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第150話 ミザリィ平原の戦い(後編)

 第6騎士団の参戦により数の優位を失った魔物の主力軍に対し、騎士団の士気は上がり優位に戦いを展開している。しかし、第1騎士団は巨大猪カリュドーンの攻撃に大きな被害を出していた。


「魔物軍との戦いはまだ互角っぽいね。それに、あの猪…。伝説級の魔物だ。学園部隊はまだ見えないけど、あそこにはオヤジさんがいる。オヤジさんを助けなきゃ」

「でも、ああも騎士団の人達が入り乱れていると、助さんや格さんを出すのは難しいな。魔物に間違えられて討伐されちゃうかもしれない。マヤさんだけにしよう」


 クレスケンとの戦いを終え、休息もそこそこに、急いで馬を走らせてきたユウキは、少し離れた所から、戦いの様子を眺めていた。そして、誰からも見えない場所に移動すると、宝珠を握りしめて、マヤの事を強く願った。


「マヤさん。あの場所ではマヤさんしかお願いできないけど、いい?」

『お任せください。助さん格さんの分まで戦います。ユウキ様への想いと、この魔槍ゲイボルグある限り、マヤは無敵です』


 マヤは右手を「えい!」と上げて力こぶを作って見せる。ユウキはマヤのお茶目な一面を見て「ふふっ」と笑う。


「マヤさん…、ありがとう。頼りにしてます。まず、あの巨大猪を倒すよ!」

『はい!』


「また来るぞ! 密集するな、突進の目標になるぞ! 散開して槍を投げつけろ!」


 第1騎士団の歩兵隊はカリュドーンの突進の度、十人単位の死傷者を出して苦戦していた。投擲槍も分厚い毛皮に阻まれ、効果が見られない。


「く、くそ、何とかならないのか…」

 大隊長は既に亡く、指揮を取っている中隊長がカリュドーンを睨みつけるが、打つ手が全く思いつかない。思案に暮れる中隊長の視線に2人の人影が走り寄って来るのが見えた。


『はああああっ!』


 気合の籠った声を上げて、高々とジャンプした女性がカリュドーンの上で1回転し、そのまま落下して槍を突き刺した!


『ブモォオオオオオオ! ブモォオオオオオオ!』

 ゲイボルグによって体内がズタズタにされたカリュドーンが苦悶の鳴き声を上げる。中隊長が呆気に取られて見ていると、1人の少女がカリュドーンに走り寄り、白銀に輝く剣を一閃させ、前足を斬り飛ばした。


 片足を失ったカリュドーンは「ドザアッ!」と音を立てて倒れ、起き上がろうと藻掻くが起き上がることが出来ない。


『止めです!』


 マヤが倒れたカリュドーンの眉間にゲイボルグを深々と突き刺す。魔槍によって脳を破壊された魔獣は動きを止めると、2度と起き上がろうとする事は無かった。


「マヤさん! ここはいい。オヤジさんの所に行こう!」

『はい! ユウキ様!』


 中隊長や歩兵大隊の騎士が呆気に取られている中、2人の女性は嵐のように来て魔獣を倒し、嵐のように去って行った。


「何だったんだ、一体…」

「ええ…(白だった)」


 ダスティンを始め、民兵は第6騎士団の騎兵隊が蹴散らした密集陣を突破し、第1騎士団ともども敵の本隊と戦っていた。


「うらぁああ!」

 ダスティンはバトルアックスをオーガに叩きつけて倒した後、次の敵を探して周りを見回すと、「オヤジさーん」と聞きなれた声が耳に入った。


「ん、なんだ? ユウキの声がしたようだが…。幻聴か?」

「オヤジさん! ボクだよボク、ユウキ!」


「ゆ、ユウキか! 本物か? まさか、まさかここでお前に会えるなんて」

「うん! オヤジさんが無事で嬉しい。ボク、任務を果たしてきたよ。ここからは一緒に戦う。マヤさんもいるよ」

『ダスティン様、私も戦います』


「マ、マヤか…。お前、凄いカッコだな」

『え、やっぱりそう思います? 胸もお尻もぱっつんぱっつんだし、下着も見えちゃって、何か周りからの視線が痛いです』

「マヤさんにお似合いだよ!」

『ユウキ様がそうおっしゃるなら、私、全然平気です!』


「オヤジさん、ハイオークの群れが来たよ。ボクとマヤさんはゴブリンチャンピオンとグレンデルを相手にする。気をつけてね!」


 ユウキはそう言うとマヤを連れて飛び出していった。ダスティンが呆然と見ていると、ユウキは白夜でゴブリンチャンピオンを一刀両断にし、マヤは槍でグレンデルを斬捨て、瞬く間に魔物を倒して行った。これを見たダスティンも、


「オレも負けてはおられん」とバトルアックスを握り締め、ハイオークの群れに飛び込んでいくのであった。



「ゼクス団長、第6騎士団の参戦で我が方が有利に戦いを展開しています。伝説級の魔物も全て倒しました。ただ…。」

「ただ、何だ?」

「巨大猪を倒したのは、2人の女性だったという、俄かに信じられない話でして…。」


「……その話の真偽は戦いの後で確かめればいい。それより戦況はどうなっている」

「はっ、敵の密集陣は全て瓦解、魔物もほとんど倒しました。今は第1騎士団と傭兵・民兵の混成団が敵主力の後背から、第6騎士団主力が前面から攻撃を加えています。また、我が重装歩兵連隊もまだ7割の戦力を有し、敵陣中央で戦線を支えています。」


「うむ、ここが踏ん張りどころだ。敵戦力はもう2万と少し。一気に押し込むぞ! 全軍に命令を出せ。歩兵部隊を中心に隊を再編し、敵陣中央に攻め入るのだ。エンペラーを逃すな、必ず仕留めろ!」


「ビッグス団長、前線からの伝令です!」

「読め」

「我が軍有利!」

「ん?」

「我が軍有利! 以上です」


「うむ、そうか…。まあいい、フローラに伝令だ。弓騎兵で外縁の敵を削れ、そして、敵陣の薄い所から騎兵を突入させて、敵陣形を崩せと伝えろ!」

「復唱します! 弓騎兵で…、」

「復唱はいい、早く行け!」


「第4騎士団の勇士たちよ! 勇気を見せろ! 国を、愛する者を守るために戦え!」

「うおおおおおおお! 愛してくれる人がいないのだーーー!」

「妻よーーーー!」

「マクシミリアン様ぁ、大好きですーーーー!」


 様々な思いを持つ第4騎士団最後の勇士たちがカリスマの力で奮戦する。マクシミリアンも(部下たちの発言に対して)複雑な思いを持ちながら剣を振い、目の前の魔物を斬り倒して行く。しかし、いつの間にか前線から離れて孤立してしまっていた。


「不味い。敵中に取り残された。イングリッド、ラブマン、一旦引くぞ。」

「はい!」

「隊長! 周りを囲まれました! オーガ100体!」


「くそ! 全員円陣を組め! 何としても持ちこたえるぞ!」

「はい!(マ、マクシミリアン様と密着しちゃった)」


 マクシミリアン隊を包囲する魔物がじりじりと距離を縮めて来る。オーガを睨むマクシミリアンの目に、意外な人物が飛び込んできた。

 その人物は、黒く長い髪を靡かせ、白銀に輝く剣を持った美しい少女。少女は妙齢の色っぽい服装をして大きな槍を持った女性を伴っている。2人はあっという間にオーガの部隊に達すると、たちまちのうちに数十体を斬り倒した。


「ユ、ユウキ君…」

「マクシミリアン様、ご無事ですか!」


 ユウキと呼ばれた美しい少女は嬉しそうにマクシミリアンに近寄って来る。もう1人の女性は暴風のように暴れまわり、あっという間に残りのオーガを倒してしまった。


(つ、強い…。誰、この人。マクシミリアン様の知り合いなの…? 凄い美人だし、胸が大きくてスタイルがいい…。まさか、マクシミリアン様の恋人! でも、恋人がいるって聞いたことない…。ううん、イングリッド負けない!)


「ユウキ君、君も参戦していたのかい?」

「はい、といっても先ほど戦場に到着したばかりですが。マクシミリアン様はどうして?」

「ああ、所属の第4騎士団が壊滅してね。ハウメアーの住人を逃した後、残った部下たちと第6騎士団にお世話になっているんだよ。残ったと言っても7人だけだけどね」


「そうだったんですか…。あの、さっきからボクを睨んでいるあの子は?」

「あ、ああ、彼女は私の副官で…」

「イングリット・バーグマンです! 将来はマクシミリアン様のお嫁さんになる予定の17歳。胸が大きいからって負けませんよ!」


「え、ええーーー! そうなんですかマクシミリアン様のこ、婚約者…?」

「違うんだ。ユウキ君、彼女が勝手に言ってるだけで…」

「違うんですか! イングリッドの気持ちをマクシミリアン様は否定しなかったじゃありませんか!」

「あ、いや…、その…」


『ユウキ様! ダスティン様の部隊にキュクロプスが迫ってます!』

「う、うん。わかった…」


 ユウキはそう言うと、ぺこりと頭を下げて一礼し、マヤと一緒に民兵団の方に走って行った。誰も気づかなかったが、ユウキの目には涙が浮かんでいた。その涙は思いがけずマクシミリアンと出会った嬉しさからなのか、それとも、他の少女と仲良くするマクシミリアンを見た悲しみからなのか自分にも分からなかった。


「ユウキ君…」


(マクシミリアン様の側に居るポジションは私のものよ。あんな子なんかに負けないんだから!)


「おお、これが三角関係ってやつか。中々の修羅場だったな。戦よりコワいぞ」

 ラブマンが率直な感想を口にすると、他の団員もうむうむと頷くのであった。



 配下の魔物兵が急速に倒されていく状況にゴブリンエンペラーは焦りを隠せないでいた。


『どうしてこうなった…。途中から参戦した騎士団が来てから形勢が狂ってしまった。あの人間の話では第1と第4以外は参戦しないから、数で圧倒できると言っていたのに、ガセネタを掴ませたのか。許さんぞ…、この戦いが終わったら思い知らせてやる』


『そのためには戦いに勝つことだ。ついに、これを使う時が来たようだな。クレスケンがオレに預けた古代遺跡から発見され、厳重に秘匿されていたという魔獣の筒を…』


 エンペラーは3本の筒を取り出すと『出てこい!ヒュドラー、ケルベロス、ペルーダ』と叫び、筒を投げた。

 地面に落ちた筒はパキンと音を立てて壊れ、辺りに視界を奪う煙が漂う。煙が晴れた時、そこに現れたのは見たこともない魔物が3体。


 1体は巨大な胴体に4本の太い足と長い尾を持ち、9本の首を生やした巨大な龍「ヒュドラー」。もう1体は黒色の体に3本の獰猛な首を生やした魔獣「ケルベロス」最後の1体は全長20m以上もある双頭の蛇「ペルーダ」いずれも神話にしか出てこないような怪物だ。


 突然現れた巨大な魔獣を見て、第1、第6騎士団の騎士団員たちは恐慌状態になる。ユウキもマヤもダスティンもこれを見て驚いた。


 そして、そのタイミングで学園部隊が戦場に到着したのである。

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