表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

146/620

第146話 魔人覚醒(ユウキvsクレスケン:中編)

 クレスケンは、ルナが倒され、ユウキが治療していた様子を何の感情も持たない目で見ていた。そして、にやりと不敵に笑うと右手を高々と上げて叫ぶ。


「魔剣ダーインスレイヴ、我が求めに応じ、我に力を与えよ。真の力を今ここに!」


 ユウキが驚いた様子で見てると、マヤに弾き飛ばされていた魔剣が光とともにクレスケンの右手に納まり、妖しく輝く。


「この俺様が魔剣の真の所持者。ルナごときに扱えるものではなかった。さあ、ユウキ、決着をつける時だ」


「白夜、ボクに力を貸して! いくぞクレスケン! 今こそお前との因縁を断ち切る!」


 ユウキとクレスケンが相手に向かって踏み出し、激しく剣をぶつけ合う。ユウキが白夜を振り下ろせば、クレスケンが受け止め、カウンターで袈裟懸けを見舞う。それをユウキが頭上で止める。白夜とダーインスレイヴが激しくぶつかる剣戟の音が辺りに響き、お互いの剣から火花が飛ぶ。


「ハハハハ! その程度かユウキ!」

「黙れ! ボクの力はこんなものじゃない!」


 ユウキは一旦、クレスケンから離れ、剣を真っ直ぐ構えると、大きく足を踏み出して地面を蹴り、その勢いで得意の三点突きを放つ。一瞬の間に飛んで来る連続突きをクレスケンは全部防ぐことはできず、右肩を斬り裂かれ、大きくよろめいた。


「ぐぬっ!」


 深く斬られた傷の痛みで、クレスケンは唸り声を上げ、防御に隙が出来る。ユウキはそれを逃さず、白夜を下から斬り上げて、クレスケンの右腕を肩の付け根から斬り飛ばした。


『クレスケン様!』


「があっ! き、貴様…、よくも、よくもやってくれたな…」

 クレスケンが切断された肩口を左手で押さえながら、ユウキを睨みつける。


『マ、マヤ…、ユウキは、ユウキは何故あそこまで戦えるの? クレスケン様は自分を自分を陥れたこの国の人間全てに復讐するために、その手段として魔物に近付いたと言った。その原因となったユウキを特に憎んでいる。その気持ちはわかる。でも、ユウキが戦う理由ってなに?』


『ルナ、ユウキ様の戦う理由はただ一つ。自分の大切な人たちを、大好きな人、愛する人を守るためです。複雑な理由はありません。そのために、魔物の侵攻に協力したクレスケンを許せない。それだけです』


『マヤ、私たちがこの国に進攻した時、最初に攻撃してきた人間の兵たちは、圧倒的に数が少ないのに果敢に挑んできた。そして全滅したの。中には数人で何千もいる中に飛び込んできて戦い、死んだ兵もいたわ』

『魔物ならそんな事しない。何故? どうして人間はあそこまで戦えるの?』


『ルナ、それはユウキ様と同じ理由です。彼らは家族や恋人を、愛する者を守るために命を懸けて戦ったのです。魔物にはない感情です』


『愛する人を守る…。愛する人のために戦う…。愛って何? わからない…』



 クレスケンは斬り飛ばされた肩口を押さえて呻いている。ユウキは止めを刺すために、ゆっくりと近づいて行くが、クレスケンの様子がおかしいことに気づいた。


「な、なに? クレスケンの傷口から得体の知れない黒い物が出ている…」


「グオオオオオオオッ!」


 クレスケンが物凄い咆哮を上げると、右肩から魔物のような禍々しく、赤黒い腕がズルっと生えて来た。指は5本あるが全てに長く鋭い爪が生えている。そして、その手にはいつの間にかダーインスレイヴが握られていた。


「な、クレスケン、お前は、ま、魔物に…。それにその剣、いつの間に…」

「フ、フハハハ、アハハハハ! 凄い! 凄いぞ魔剣ダーインスレイヴ!」


「ユウキよ、バカなお前に教えてやろう。このダーインスレイヴはな、一度抜けば相手を必ず死に追いやると言われる魔剣だ。俺のこの力も、再生した腕も、全てこの魔剣の力だ。魔剣はお前の命を望んでいるのだ! アハハハハ!」


「なんて恐ろしい剣なの…。だけどこの「白夜」はボクの心の力。そんな魔剣には負けない!」

「フン、ならばかかってこい!」


 再びユウキとクレスケンは激しく剣を交える。技量と素早さはユウキが上、体力とパワーはクレスケンが上。そして剣の能力は互角。このため、お互い決め手に欠ける戦いが続いたが、クレスケンがユウキを狙って大振りになったところを、ユウキはバックステップで躱し、踏み込んだ勢いでみぞおちの部分に鋭い蹴りを見舞った。


「がはっ!」

「たああああっ!」


 クレスケンの息が詰まり、たたらを踏んだところで、ユウキは白夜を振り下ろし、クレスケンの左肘から先を斬り飛ばした。しかし、右腕同様、魔物の腕が再生してくる。


「…っ!」


 ユウキが怯んだ様子を見て、クレスケンは不敵に笑うと、魔剣を振り上げて力任せに攻撃してきた。


「どうした…。こんなものか? 俺を失望させるなよ。死ね!」

 魔物の腕になったことで、パワーが増したクレスケンの攻撃に、ユウキは徐々に体力が奪われ、押し込まれてきた。必死に攻撃を受け止めるが、限界が近づいている。


(う…ぐ、抑えきれなくなってきた。一旦離れて魔法による攻撃に切り替えよう)


 魔法による防御障壁を展開し、剣の打撃を防いだ隙に、大きく距離を取ったユウキは精神を集中し、腕の前に黒い超高熱の黒い塊を作り出した。それを見たクレスケンは驚く。


「魔法か! しかも四元魔法ではない。なんだその魔法は!」

「ボクが使うのは暗黒魔法。四元魔法とは対極の存在、防ぐことはできない!」


「フレア!」ユウキが叫ぶと、腕の先から超高熱の球体が高速で打ち出された。

「小賢しい! この腕によって俺の魔法威力も高まっている。サンダーウェーブ!」


 高熱破壊魔法フレアと電撃魔法サンダーウェーブが両者の中間でぶつかり、大爆発を起こした。


「きゃああああ!」「うぐうっ!」


 ユウキとクレスケンが猛烈な爆風によって吹き飛ばされる。


『ユウキ様!』『クレスケン様!』


 マヤとルナも大きな声で、それぞれの主人の名前を叫ぶ。


 体勢を整えたのは両者同時。ユウキもクレスケンも再び魔法を打つ体制に入るが、先に行動を起こしたのはクレスケンだった。

「ライトニング!」電撃がユウキを襲う。ユウキは魔法を解除して、横っ飛びし、攻撃範囲から逃れるが、クレスケンは次々と魔法を放ってきて、逃げるのはかえって危険と判断したユウキは魔法障壁による防御に切り替える。


『マズイです。ユウキ様の魔法は威力が大きいだけに発動に時間がかかる。しかし、クレスケンは威力を落として連射してきた。このままでは…』

 マヤが不安そうに、苦しそうな表情で魔法を防いでいるユウキを見る。


(アイツには魔力の限界がないの? これも魔剣の力なの? どうにか攻撃に転じなければ)


 ユウキは、ライトニングを魔法防壁で受けた後、次の魔法が発射される直前に防壁を解除し、横に飛んで位置を変え、比較的連射のきく低威力の魔法を放った。


「ダークフレイム! ダークフレイム! もう一発!」

「うぉっ!」

「今だ、精神を集中して…、フレア!」


 思いがけないユウキからの攻撃にライトニングを解除してダーインスレイヴで暗黒の炎を切り裂いて防いだクレスケンだったが、その隙にユウキがフレアを放ってきた。クレスケンは高速で迫る魔法に対処ができない。目を見開いたクレスケンをフレアが直撃し、大きな爆音とともに爆炎が包み込んだ。


「ウォオオオオオオ!」

『きゃあああ!クレスケン様!』ルナの悲鳴が上がる。


「き、決まった。フレアが直撃したんだ、粉々になって飛び散ったはず」

 爆炎が晴れてクレスケンのいた場所を見る。そこには直径数mのクレーターが出来ていたが、クレスケンの残骸らしきものは見当たらない。


「え、う、うそ…。クレスケンがいない?」

『ユウキ様、上です!上を見て!』


 マヤの叫びにユウキが上空を見るとそこには、背中から蝙蝠のような翼を生やして滞空し、悠然とユウキを見下ろしているクレスケンがいた。


「な、なに、あれ…」

 ユウキはあまりの出来事に思考が付いて行かない。マヤもルナも驚愕の表情でクレスケンを見る。


「ハハハハ! 素晴らしい、素晴らしいぞダーインスレイヴ! この剣がある限り俺は無敵だ! さあ魔剣によってパワーアップしたこの力、受けてみろ!」

「サンダーウェーブ!」


 ユウキに向けて強烈な雷が広範囲に降り注いでくる。躱せないと判断したユウキは、頭上に防御障壁を展開して、雷を防ぐ。


「う、ぐぐぐ、凄い圧力。さっきよりずっと威力がある…。このままでは防ぎきれない。何とか反撃に転じなければ…」


「そろそろ終わりにしようか。ユウキ、裁きの雷によって安心して死ね!」


『ユウキ様! 逃げて!』


(マヤさん…、無理…)


 マヤの声がユウキに届くが、サンダーウェーブが降り注ぎ、ユウキは自身の身を守るのが精一杯。動きが全く取れない。


「ジャッジメント!」


 クレスケンが叫ぶと天空から巨大な熱雷がユウキ目掛けて降り注ぐ! 今、ユウキは絶体絶命の窮地に陥った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ