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第143話 北方荒野の戦い(前編:エクスプロージョンの力)

 学徒出陣の命令が出された2日後、王国高等学園の生徒2年生(15歳以上)と3年生全員が思い思いに武装して北門前に整列している。生徒の前にはバルバネスを始めとする教員と学園部隊を指揮するモーガンが並んで立っている。教員もまた全員武装している。


「只今より、学園部隊は北方、ラナン方面に向けて出発する。秩序を持って進軍せよ!」

「各クラスごとに3列縦隊で前進する。先頭は3年S,A,B、2列目はC,D,Eの順。2年生も同様だ。では前進開始!」


 モーガンに続いてバルバネスが指示を出す。生徒は指示された通りに整然と歩き出した。


「ララさんの杖、変わってますのね。不思議な魔力を感じます。何と言う杖なんですの?」

「これはね、大地の杖って言うんだよ。術者の魔力と魔法の威力を高める力が込められているのよ」

 フィーアの疑問にララが得意そうに答える。


「カロリーナ。お互いご家族の無事が確認できて良かったですね」

「ええ、ユーリカも良かったわね。これで安心して戦いに行けるわ。ただ、神聖隊のみんなが三連星を残して死んでしまうなんて…。それも私の家族を逃がすために。彼らには感謝してもしきれないわ。私は絶対に彼らの敵を討つ!」


「ねえ、カロ、カロの剣、体の割に大きいんじゃない? 大丈夫なの?」

 シャルロットがカロリーナが背負っている大剣を見て不思議そうに言う。


「大丈夫よ。それにこの剣、特殊でね。私にしか使えないのよ」

「へえー、何でそんなもの持ってるの?」

「それはヒ・ミ・ツ」

「キモ!」

「何でよ!」


「お前ら煩いぞ静かにしろ、緊張感がないのか、全く」

 バルバネス先生がカロリーナを苦笑いしながら注意する。フレッドもヘラクリッドも笑っている。カロリーナは急に恥ずかしくなって、顔が赤くなってしまった。


 途中休憩を挟みながら半日程歩いて指定の位置に到着した。


「行進止め、適時休憩を取れ」


 モーガンの指示に従って全員が水分を補給したり、軽く食事を摂ったりする。1時間ほど休憩を取っていると、数騎の騎馬兵が走って来た。


「副騎士団長! 魔物軍の別動隊を発見しました。別動隊を率いているのは魔人グレンデル。数はおよそ5千。その後方に未知の魔物の姿も確認されます」

「現在、騎兵1個小隊で別動隊をこちらに誘導中! あと1時間程度で見えてくるはずです」


 偵察騎兵の報告にモーガンは「ご苦労」と頷く。


「モーガン隊長、魔物の別動隊を敢えてこちらに誘導しているのはどうしてですか? 私たちも移動した方が良いのではありませんか?」


 フィーアが移動を進言するが、モーガンは「不要だ」と答え、ララとカロリーナを呼び寄せた。


「ララ君、カロリーナ君、ユウキ君から君たちの事は聞いた。間もなくグレンデル率いる5千の別動隊が来る。任せてもいいか?」


「モーガンさん、私たちを信じて任せて。後ろに下がって見ててください。あと、誘導してくれている騎兵の人達を早くこちらに。カロリーナ、行くわよ」

「オーケー、ララ。私がキチっと守ってみせるわ」


 2人のやり取りをモーガンとバルバネス、そしてフィーアもユーリカも一体何が起こるのだろうかと見守る。しばらく待つと視界に魔物の軍勢が見えて来た。距離は2~3kmほど離れている。


 ララは学園部隊から10mほど前に進み出ると魔物の軍勢の位置を確認して、大地の杖を高く掲げ、精神を集中し始めた。カロリーナはララの直ぐ後ろについて、こちらも魔法の準備に入る。


「な、なんですの? このララさんの魔力、尋常な力じゃありませんわよ!」

 フィーアが驚いたようにララを見る。


『全ての源、全ての力、我が求めに応じ、今ここに顕現せよ。全てを破壊する力となりて我に威力を示せ』


 ララの呪文に応じるように、魔物の軍勢の上空に直径200mを超える魔法陣が形成される。以前、脊梁山脈で試し撃ちした時の倍の大きさだ。モーガンを始め、その場にいる全員が巨大な魔法陣を見て圧倒される。魔物たちも突然上空に現れた魔法陣に驚き、右往左往している様子が見える。


 ララが呪文を唱えて魔法陣を発生させたことで、ヒルデがフィーアの側に走ってきて、興奮したように話してきた。


「フィーアさん! あれは呪文、呪文ですか? ララさんは呪文を唱えているんですか!」

「え、ええ、恐らく。それにしても、あの巨大な魔法陣は一体…」


 全員が固唾を飲んで見守る中、ララが魔法を発動させた。


『エクスプロージョン!』


 ララが叫ぶと同時に、上空の魔方陣が真っ赤に光輝き、魔法陣全体が中心に向かって収縮した瞬間、もの凄い轟音とともに大爆発が起こった。爆発の中心では巨大な爆炎が巻き起こり、周囲の岩や土を巻き上げた土煙が100m以上も立ち昇り、巻き上げられた石や岩が強烈な爆風とともに学園部隊の方にも押し寄せて来きた。


 フィーアたち学生は、大きな岩や石が自分たちに向かって飛んで来るのを見て悲鳴を上げる。


「アイス・フィールド!」


 カロリーナが周囲に氷の防壁を多重に展開し、爆風や落下物から全員を守り、学園生徒側には1人の怪我人も出なかったが、魔物の軍勢がいた場所は直径200m以上のクレーターが形成され、魔人グレンデルを始め、魔物は1体残らず爆発や爆風に巻き込まれてバラバラになって消し飛んでしまい、動くものは1体も見当たらなかった。


「ラ、ララ君とカロリーナ君をセットにしなければならないといったユウキ君の言葉の意味が良く分かった…」


「しかし、私が知っている魔法とは威力も効果範囲も桁違いだ。一撃で5千もの部隊が消し飛ぶなんて信じられない。これが破壊魔法というものなのか」


「だが、これで魔物の主力部隊に勝てるかもしれない。希望が見えて来たぞ」


 モーガンは放心状態から立ち直り、ユウキの言う通りミザリィ平原に移動すべきと考え始めていた。一方、バルバネスも驚愕の表情でララを見つめ(確かにこれは危険な力だ。ユウキの言う通りララは学園が責任をもって守らなければならない)と考えていた。


 ララとカロリーナが、クラスメートの元に戻ると、フィーアとヒルデは腰を抜かしてへたり込み、ユーリカは真っ青な顔をして立ち竦んでいる。シャルロットもユーリカの後ろに隠れて震えていた。学園生徒全員も信じられなものを見たような表情をしている。


「え、えっと、驚かせすぎたかな?」

「まあ、初めてエクスプロージョンを見れば、あんな感じになるわよね。実際、私もそうだったし」


「ラ、ララさん、今の、今の魔法は一体なんですの?」

 フィーアがへたり込んだまま、ララに聞く。


「究極破壊魔法エクスプロージョン! 失われた古代の魔法。どうやって手に入れたかは乙女の秘密よ」

 ララが得意そうに、無い胸を張って自慢する。


「エクス、プロージョンと言うのですか。信じられない。この世にこんな凄まじい魔法があるなんて…」


「うう…、グス…」

「ヒルデ? どうしたの?」カロリーナが涙を浮かべてるヒルデを見て声をかけた。

「す、少し、ちびってしまいました…」


 カロリーナは苦笑いしながら、ヒルデを立たせ、バルバネスに断りを入れてから、岩陰にヒルデを連れて行った。


「ここで着替えるといいよ。ん? あれは、あれは何!」

 カロリーナが見上げた先に、複数の魔物が高速で接近してくるのが見えた。

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