第152話 ミザリィ平原の戦い(神話の魔獣討伐編2)
ララ、フィーア、ヒルデ、フレッド、ルイーズが相手をする魔竜ヒュドラー。巨大な胴体に太い4本の足、大蛇のような尻尾も4本、長さ10mを超える大きく長い首が9本。正に神話の怪物だ。そのヒュドラーの首がララたちを睥睨している。
「ら、ララさん、こんな化け物を倒すにはエクスプロージョンしかないのでは…」
「うん、それはそうなんだけど、エクスプロージョンの発動には時間が掛かるのよ。爆発する前に効果範囲から移動されたら意味がなくなっちゃう。できれば、あの竜の動きを止めてほしい」
「では、私とヒルデさんでやってみます。ララさんはエクスプロージョンの準備を。フレッドさんはララさんを守ってください。ルイーズさんは私とヒルデさんに攻撃が来ないように竜の気を逸らしてください。」
フィーアが全員に指示を出し、全員が頷くと、それぞれの位置に着いた。ララは早速大地の杖に魔力を込め、フレッドはララの周囲に土の防御壁を作り出す。
「ヒルデさん準備はいいですか。私は足を狙って動きを止めます」
「はい! フィーアさん。私は今まで使ったことがないですが、最強魔法を放ちます」
2人は、こくんと頷き合うと、ヒュドラーの足に向かって魔法を放った。
「ウィンド・ボルテッカー!」
「ダウン・バースト!」
フィーアの雷を纏った竜巻が、ヒュドラーの足を深々と傷付ける。一方、ヒルデの放った魔法は、上空から空気が猛烈な速度の下降気流となって襲い掛かり、ヒュドラーの胴体を傷つけ、首を何本か斬り飛ばした。
「やった! これで動きが止まります。ララさん、今のうちに!」
「フィ、フィーアさん待ってください。あ、あれ見てください」
ヒルデの声に、フィーアがヒュドラーを見ると、脚の傷は塞がり始め、斬り飛ばされた首も再生を始めている。2人は再度、魔法を放つが、また直ぐに傷が再生し、塞がってしまう。
「な、なんですの…。信じられない」
「フィーア、ヒルデ、何とかして。これじゃ魔法が撃てないよ!」
ララの声が響くが、2人には打つ手がない。何かいい手はと考えているうちに、2人の動きが止まってしまった。ヒュドラーはこの隙を見逃さず、2人に強酸の液体を吐きつけて来た。
「危ない!」
ルイーズがフィーアとヒルデに飛び掛かり、2人を抱きかかえて地面を転がる。今まで2人がいた所に強酸の液体が落ちて、じゅうじゅうと煙を立てて地面が溶けた。
「あ、ありがとうございますルイーズさん」
「2人ともここは危険です。少し離れたほうがいいです。一旦、フレッド先輩が展開した防御壁の中へ行きましょう」
防御壁の中に避難したフィーア、ヒルデ、ルイーズは妙案がないか考える。
「ヒュドラーですよね、あの魔竜。書物で読んだことがあります。もの凄い再生能力を持つ不死の怪物です」
「不死のはずない。エクスプロージョンで粉々にすれば、いかにヒュドラーでも倒せるハズよ。諦めちゃダメ!」
「でも、魔法で足止めは難しそうです…」
「ちょっといいかな」
フレッドが全員を見回して意見を出した。
「攻撃魔法ではなく、防壁魔法や行動阻害系魔法で回りを取り囲み、動きを止めたらいいんじゃないかな」
「これなら再生能力は関係ないし、僕たちの全魔力を使って押さえるだけだ。後はララさんに任す。これしかないと思う」
「そう…、ですわね。それしかないかもしれません」
「私はフレッド先輩の提案に乗るべきだと思います。同じ事をしてもいい結果は得られないと思います」
ルイーズがフレッドの提案に賛意を示すと、ヒルデも賛同して、防御魔法による行動阻害を行うことにした。今度は、フレッドを中心に魔術師が行動するため、ララの護衛にはルイーズが付いた。
「いいかい、行くよ」
フレッドの合図にフィーア、ヒルデも「はい!」と答え、3人はヒュドラーの後ろに回って、9つの首の死角に入った。
「今だ! 最大魔力で放て! アースウォール!」
「私はこれですわ! ソリッドエア!」
「行きます! メイルストローム!」
ヒュドラーの周囲に土、風、水の防御系、行動阻害系魔法が放たれる。ヒュドラーは前に進むことも後ろに進むことも、攻撃のため首を回すこともできない。
「今だ! ララさん、エクスプロージョンを! 余り長くは持たない」
「わかった! 魔法を放ったら全員その場に伏せてね!」
『全ての源、全ての力、我が求めに応じ、今ここに顕現せよ…』
ララが大地の杖に魔力を集中させ、呪文を唱える。上空にヒュドラーが収まる大きさの魔法陣が作り出される。
(攻撃対象によって、魔法陣の大きさを変えられるんだ。凄い…)
フレッドが感心したように魔法陣を見ている。
あと少しで魔法が撃てる段階になった時、3人の魔法の効果が薄れて来て、ヒュドラーが少しずつ動きだしてきた。
「いけない! 効果時間が切れて来た」
「ダメ、今動かれたらエクスプロージョンが外れる!」
「ララ! 急いでください!」
「間に合わない!」
3人の魔法の効果時間が切れ、全員が作戦の失敗を覚悟した時、黄金に光る剣と黒い大きな槍が飛んできてヒュドラーの足を切り裂いた。黄金の剣は神剣「極光」。黒い槍は魔槍ゲイボルグ。
極光はヒュドラーの傷の再生より早く足を切り刻み、また、ゲイボルグの傷は内部から体組織をズタズタにし、怪物の動きが再び止まる。
「今よ! ララ魔法を撃って!」
「カロリーナ! うん、ありがとう!」
『全ての源、全ての力、我が求めに応じ、今ここに顕現せよ。神々の魔獣をも打ち滅ぼす力となりて我に威力を示せ』
「極光! 戻れ! 万物を守る障壁よ展開せよ、アイス・フィールド!」
『ゲイボルグ、我が元に!』
極光とゲイボルグが持ち主の元に戻り、カロリーナの魔法障壁がヒュドラーを取り囲む。
『エクスプロージョン!』
ララが魔法を唱えた瞬間、ヒュドラー上空の魔法陣が赤く輝いて収縮し、強烈な爆発が起こった。爆炎と爆風はカロリーナの魔法障壁で反射され、威力を失うことなく荒れ狂い、ヒュドラーを完全に破壊し尽くし、焼き尽くした。
「や、やった…」
「やったよ、みんな。ありがとー!」
ララがぴょんぴょん跳ねて喜んだ所に、皆が集まって来た。
「はあ、魔法効果が切れた時はどうなるかと思いましたが、カロリーナさんに助けられましたね。何はともあれ、ヒュドラーを倒せて良かったです。フレッドさんもヒルデさんもご苦労様でした」
「いや、皆が力を合わせた結果だよ。さあ、本隊の救援に行こうか」
フィーアが心底ホッとしたように言い、フレッドが笑顔で返す。そして全員で最終決戦の場へ向かうのであった。
神話の怪物が全て倒されたのを見て、戦場にいる全ての兵士、学園生徒の士気が上がる。
「ゴブリンエンペラーを倒せ! この戦いに決着をつけるんだ!」
ゼクスとビッグスの激が戦場に響き渡った。