第129話 破壊魔法エクスプロージョン
バルコムから大森林の異変の映像を見せられて5日が経った。ユウキ、ララ、カロリーナの3人の少女は、魔物たちとの戦いに備え、日々スケルトンと訓練をし、バルコムから魔法について学んでいた。
ララは今、バルコムの迷宮の奥で1人、全身の魔力を高めるための訓練をしている。エクスプロージョンの魔法解析は終わった。しかし、より魔法の効果を高めるためにはさらに魔力を得なければならない。このため、ここ暫くバルコムが展開した魔法陣の中心で心を無にして瞑想を行っている。
『大分、魔力が強くなったようだの』
「バルコムさん。はい、何か、以前の私と違うような…、そう、魔力が全身に満ち溢れるような感じがします」
『うむ。そろそろ試してみるか』
「はい」
バルコムとララは一旦、迷宮を出てユウキの家に向かう。ユウキたちは丁度休憩を取っていた所らしく、外に出したテーブルを囲んでお茶を飲んでいた。
『お前達、今からララに授けた魔法を試しに行く。見たい者は付いてまいれ』
バルコムとララを中心に大きな転移の魔法陣が形成された。ユウキとカロリーナ、3人のアンデットは慌てて、魔法陣の中に入る。
全員が転移したのは、大森林のさらに北にある脊梁山脈の荒涼とした平原だった。
『ここには何物も生息していない。思い切り魔法を放つことができる。ララよ。学んだことを実現して見せよ』
「はい」
ララは一言返事をすると、数歩前に出た。バルコムを除く全員が固唾をのんで見守る中、目を閉じて精神を集中させると、右手を前に出し、呪文を唱える。
「全ての源、全ての力、我が求めに応じ、今ここに顕現せよ。全ての物を破壊する力となって我に威力を示せ」
ララの呪文に応じるように、空に直径100mを超える巨大な魔法陣が形成される。ユウキとカロリーナは魔法陣を見て驚く。
「な、何この魔力? ホントにララが行っているの?」
「普通、私たちの魔法は呪文を唱えないで発現させる。呪文を唱えて放つ魔法なんて聞いたことがない。一体何の魔法なのよ?」
「エクスプロージョン!」
ララが魔法名を叫ぶと同時に、空の魔方陣が赤く光輝き、中心に向かって収縮した瞬間、もの凄い爆音とともに大爆発が起こった。爆発の中心では巨大な爆炎が巻き起こり、周囲の岩や土を巻き上げた土煙が数十mも立ち昇り、巻き上げられた石や岩が強力な爆風とともにユウキたちの所に押し寄せて来きた。バルコムは周囲に防壁を展開し、爆風や落下物からララやユウキたちを守る。
爆発に伴う爆炎と爆風が収まった跡には、魔法陣とほぼ同じ大きさのクレーターが形成されていた。
ユウキもカロリーナも、マヤやスケルトン達も言葉を発せずにいる。ララだけが「やったー、成功した!」と喜んでいる。
「ラ、ララ…。今のは、今の魔法はなに?」
カロリーナがやっとの思いで聞く。
「今のは、古代の魔法で、爆裂魔法『エクスプロージョン』って言うのよ。バルコムさんが私に授けてくれたの。この魔法を使って大切な友達を守りなさいって」
「凄い威力だ…。これなら魔物との戦いには大いに力になるよ」
「うん、私もそう思うけど、この魔法をどうやって習得したか聞かれた時はどうしよう」
カロリーナが不安そうにするが、ララはあっけらかんとして「その時はその時よ。笑ってごまかす!」と言い、ユウキとカロリーナにツッコミを入れられるのであった。
ララは、バルコムの元に行き、今の魔法はどうだったか聞いてみた。
『うむ。十分な威力だった。呪文を唱える際に込める魔力を高めれば高めるほど威力が増す。また、逆も然り。場面に応じて使い分けるのだ。ララ、良くここまで習得したな』
「はい! ありがとうございます。私も魔法に自信が付きました」
ララはペコリと頭を下げて、バルコムにお礼を言う。バルコムは優しくララの頭を撫でた。その後、バルコムの転移魔法で全員ユウキの家まで戻って来た。
「はあ~、エクスプロージョンにはボク、びっくりしたよ。マヤさん、みんなにお茶を入れてくれる? 一息つきたい気分」
『はい、少しお待ちくださいね』
「ララの攻撃魔法と私の防壁魔法、王国最強の攻防一体の技とユウキの力。ユウキを頂点として両脇を私たちが固めれば、何も怖いものはないわ」
「うん。機会があれば、あの魔物どもを私たちでやっつけたい! あの囚われた女の人たちの仇を執りたい!」
カロリーナとララが気色ばんで言う。その様子を見ていた格さんが、つつつと近付いてきた。
『その覚悟、お見事です。まさにユウキお嬢様を頂点とした「山」ですな』
「山?」
『左様、ユウキお嬢様の元いた世界の文字では、こう書くそうです。見て下さい、ユウキ様の大きなお胸が真ん中の高い部分。お2人の極小さな出っ張りが左右の小さい部分で「山」です』
「き…貴様、許さん! 言うに事欠いて、私たちの美貧乳を極小さな出っ張りと抜かしたな!」
「あっ、逃げた! ララ、追うよ!」
「うん! 私たちの小さき胸の素晴らしさ、体に叩き込んでやるわ」
脱兎のごとく逃げる格さん。鬼の形相で追う2人の少女。
『おほほほほ。早く私をつかまえてぇ~~~』
「キモイわ!」
カロリーナとララの声がハモる。
『なあ、お嬢…』
「なに、助さん」
『格のキャラ、段々濃くなってねえか。オレはもう追いつけねえぜ』
「うん…。もう、格さんだけカロリーナにあげようかな。仲良さそうだし」
『それがいいです。あのゲス野郎、この間、私がお風呂に入ったら堂々と覗き込んで来て『やっぱり小さな乳より大きな乳です。マヤの爆乳は素晴らしいです。ただ、少し垂れてますね。支えましょうか?』とか抜かすんですよ。どこが垂れてるって言うんですか、全く失礼な』
『とうとうマヤまで覗くとは…、何て命知らずなヤツ』
「マヤさんが本気で怒ってる。初めて見た」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
黒の大森林中央部にその王国はあった。
王国の中央に建つ大きな建物内の玉座に巨大な魔物が座っている。その魔物の元に1人の男が護衛のオーグリスを伴って近づき、囁いた。
「フォボス様」
『クレスケンか…。何用だ』
「主より指示が届きました。準備が整い次第、ロディニアへ侵攻せよと」
『準備の進捗はどうだ』
「陣容の編成にもう暫くお時間を頂きたいかと…」
『急げよ…』
「ハッ! またご報告に参ります。では、失礼いたします」
クレスケンは、「フォボス」と呼んだ魔物に気づかれないよう、ニヤリと笑うと玉座の間から退出して行った。
『主とやらめ、今は使われてやる。しかし、王国を蹂躙し、手中に納めたら、次はお前だ。この世界の王には真に強い者、この俺様が相応しい…』
ゴブリンエンペラー『フォボス』。その名のとおり、王国に混沌と恐怖を与えるため、今、動き出した。