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第14話 連絡馬車と冒険者

 年が明けて直ぐの冬晴れのある朝。イソマルト村から王都に向けての連絡馬車が出る日、優季はいよいよ旅立ちを迎えようとしていた。


「今までありがとうございました。この世界に来て、死にかけて。バルコムおじさんに助けられて本当に良かったと思ってます。そして、ボクの生きる道を示してくれて…。感謝してもしきれません」


『うむ。儂もユウキに出会えて良かった。失った何かを思い出したようでな』

『なに、これが永遠の別れとなるわけではない』


「そろそろ出発したいと思います」

『待て、これを持って行け』


 バルコムが出したのは金色に輝く指輪だった。


「指輪?」


『この指輪は魔具でな。魔力を込めると遠くに離れていても会話ができる。王都にいても儂と話ができるのだ。どうしても困ったことがあったら使うがよい』


「これがあればおじさんと話ができるのですか。やった! 寂しくなったら連絡しますね!」


『うむ、待っているぞ。それとこれだ』


 バルコムは小さな黒色の珠が埋め込まれたネックレスを差し出した。


「これは…。きれいな首飾りですね」

『このネックレスに付いている宝珠は。魔物を暗闇の中に閉じ込めることができる』

「へえ」

『わからんか、その首飾りがあれば、マヤやスケルトン達をその中に入れておくことができる。お前の旅に連れて行けるのだ』


「ほ、ホントに!」


『うむ。ただし、人の世界でアンデットを呼び出すのはリスクがある。魔物は討伐の対象だ。また、教会に目を付けられると異端者として迫害を受ける可能性がある。だから、よほどのことがない限り呼び出すことはできない。それでも良ければだが』

『どうする。使うかどうかはお前の判断だ』


『ユウキ様』


「マヤさん」


『私は付いて行きたいです。いつ呼び出されるかわかりませんが、その時が来たらあなたの側でお世話がしたい』

『俺もだ。俺の力はいつか絶対役に立つ』

『私も付いて行きます。お嬢様のおっぱいの成長を見届けなければなりません。おっぱいこそ正義です』

『お前は、ホントぶれねえな…』


「ありがとう! ホントに一緒に行ってくれる? 格さんはお留守番しててね」


『はい!』

『ああ!』

『感謝の極み。いや、待って、私も行きますよ!』


「でも、マヤさん達がボクに着いてきたらこの家はどうなるの?」

『心配することはない。わしの眷属を出して管理させる。ノゾミの墓も守っておく』

「ありがとう! よかった…」


「じゃ、そろそろ行くよ」

『うむ、それではまず…』


 バルコムが手に持った杖を振ると、黒い霧がマヤと助さん、格さんを包み、首飾りの黒い珠に吸い込まれた。


『では、行ってこい』


 バルコムは杖を振ると、優季は光に包まれ、バルコムの目の前から消えた。


 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇


 バルコムに転移させられたのはイソマルト村の入り口近くだった。イソマルト村の入り口は丸太で作った素朴な入り口があり、門番らしき人が立っているのが見える。

 優季は初めて見るイソマルト村や、この世界で初めて出会う人々に期待と不安が入り混じる。そして、イシュトアール世界の第一歩を踏み出した。


「こんにちは」


 門番は2人で、2m程度の槍を持っている。年は30歳くらいかなと思っていると「ん、お嬢ちゃん、見ない顔だな。村に何の用だ」と1人が話しかけてきた。


「えと、ここから少し離れた所に住んでいる者です。王都に向けて連絡馬車が出ると聞いて、王都に行くために来ました」

「んん? 怪しいな。この村以外に人が住んでいると聞いたことはないが……」


 今の姿は防寒のため、助さんが狩った動物の毛皮からマヤが作ったコートと、皮を重ね合わせた厚手のブーツを履いている姿だ。


(怪しいかな?)と優季は焦る。


「まあ、女の子1人で何かできることもないか。よし、入れ」


 暫く優季を見ていた門番は村に入ることを許可してくれた。


「連絡馬車は、ここから真っ直ぐ進んだ先にある広場から出る。馬車の手前に受付があるぞ」

「ありがとうございます」

「早く行きな」


 広場に行く途中の村を見回すと、通りに沿って野菜や肉、日用品を売っている店が開いている。季節が冬だからか、食料品の品ぞろえは少ない。商店の背後には民家が点々と規則性なく建ち並んでいる。広場の方に目を向けると2階建ての尖塔を持った建物が見えた。


挿絵(By みてみん)


 キョロキョロ見回ししながら歩いていると10分ほどで目的の広場についた。広場には2頭建てで、5m位の長さの客車を持つ馬車が4台ほど待機していた。優季は馬車の手前にある受付に近付くと、馬車に乗りたい旨を告げる。


「王都まで乗せてもらいたいんですけど…」


 受付の男は優季をじろじろ見て料金を告げた。


「1人か。20日間の行程で、銀貨20枚。途中提供する食事が銀貨10枚だ。途中の町の宿泊費は各自だぞ。あと、期間が延びたら1日当たり銀貨2枚追加だ」


(銀貨1枚が1万円位だから、約30万円か。結構高いな)


「高いと思うかもしれんが、護衛を付ける代金も含んでいるんだ。払えないなら諦めろ」

「いえ、払います。えと…、はい、10…、20…、30枚!」


 優季はあらかじめマジックポーチから財布に移していたお金を払う。


「ああ、確かに。これは受け取りだ、大切にとっておけ。先頭の1号車に乗りな」


 優季は指定された先頭の馬車に乗り込むと先客がいるのに気づく。皮のローブを着こんだ商人風の男と、10歳位の男の子を連れた夫婦、端の方に武装した20代の男の5人だ。武装した男は馬車に雇われた護衛だろう。


 優季は少し離れた所に座ると馬車の中がほんのり温かいことに気づく。周りを見回すと、客車の先頭、丁度御者席の後ろのに当たる部分の床にストーブらしきものがあるのに気づいた。


「そいつは、火の魔法を封じた魔石を利用した暖房具さ」


 武装した男が話しかけてきた。


「俺はレオンハルト。王都の冒険者組合に所属するCクラス冒険者さ。この馬車の護衛に雇われている。仲間は3人。1人ずつ馬車に乗り込んでいるよ」


「へえ、そうなんだ。あ、ボクはユウキ。王立学園を受験するために、王都に向かうところなの」 

「1人でか? まあ、道中困ったことがあったら相談しな。美人には優しくするぜ」

「う、うん。ありがとう…」


 優季はレオンハルトを見て(ちょっと軽薄そうだな)と思うのであった。


「そろそろ出発するぞ。最初の目的地はラナンの町だ」

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