表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

137/620

第137話 オルテュ平原の戦い(後編)

「騎士団長! 大変です。我が軍の後方に敵の部隊が現れました。主体はゴブリン、オークと魔犬ガルム。数は約5千、率いているのは魔人グレンデル!」

「現在、後衛の第2から第4大隊が迎撃していますが、第4大隊は壊滅状態で兵が混乱し、第2大隊長が全体の指揮を取って部隊を再編しています!」


「なんだと! 5千もの部隊が我々の索敵に引っ掛からなかったというのか!」

「魔人グレンデルは、魔法を使うという話です。索敵を阻害する魔法を使ったのでは?」


「今はその事はいい。現在の状況に対処する事が先だ。現在のわが軍兵力はどうなってる?」


「はっ、残存約5千2百ほど。戦闘力を有しているのは我々歩兵連隊と歩兵第2、第3大隊のみ。騎兵連隊と騎兵第1、第2大隊、歩兵第4大隊はほぼ全滅、重装歩兵も約7割の損害を出しています。弓兵隊は兵員数は損なっていませんが矢がありません」


「敵に与えた損害は?」

「前衛部隊をほぼ壊滅させました。約1万以上は損害を与えたものと推察されます」

「うむ…。ゴブリンエンペラーを倒すという目的は達せられなかったか…。残念だ」


 グレンは暫し考えた後、伝令兵に向かって次の命令を下した。


「命令! 全部隊転進、後背のグレンデル部隊を突破し、砦方面に移動する。その後、部隊を再編し、王都に向かう。敵の主力が来る前に移動するのだ」


 グレンの命令を受けた第4騎士団の主隊は、第2、第3大隊と合流し、グレンデル率いる部隊と戦闘を開始した。しかし、双方の兵力は拮抗し、騎士団側は度重なる戦闘によって疲労が蓄積しているため、グレンデルの部隊を押し返すことができない。なんとか突破口を開こうと戦う第4騎士団の後背からゴブリンエンペラー率いる主力軍が襲い掛かって来た。


『フハハハハ! 捉えたぞ、全軍突撃! 人間共を皆殺しにせよ!』


 ゴブリンエンペラーの命令に、魔物兵が一斉に第4騎士団に襲い掛かる。クレスケンは冷静に、ルナは動揺を隠せない様子で戦いを見つめる。


「くそ、もう追いついてきたか。連隊長、私と共に殿を務める部隊のみ残し、後は戦闘を放棄してこの場から兵を脱出させろ!」

「王都に逃げるように言え、第1騎士団に合流し、再起を期すように伝えるのだ。急げ!」


 グレンはそう連隊長に命ずると、「我に続け!」といって最後の突撃を敢行した。


 グレン騎士団長は魔物との戦いの中で壮絶な戦死を遂げ、連隊長も命令を伝えた後、魔物の群れに突入して戦死した。このグレンたちの命を賭した奮戦によって、約2千人の兵を脱出させることに成功したが、栄光ある第4騎士団はここに壊滅したのであった。



「第4騎士団が全滅しただと…」


 王宮内の会議室に集合した国王マグナス、第1騎士団長ゼクス、親衛隊長ルーテ、財務局長オプティムス候のほか、多くの閣僚が集まっている。その中で、命からがら脱出に成功した第4騎士団第2歩兵大隊長が戦闘の顛末を報告している。


「敵の主力軍は5万を数え、数に劣る我々は敵軍を率いるゴブリンエンペラーを倒すべく、中央突破を狙いましたが、敵陣を突破することは叶わず、グレン騎士団長、マークス副騎士団長とも戦いの中で壮絶な戦死を遂げられました」


「第4騎士団の残存兵は2200人…。申し訳ありません。陛下の兵を数多く損なった上に魔物の侵攻を食い止めることができませんでした…」

「敗戦の責は指揮官にあります。どうか私めを処罰なさって下さい。ただ、勇敢に戦った部下たちには、何卒ご寛大な処置をお願いいたします。う、うぐっ」


「第4騎士団は王国のために良く戦った。責を負うことは何もない。騎士団長を始め、皆の戦いぶりには感謝しかない。ありがとう、良くやってくれた。さあ立て。今は体を休めよ。退室してよいぞ」


 マグナスは膝を着いて嗚咽する大隊長の側に立ち、優しく感謝の言葉を述べた。大隊長が退室した後も会議室は暫く沈黙に包まれた。


「マクシミリアンはどうなったのだ。報告にはなかったが、まさか戦死したのではあるまいな…」


「マクシミリアン様は消息不明です。現在調査中ですのでもう暫くお待ち願います」

 武官の答えにマグナスは沈痛な表情をして頷く。マグナスも、今は何もできないことはわかっているのだ。


「しかし、由々しき事態ですな。魔物の軍団は第4騎士団の奮戦によって約1万ほど数を減じたものの、依然として主力軍は4万、別動隊は1万の勢力を維持しています。また、第4騎士団の戦闘詳報を見ると、魔人グレンデルやキマイラといった伝説級の魔物とも交戦したとか。マークスはゴブリンキングを倒し、キマイラと刺し違えたと報告されてます」

 ゼクスが報告書を見ながら説明する。


「マークス殿は私の剣の師で、姉の夫でした…。無念です」

 ルーテが顔を伏せながら悲し気に呟く。


「今の敵の動きはどうなっている」


「本隊は真っ直ぐ王都に向かっています。およそ1週間程で到達する見込みです。進路上の村や町とは連絡が途絶えました。恐らく住民は魔物の食料にされたかと…。また、本隊の一部はラナン方面に向かいました。北方を押さえた後、王都方面に転身する見込みです。ハウメアー方面は不明です」


「敵の本隊は第1騎士師団が迎え撃ちます。親衛隊は王家最後の砦、ルーテには王宮で王家を守護してもらいます」


 マグナスの問いにゼクスは報告書を見ながら答え、第1騎士団が出撃体制に入った事を報告した。


「他の騎士団はどうなっている。出撃命令を出したはずだが」


「第2、第3及び第5は東方の国境に不穏な動きがあるという理由で動いていません。確かに、隣国が国境に兵を集めているという情報があります。国境を接していない南方防備の第6騎士団のみ、出撃準備に入ったとのことです」


「何だと! それでは第1騎士団だけに負担を強いることになるではないか。この戦争が終わったら責任を問うてやるぞ!」


 気色ばむマグナスに向かってゼクスは冷静に対処案を話し始めた。


「第4騎士団は絶望的に不利な状態で戦い、敵に大きな損害を与えました。我が第1騎士団は王国最強の師団です。グレンやマークスに恥ずかしい姿は見せられません。ただ、数的に不利なのは確か。そこで、国王陛下にご裁可を頂きたい事案がございます」


「なんだ、申して見よ。この際だ、打てる手は何でも打とう」


「それでは申し上げます。一つ目は王都の冒険者を傭兵として雇い入れること。二つ目は王都で民兵を募集し、それぞれ第1騎士団の配下に加えること。三つ目は王国高等学院の生徒を出陣させ、北方方面の警戒に充てること。以上です」


「冒険者と民兵の徴募は良いとして、学院の生徒まで戦いに駆り出すのはどうなのだ。彼らはまだ十代半ばなのだぞ。まともな戦闘訓練も受けていない」

 マグナスが懸念を示し、オプティムス候アレスが同意を示す。


「しかし、この戦いに勝つためには必要です。せめて2年生と3年生の出陣を。彼らを積極的に戦わせる訳ではありません。ラナン方面に配置することによって、敵別動隊の移動の選択支に制限をかけるのが目的です」


「第1騎士団が戦っている最中に別動隊が王都に侵入することを防ぐということか」

「そうです。我々が敵主力を殲滅後、別動隊に対峙するためです」


「わかった、学園生徒の出陣も許可しよう。今は非常事態だ。仕方がない…。ただし、積極的に戦闘に参加させてはならぬ、よいな」


 学生まで出撃させるという決定に、その場の全員が暗澹たる気分になるが、一つの朗報が飛び込んできた。通信文を読んでいた武官が、大きな声で報告する。


「情報によりますと、ハウメアー市の全人口10万が、無事脱出に成功した模様。現在、王都方面に向かっているとのこと。また、避難誘導はマクシミリアン様が率いる第4騎士団歩兵第1大隊が行っているとのことです!」

「また、避難民保護のため、第6騎士団が西方に向けて出撃しました!」

次回 第138話 逃避行

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ