第13話 バルコムからのプレゼント
格さんを叩きのめしたマヤも優季の旅立ちに賛同した。
『私はユウキ様と離れるのは寂しいです。ずっとお側にいたい』
『でもユウキ様の成長のために、王都に行かれるのに反対はできません。大好きなユウキ様のためになることをどうして反対できましょう』
「マヤさん」
『でも、ユウキ様の家はここです。ユウキ様が帰ってくるのはここしかないと思っています。いつ帰って来られてもいいように、私たちがこの家を守ります。あと、お姉様のお墓は私にお任せください。ですから、安心して王都に行って、たくさん学んで来てください! それが私の、マヤの願いです』
「マヤさん! ボク、マヤさんにずっと助けられてた!」
「マヤさんはいつも私のことを考えて大切にしてくれた。マヤさんがいなかったらボク…。ありがとう。マヤさん。ボク、王都に行って世の中を見てくるよ」
優季とマヤがひしと抱き合う。
『助さん、どう思います。我々に対する態度と大分違うと思いませんか』
『いや、俺はお前の性癖にどんびきだよ』
『儂は影が薄くないか…』
そうはいったものの、王都の学院に入学するためにはどうすればよいか情報がない。このため、マヤが大森林の近くにある村(イソマルト村)に買い出しに行った際に聞き込みをしてくれるとのことであった。
バルコムの転移魔法で家に帰ってきたマヤが村で聞いてきたことには、学院の新学期は4月からで、3月に入ると入学試験が行われること。王国民なら試験は誰でも受けられるが、試験の1か月前に学園で申し込みが必要になるとのことであった。
『イソマルトから王都まで、連絡馬車で20日くらいかかるそうです』
『今12月か、準備を始めて1月初めには王都に向かわなければならぬな。途中で雪に降られたら、さらに行程に時間がかかるであろうからな』
優季がマヤやスケルトンたちと王都に向かう準備を進めていたある日、バルコムが優季の元を訪れた。
『ユウキよ、これを持っていくがよい』と言ってポーチ状のアイテムと刃渡り30cm程の片刃のダガ―と長さ70cm、幅5~6cm程の細長い両刃の直刀、スモールソードを持ってきた。
『ポーチは「マジックポーチ」と言って、いろいろなものをほぼ無限に入れられる。荷物の運搬に役立つであろう』
『ダガーはミスリル鋼で作られたもので硬度が高く、切れ味も良い。スモールソードは昔、遺跡探索で見つけたものだ。古代の魔力付与がされているから見た目より軽い。女のおぬしでも取り回しやすいであろうと思ってな。』
『お嬢。こりゃどちらもいいブツですぜ』
助さんがダガ―とスモールソードを交互に持って感嘆の声を上げる。
ダガ―の材料のミスリル鋼は銀灰色の非常に硬く重い金属で、優季の世界でいえばタングステン鋼がこれに当たるだろう。切れ味もよさそうでサブウェポンとして十分使える。また、スモールソードは見たことのない文字が刻まれ、永久魔力が付与された白銀に輝く美しい剣だ。柄の部分には緑に輝く宝石がはめ込まれている。
『この宝石が刀身に魔力を纏わせ、これにより通常の鋼の剣より切れ味が増している。これからの旅には必要であろう』
「ありがとうございます。バルコムおじさん!」
大分気温が下がって、本格的な冬の訪れを感じさせるある日。
優季は「あの日」が来て体調が悪く、寝台に横になっていた。お腹にはマヤが縫ってくれた腹巻をして湯たんぽを入れて温めている。
「うう~。女の子になって大分慣れて来たと思ったけど、じくじく痛むのはつらい…」
優季の部屋では、マヤが自作の服や下着を選別し、マジックポーチに収容している。
『オールシーズン分を準備なければいけないので、量が多くなりますが、マジックポーチのおかげで助かります』
『女の子の日の用品もたっぷり準備しました。美容の魔具も入れておきますね』
「うん、ありがとう」
男として生を受け、この世界で姉の体を受け継いで女となった優季。体も女の子らしくなり、今ではすっかり女の子の意識が強くなっていた。
(望お姉ちゃんは胸がほとんどなかったけど、ボクの胸はどんどん大きくなっている…。何でだろう。まあ考えても仕方ないか。お姉ちゃんに生かされたこの体、この世界をお姉ちゃんと一緒に見てくるんだ)