第151話 ミザリィ平原の戦い(神話の魔獣討伐編1)
「何だあれは!」
「何て巨大な怪物なんだ。それが3体もいる!」
学園の生徒たちも恐怖に引きつった顔をしている。しかし、怪物を倒し、ゴブリンエンペラーを倒さなければ王国は魔物に蹂躙されてしまう。モーガンは覚悟を決め、バルバネスたちと話をすると、学園生徒に向かって話し始めた。
「全員よく聞け! あの怪物を倒さなければ王国に、人間の生きる世界に未来はない。だから、あの怪物は我々学園生徒で倒す」
「いいか、今から呼ばれた者は前に出ろ。ララ、カロリーナ、フィーア、ヒルデ、ユーリカ、フレッド、シャルロット」
「ハイ!」と言って名前を呼ばれた7人が前に進み出る。
「君たちがあの怪物を討伐するメンバーだ。ララ、フィーア、ヒルデは攻撃魔法が使える。君たちの魔法で9つ首を倒せ。フレッドは3人を防壁魔法で支援するんだ。カロリーナ、ユーリカ、シャルロット、私とバルバネス先生の5人は3つ首の魔獣だ」
「私も戦います! 参加させてください。ヒルデさんは私が守ります。大事なお友達なんです」とルイーズが手を上げる。モーガンはルイーズの目を見て「いいだろう」と頷く。
「双頭の蛇はどうするんですか」と生徒から声が上がった。
「あの蛇はボクとマヤさんが戦うよ」
「ユ、ユウキ! 無事だったのね。どこに行ってたのよ。心配したんだから!」
ララとカロリーナが涙を浮かべてユウキに抱き着いてくる。モーガンもバルバネスもユウキをホッとした様子で見る。
「ゴメンねみんな。詳しい話は後でするよ。それよりも今は、あの怪物を倒さなければ」
「う、うん、そうだね」
『ユウキ様、怪物たちが動き出しました!』
「わかった、行こうマヤさん!」
ユウキとマヤがペルーダに向かって走り出した。
「ねえ、今のマヤさんのカッコ見た?」
「うん、凄かったね。胸もお尻もぱっつんぱっつんで、ドレスの横からパンツ見えてた。悩殺的で凄まじく色っぽい。男たち、みんなおっぱいの谷間ガン見してたよ」
ララとカロリーナの呟きにハッとしたモーガンは、えへんと咳払いをして誤魔化す。
「さあ、我々も戦うぞ! 怪物討伐以外の生徒は、騎士団員と先生に従って、敵主力軍の掃討に向かえ! いいか、決して無理をするな。複数人で連携をとって戦うんだ。騎士団と合力し、魔物を1体残らず駆逐するんだ!」
「さあ行くぞ、これを最後の戦いにするんだ! 学園部隊、前進!」
ユウキとマヤは巨大な双頭の蛇ペルーダの前に立つ。見れば見るほど、巨大な蛇だ。胴回りは大木ほどもあり、背中には緑色の鋭い棘が生えている。鎌首を持ち上げると高さは3階建ての建物ほどあり、鋭い牙の生えた口は雄牛の胴体ほどもある。何より右首の眼は赤、左首の眼は青に光っている。
「マヤさん、こいつはどんな攻撃をしてくるかわからない。油断は禁物だよ。ボクが右の頭をやる。マヤさんは左をお願い」
『分かりました。このゲイボルグで、木っ端みじんこにして差し上げます』
「ふふふっ、マヤさんったら。最近、すっかり面白お姉さんになったね」
『がーーーん。お、面白お姉さん…』
「攻撃きたよ!」
ペルーダの右頭が大口を開けてユウキに向かってきた。ユウキは横に飛んで一撃を交わすと、すぐさま首を白夜で切りつける。が、固い鱗に阻まれて傷を負わせることができなかった。
「か、固い。白夜が通らない!」
マヤにも左頭が大口を開けて突っ込んで来た。マヤは大きくジャンプして逆さ落としに槍の一撃を叩き込む。流石のゲイボルグも固い鱗に阻まれたが、傷を負わせることに成功し、体の内部が切り刻まれる痛みに、ペルーダが暴れる。
『効果はあるみたいですが、外からの攻撃では致命傷には至らないようですね』
「うん、それに背中の棘、もしかしたら毒があるかもしれない。何とか弱点を見つけないと…。あっ! マヤさん危ない!」
ペルーダの4つの目が怪しく光り、右から炎、左から氷のブレスがマヤを狙って吐き出された。ユウキは咄嗟にマヤの前に立って、魔法障壁を展開し、ペルーダのブレスを受け止める。
「う、ぐぐ…、凄い圧力。でも、何とか防げる…」
『ユウキ様、ありがとうございます。でも、今の攻撃で相手の弱点が見えました』
「ホント!」
『あっ、またブレスが来ます!』
ユウキは再び魔法障壁を展開してブレスを防ぐ。マヤはこの時間を利用してユウキにペルーダの弱点を説明した。
「口の中?」
『そうです。口の中の柔らかい部分を狙って致命傷を与えるのです。ただし、両方の頭を同時に叩く必要があります。片方だけ先に倒すと、もう片方が口を開けなくなる可能性があるからです』
「わかった、そうなればボクには魔法しかない。マヤさん、魔法障壁はここまで。後はアイツの攻撃を交わしながらチャンスを見つけよう!」
『了解です。絶対に木っ端みじんこにしてやるんだから!』
(やっぱり、面白お姉さんになってる)
ユウキとマヤは左右に分かれて、相手の攻撃を分散させてチャンスを伺う。蛇が口を大きく開けるのは一瞬だけ。ブレスを吐くときか、牙で攻撃してくるときだ。ユウキとマヤは素早く動きながら、毒の棘を避けつつ、ペルーダの胴体に切りつける。
ペルーダはうっとおしい2人の攻撃に嫌気がさし、一気に決めようとブレスを吐く体制に入った。
それを見たユウキは直ぐに集中して魔法を打つ体勢を取る。もちろん、使う魔法はユウキ得意の魔法「フレア」だ。ペルーダの右頭が大きく口を開けて炎のブレスを吐こうとしている。
「ここだ、フレア!」
一方、マヤを狙っている左頭も右と呼応してブレスを吐く体勢に入り、大きく口を開けた。その瞬間、マヤはゲイボルグを口の中目掛けて思いっきり投げ付けた。
『馬鹿め! 己の浅はかさを思い知るがいいわ!』
ユウキの放った黒い超高熱の塊は、狙いたがわず右頭の口に飛び込み、その瞬間、大爆発が起こり、ペルーダの右頭を吹き飛ばした。一方、マヤの投擲したゲイボルグも左頭の口から頭を貫き、脳を破壊して生命活動を止めた。2つの頭を同時に失ったペルーダは地響きを立てて地面に倒れ落ちた。
「やった…。やったよマヤさん! 木っ端みじんこ!」
『ええ、お見事でしたユウキ様。これで残る怪物は2体。行きましょう皆さんの元へ』
『ゲイボルグ、我が元に!』
ゲイボルグがマヤの元に戻って来た。ユウキとマヤは怪物と戦う友人たちの元に急ぐのであった。
カロリーナ、ユーリカ、シャルロット、モーガンとバルバネスは3つ首の魔犬、ケルベロスと対峙している。
『我が名はケルベロス、冥界の守護神。さあ、お前たちも冥界に送ってやろう。出でよ、我が眷属!』
ケルベロスが叫ぶと、魔犬ガルムが20体ほどケルベロスの体から飛び出て来た。
「カロリーナ、ケルベロスは君に任す。シャルロットはカロリーナの側にいてガルムの接近を許すな! 後の者はガルムを倒す! カロリーナの邪魔をさせるな」
モーガンの指示にカロリーナ、ユーリカ、シャルロットは「はい!」と答えて戦闘準備に入る。バルバネスは既に戦いを始めており、カルムを大剣で切り裂いている所だった。
『ほう、我の相手は小娘1人か。舐められたものだ。お前から血祭りに挙げてやる』
ケルベロスの6つの鋭い目がカロリーナを睨む。
カロリーナは鞘から神剣「極光」を抜く。
「小娘1人と思って侮ると痛い目見るわよ」
「神剣「極光」、主カロリーナが命じる。ケルベロスを倒すのよ。行け!」
カロリーナの命を受けた極光は、黄金色に光り輝くと猛烈な速度で飛び、ケルベロスの首の1つを貫いた。極光はケルベロスの上空でターンすると、今度は逆さ落としに胴体を貫き、地面すれすれに飛んで、カロリーナの前で滞空する。首の1つを失い、腹部を傷つけられたケルベロスはカロリーナと極光を見ると驚愕し、目を見開いて叫んだ。
『ガアアッ! なんだその剣は。「極光」そうだ、聞いたことがある。天空の最高神エリスが我々魔物の脅威から神々を守るために、鍛冶神クレニスに鍛え上げさせたという剣の名前だ』
『自ら敵を追尾する能力を持つという神剣「極光」か! そんなもの何故お前が持っているのだ!』
「さあね。私の大切な友人を守るため、神から授かった…。と言えばいいかしら」
「諦めなさい。極光に命じたからには、あなたに助かる術はないわ」
『そうはいかん。剣の主を倒せば済む事。我が体を傷つけた罪、地獄の業火に焼かれて思い知れ! 我が眷属よ出でよ!』
再び、ケルベロスの体からガルムが飛び出てきて、カロリーナを狙ってくる。
「させない!」
シャルロットが正確な弓の速射で、ガルムを1体、また1体と倒して行くが、数が多い。そこにユーリカがやってきて、矢を掻い潜って来たガルムをバルディッシュで斬り飛ばす。
『グヌオオオ! 地獄の業火を浴びよ!』
ケルベロスの口から猛烈な炎のブレスが吐き出され、カロリーナに迫る。
「極光、私を守って!」
その瞬間、極光が一層光り輝き、剣先に輝く光の防御幕が展開され、ケルベロスの炎を完全に防いだ。
「極光! ケルベロスに止めを!」
極光は再びケルベロスに向かうと、まず中央の首を刎ね、ターンして残った首も切り落とした。魔犬ケルベロスは、ほとんど抵抗らしい抵抗もできずに極光の力に屈したのであった。
ガルムもモーガン、バルバネス、ユーリカの手で全て倒され、2体目の神話の魔獣もこうして討伐された。