第130話 「白夜」と「極光」
ユウキがバルコムの元を訪れて20日が過ぎた。夏休みも残り数日となり、いよいよ王都に向けて出発する日となった。
「バルコムおじさん…、ありがとう。ボク、ここに来て本当に良かった。おじさんと沢山お話しできて嬉しかった。王都に行っても頑張るから、辛いことがあっても、もう泣かないから、ちゃんと見ててね」
『うむ、これからもお前には沢山の試練が訪れるだろう。しかし、お前には友人たちがいる。力を合わせて頑張るのだぞ。ララ、カロリーナ、ユウキをよろしく頼むぞ』
「ハイ! バルコムさん。私たちにも良くしてくださって、本当にありがとうございました」
『お主たちに渡すものがある』
『ユウキ、お前の魔法剣を出しなさい』
ユウキが以前、バルコムから貰った魔法剣を鞘から抜き、バルコムに渡す。バルコムは刀身に描かれた古代文字を剣先の方から指でなぞり、古代語によるルーンを唱える。バルコムの指が柄の部分まで来た時、魔法剣が光り輝き、その姿を変えた。
「お、おじさん。その剣は一体…」
『これがこの剣の真の姿。名を「白夜」という。白夜は持ち手の心と意思の強さを力に変える剣だ。ユウキなら使いこなせるだろう』
「白夜…。凄く綺麗な剣」
ユウキに手渡された白夜は刀身長約80cm、両刃の直刀で、根元の部分が広く、先端に向かうに従って狭くなる形状をしている。元の姿より大きくなっているのに、持ちやすく、グリップに埋め込まれている魔法石の効果で重さをほとんど感じない。
「ありがとう、おじさん。大切に使わせてもらうね」
『ララにはこれだ』
バルコムが空間から取り出したのは1本の杖。木の枝をそのまま切り出したような無骨な形状をしている。
『これは、「大地の杖」といって、自身の魔力を増加させるとともに、魔法の威力を大幅に上昇させる効果を持つ古代の秘宝だ。今のララには必要なものになろう』
「ハイ! ありがとうございます。凄い、持っただけで魔力が溢れるようです」
『カロリーナ、お主にはこの剣を渡す』
「剣?」
『そうだ、これは神剣「極光」、大分昔に古代の遺跡で見つけたものだ。伝承では神々が魔物を滅ぼすために作ったと言われている』
「神剣って…、そんな大そうな物頂いても、私には使いこなせないと思うんですけど」
『いや、お主は自身の持つ才能に気づいていないだけだ。お主にはこの剣を使いこなせるだけの技量がある。以前、お前に触れた時、お前の心の奥に光り輝く力を感じた。儂を信じよ』
『それに、この剣はこれからの戦いに必ず必要だ。この剣でユウキを助けてやってくれ』
「……。わかりました。有難く使わせていただきます」
『助、格、2人ともユウキを頼むぞ』
そう言って、バルコムは持っていた杖を振るうと、2体のスケルトンはユウキの胸のネックレスに輝く宝珠の中に吸い込まれた。
(あ、また格さんにエッチな思いをさせてしまう。いやだな~)とユウキは思ったが後の祭り。諦めるしかなかった。
来る時に使った馬車に3人が乗り込み、マヤが御者席に座る。3人は全員でバルコムにお礼と感謝の言葉を伝えると、バルコムは杖を振るって魔法陣を展開させ、馬車を転移させた。
『さらば娘たちよ。どんな困難があっても、力を合わせて頑張るのだぞ』
馬車が転移した場所はラナンの町の郊外。王都に戻る前にララの実家に顔を出す予定だ。
マヤは、馬車をラナンの町に入れて、以前教えてもらった通りをゆっくりと走らせる。
「しかし、濃い20日間だったね。フィーアやユーリカが聞いたらビックリするだろうな」
「伝承の存在である「リッチー」とお話ししたり、頭を撫でられたりしたの、世界で私たちだけだよね。じ、自慢したい…」
ララとカロリーナは今だ興奮冷めやらぬ状態で話をする。そんな2人にユウキは今回経験したことは、秘密にするようお願いしてきた。
「2人にお願いなんだけど、ボクの故郷の話はなるべく、ぼかして話してほしいな。できれば、バルコムさんのことは必ず。2人が授かった魔法と武器の話は、その時が来るまで絶対にしないでほしい。あと、ボクの秘密も絶対に言わないで、お願い!」
「わかってるわよ。絶対に言わないから安心して」
「そうよ。でも、3人だけの秘密っていいわね」
「あの、2人とも、ボクが異世界の人間で、体を作り替えられたって聞いて、ホントに気持ち悪くない? 嫌いにならない?」
「しつこいわねアンタは」と言って、カロリーナはユウキにデコピンする。
「わあ! 痛いよ。もう…」
「アンタが変なこと言うからでしょ。私たちはねユウキが大好きなの。何度言わせればわかるのよ。すぐ忘れちゃうの? おっぱいの栄養を頭に回しなさいよ」
「ひ、酷い言われよう…。でも、ありがとうカロリーナ。えへへ」
「ララの家には間もなく着くわね。ねえ、ララ」
「ん、何?」
「お父さんたち、王都に避難させたらいいんじゃない。魔物の事話して」
「ん…。一応話そうと思うけど、お父さん聞いてくれるかな。あれで、街の人の相談役みたいなことをしているから、1人だけ逃げるのを良しとしなと思う」
カロリーナの提案にララは父の心情を推し量ると難しいのではと感じるのであった。
「そうだね…、いざその時が来たら、慌てずに町の人を避難誘導できるよう、予め考えておく事をアドバイスする位しかできないかもね」
ユウキの話にララとカロリーナは頷くしかない。そんな話をしていると『ララ様、到着しましたよ』とマヤから声がかかった。
馬車から降りたララとユウキ、カロリーナが店の中に入って行く。マヤは馬の手入れをすると言って、馬車を裏庭に回していった。
「お父さん、レナさん、また来たよ」
「ああ、お帰り。そしていらっしゃい」
ララたちが店に入ると、店番をしていたアドルとレナがいた。2人ともララたちの元気そうな顔を見て嬉しそうに笑い、家の中に入るように促した。
リビングでレナが準備してくれたお茶を頂いていると、マヤも『お邪魔します』と言って中に入って来た。みんなが揃ったところで、ララがユウキの家での出来事を話して聞かせる。
「へえ、ララはユウキさんの家で魔法の訓練をしたんだね。道理で魔力が以前より強くなったように感じたんだ。娘の成長を見るとなんだか嬉しくなるな」
アドルが、ララを見て嬉しそうに言い、ララは照れて恥ずかしそうだ。
「アドルさん、少し大切な話をしてもいいですか」
「どうしたんだいユウキ君、もちろん、聞くことは構わないが」
ユウキは、黒の大森林で魔物が大規模に増殖していること、いずれ食料がなくなった魔物たちが大挙して王国内に雪崩れ込んで来る恐れがあり、北側のルートをとった場合、ラナンが襲われる可能性があることを話した。アドルはしばし考え込む。
「それは、真実なのかい?」
「お父さん、ユウキの話は本当なの。最近、町や村、街道を襲う魔物が増えたでしょ。どうも大森林から出てきているようなのよ、信じて。お願い」
「いや、疑っているわけではない。確認しただけだ。そうか…」
「それが本当なら、イソマルトも危険だな。実はこの地方の警備を担う王国第4騎士団は、ハウメアー守備のため、ラナンから3日の距離にある砦に駐屯していて、ここには少数の冒険者と憲兵隊がいるだけで、事実上ラナンは無防備状態なんだ」
「わかった。町長とも相談して、いざという時、速やかに避難できるようにしておこう」
「アドルさん。よろしくお願いします」ユウキがホッとした様子で頭を下げながら(第4騎士団。マクシミリアン様が所属している部隊だ。大丈夫かな…)とマクシミリアンに思いを馳せた。




