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第148話 ミザリィ平原の戦い(前編)

 ミザリィ平原。王都から馬車で3日の位置にある広大な草原地帯。ここから王都までの間には大軍を配置する場所がない。王都の最終防衛ラインとなる場所だ。そして、今ここに魔物の主力軍3万5千と、王国最後の砦、第1騎士団と傭兵、民兵の混成団1万9千が対峙している。


 魔物の主力軍は左翼に主力2万、右翼に向かって3千ずつの密集陣を5組を斜めに配置した斜線陣を組んでいる。一方、混成団は部隊を3つに分け、中央に第1騎士団の主力1万、右翼に第1騎馬大隊、第3~第5歩兵大隊計4千、左翼に第2騎馬大隊、傭兵と民兵の計5千を方形に配置し、防御力を高めた陣形をとっている。


「ゼクス騎士団長、全軍配置に着きました!」

「うむ、敵との会敵はいつになる?」

「は、あと1時間ほどで突撃距離に入ります」

「よし、全軍に突撃準備を命令しろ、司令部の合図で全部隊が敵密集陣に突撃するのだ。突破後は、左翼は後背から敵を襲え、敵密集陣を引き付けるのだ。右翼及び中央は敵主力本隊に向かう」



「よお、ダスティン、調子はどうだ?」

「オーウェンか、まあまあだな。しかし、ギルマス自ら傭兵に志願するとはな」

「ははは、冒険者だけを危険な目に逢わせられんさ。それに、俺が死んでも組合にはリサがいるから大丈夫だ。まあ、アイツの旦那が魔物ってのは可哀そうだからな。せいぜい戦ってやるさ。それより、お前こそ、いの一番に民兵に志願したって言うじゃねえか」

「ふん、俺にも守らなくちゃならん娘たちが大勢いるからな」

「ははは、そうかよ。そりゃ大変だな」


「ダスティンのオヤジ!」

「レオンハルトか、お前も参加していたのか。なんだ?」

「この戦いで生き残ったら、ユウキちゃんを嫁にくれよ」

「バカか、誰がやるか。お前にゃメスのオークで十分だ。ここで嫁を見つけろ!」

「ははは、手厳しいな。冗談だよ冗談。ははは」


「おっと、そろそろ始まるらしいぜ」

 オーウェンが慌ただしく動く騎士団を見て言った。ダスティンはバトルアックスを握りしめ、ユウキやマヤ、娘たちの居場所を守るため気合を入れるのだった。


 ゴブリンエンペラー率いる主力軍が姿を現した。構成する魔物もホブゴブリン、ハイオーク、オーガ、キュクロプスといった強力な魔物が中心だ。魔法を使う魔人グレンデルも結構な数がいる。何よりも主力兵たるゴブリンの数が非常に多い。このゴブリンやオークを揃えるため、どれだけの人間の女性が犠牲になったのか。それを想うと、騎士団員たちは魔物に対して改めて闘志を燃やすのであった。


『人間どもめ。今こそ奴らを喰らい尽くして、この地域に魔物の王国を築いてやる』

『グフフ、恐怖しろ人間どもよ、皆殺しにしてやる。さあ! 者ども、人間を殺せ!人間を殺せ!人間をもっと殺せ! 情けをかけるな、死を与えよ!』


『前進!』


 ゴブリンエンペラーの命令が発せられると、一斉に魔物が動き出す。その様子を遠望していたゼクスは、麾下全軍に命令を下し、最終決戦の火蓋が切られた。


「わが軍の諸君! 今こそ魔物を駆逐し、王国の安寧を図るのだ! 間もなく第6騎士団が駆けつける。それまで持ちこたえられれば勝てる! 王国騎士団と王国国民の底力を見せる時だ。愛する者、大切な者を守るために戦え、戦士たちよ!」


「全軍突撃!」


 両者が地響きを立てて激突する。左翼の傭兵・民兵の混成団は第2騎馬大隊が蹴散らしたゴブリンたちに一斉に攻撃を仕掛けた。歴戦の冒険者や元冒険者で構成する混成団にゴブリンは次々と倒れていくが、新たな密集陣が押し寄せ、混成団を押し包んでいく。


「ホブゴブリンとハイオークが出て来たぞ! 魔法が使える者は支援を頼む! 攻撃魔法を使える者はどんどん放て! Cクラス以上は上位魔物を叩け!」

 オーウェンが自身もゴブリンを大剣グレートソードで切り裂きながら、傭兵たちに指示を出す。


「ぬおおおおお!」


 ダスティンも掛け声とともにバトルアックスを振るい、ゴブリンやオークの首を刎ね飛ばし、胴を両断する。しかし、魔物の数は多く、傭兵にも民兵にも倒れる者が出て来るが、一旦敵陣を突破した第2騎馬大隊が戻ってきて、再び騎馬の打撃力を叩きつけると魔物が混乱に陥った。


『小癪な人間どもめ! まとめて叩き潰してやる! ディーノス、ミノタウロス、奴らを殺せ! チャンピオン、お前らも行け』

 右翼側密集陣の指揮官である、ゴブリンキングが、配下のゴブリンチャンピオンを民兵団に向かわせるとともに、巨大な人喰い馬ディーノスと巨大な戦斧を持った牛頭魔人ミノタウロスを呼び寄せた。


「ダスティン、アレを見ろ!」

 オーウェンの指さした方向をダスティンが見ると、体高が人の倍もある巨大な漆黒の馬が、不気味に赤く光る眼を爛々と輝かせながら、突っ込んで来きた。


「何だアレは!」


 ダスティンが叫ぶ間もなく、今度は反対側から悲鳴が上がる。ダスティンとオーウェンが振り向くと、ミノタウロス数体が巨大な戦斧を振り回し、民兵の体を切り裂きながら乱入してきたのが見えた。その側にはゴブリンチャンピオンの姿も複数確認される。


「こりゃあマズイぞ…」

 騎馬大隊の奮戦で、一時的に優位に立った混成団だったが、騎馬部隊はディーノスに蹴散らされ、ミノタウロスが民兵を圧倒し始めたことで、一気に窮地に陥った。


「オーウェン、ミノタウロスを頼む! 俺はあのバケモノ馬を殺る。ドワーフたち付いてこい!」

 ダスティンはそう叫ぶと、ディーノスに向け突進していった。


 一方、第1騎士団本隊と右翼部隊は数に劣る密集陣の一つを粉砕すると、そのまま敵主力の左斜め後方から襲い掛かった。


「ゼクス団長! 敵本隊に取りつきました!」

「よし、重装歩兵を前面に出して敵陣を突き崩せ! キュクロプスとガルムが出てきたら弓兵隊と投擲隊で迎え撃て。いいか、重装歩兵隊が今回の戦いの要だ、弓兵、歩兵による支援を怠るな。重装歩兵隊、突入せよ!」


 重装歩兵がロングランスと大盾を構えて前進する。ゴブリンやオークが一斉に攻撃を仕掛けるが、たちまちのうちにランスに貫かれ、盾に弾き飛ばされる。


『人間どもめ、ふざけおって…、ただでは済まさんぞ。グレンデル! 魔法で奴らを蹴散らせ! ハーピーは上空から攻撃を仕掛けよ! キュクロプス隊は突撃!』

 フォボスは矢継ぎ早に指示を出す。


『カリュドーンに奴らの後背を襲うように言うのだ!』


 第1師団の前面に立って戦う重装歩兵連隊の連隊長は魔物の動きに変化が出て来たことに気づいた。


「なんだ、様子が変だぞ…。連隊、一旦進軍速度を落とせ、奴らの様子がおかしい!」

「連隊長、魔人グレンデルが出てきました! 数はおよそ300!」

「グレンデルだと…、いかん! 魔法で攻撃をしてくるつもりだ。防御体勢を取れ。伝令兵、司令部に支援要請! 投擲隊と騎馬隊の突入を要請しろ!」

「はっ! 司令部に投擲隊と騎馬隊の突入を要請します!」

 伝令兵が出て暫くすると重装歩兵の後方から悲鳴が上がるのが聞こえた。


「連隊長、後方の投擲大隊にハーピーが襲い掛かっています! 現在、弓兵隊が応戦中。しかし、数が多く撃退には時間がかかりそうです!」

「連隊長! 魔法が来ます!」


 支援を失った重装歩兵連隊に、グレンデルの放った炎弾や電撃が襲い掛かる。重厚な盾により炎弾は防ぐことが出来たものの、電撃は金属の盾や鎧を通過し、中の兵を感電させ、隊列から落伍させる。


「くそ、マズイぞ…、こっちの魔法兵はどうした!」

「後方の混戦によって近づくことが出来ません!」

「このままでは打ち破られる。こうなったら、死中に活を見出すしかない! 連隊前進! 魔物どもを食い破れ! ロングランスで串刺しにしろ! 進め、進めーー!」


「ゼクス団長! グレンデルが出現し、重装歩兵が窮地に陥っています。騎馬連隊の突入を求めてきています。弓兵隊はハーピーと交戦中。投擲隊の被害甚大!」

「騎馬連隊に、左側面から突入するよう伝えろ。何としても重装歩兵を支援するのだ」


「ゼクス団長! 後方から…、本隊の後方から巨大な猪が迫ってきます!」

「何だと!」


 魔物軍の思いも寄らぬ攻勢に第1騎士団は苦戦を強いられていた。

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