだよ。(急に飛び込んで来るから隠す暇がなかったよ。バレないかな…)」


 ユーリカの問いにユウキが苦し紛れに答えていると、どやどやとヒルデ、ルイーズ、シャルロットも「何の騒ぎですか」とやってきて、2体の骸骨標本(助さんと格さん)を見て驚く。


「この骸骨標本、凄く精巧な出来ですね…。ユウキさんどこで手に入れたんですか?」

 ヒルデが繁々と助さん格さんを見て言う。2体はピクリとも動かない。


「これ、私の部屋にも欲しいですね」とヒルデが格さんに背を向けた時、ヒルデの後ろから骨の手が伸びてきて、ヒルデのおっぱいをモミモミと揉み始めた。


「ひ、ひぇええ~!」


「おおーーーっと! 危ない、スケベ標本が倒れて来た。片付けなきゃ。ヒルデ、そこ退いて!」

 ユウキは、あわあわしているヒルデを押し退けると、助さんと格さんの前に立って、(このバカ、ドスケベの見境なし! 後でマヤさんに成敗してもらうからね)と小声で言って、マジックポーチに仕舞うふりをして、2人を宝珠に隠し入れた。


「ユウキさん、私に何が起こったんですか…。おっぱいを強引に揉まれたような…」

「標本が倒れてきて触れただけだよ。もしかしてヒルデも欲求不満なの?」


「ち、違いますよ! えっと、気のせいだったんですね、それならいいんですけど…」


(ふう、何とか誤魔化せた…かな?)

 ユウキが冷や汗を拭っていると、1人のメイドさんが慌てた様子で駆け込んできた。


「お嬢様、フィーアお嬢様。た、大変です! ご当主様が…、侯爵様が…」

「マリナ、落ち着いて。お父様がどうなさったのです」


「侯爵様が大怪我をなされて、この別荘に運び込まれてきましたんです!」

「何ですって!」

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