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第123話 帰郷

 ラナンの町を出て、3日後、イソマルト村が遠くに見えて来た。マヤが馬車を街道から外れた森の方向に向かわせる。


「あれ、どうしたの? 村に向かわないの?」


 ララとカロリーナが不思議そうに尋ねて来る。ユウキは、ニコッと笑うと、窓の方を向いて外の景色を見ている。ララとカロリーナは、村が見えなくなり、周りが森だけになって、だんだん不安になってきた。


 森に入って少し経った頃、やや開けた場所に出て、馬車が止められる。ユウキとマヤが馬車から降りたので、ララとカロリーナも馬車から降りる。周りは鬱蒼とした森だ。


「ここがユウキの故郷なの? 違うよね」

「もちろん違うよ。まあ見てて」


 ユウキが指輪に二言三言、話し掛けて高く掲げた。その様子を見ていたララとカロリーナは馬車を中心に、巨大な魔法陣が形成され、強い光が輝くのを見て、悲鳴を上げて抱き合う。魔法陣の光が強さを増し、あまりの眩しさに目を閉じてしまった。


「ララ、カロリーナ、着いたよ」


 ユウキの言葉に恐る恐る目を開けると、そこは高い崖の上の開けた場所で、はるか下に広大な森が広がっていた。よく見ると大小いくつかの川も流れている。また、遠くには山々の連なりがかすかに見え、とても景色の良い場所であった。


「ここは一体…」


 ララとカロリーナがあまりの事に言葉を失っていると、ユウキは「さあ、2人を出してあげようかな」と言って、何時も首に掛けているネックレスを取り出し、黒い宝珠を握りしめる。ララとカロリーナが見ていると、宝珠から黒い霧が吹き出し、その霧の中から2体の大柄なスケルトンが出て来た。


「助さん、格さん。久しぶり。今まで出してあげなくてゴメンね」


『全くだ。マヤだけさっさと出してもらって、羨ましかったぞ』

「ふふふ、助さんゴメンね」


『しかし、ずいぶん大きくなったな。背丈もおっぱいも。これは後でじっくり観察せねばなるまい』

 助さんはユウキの胸に両手を伸ばして、ワキワキさせる。ユウキはさっと胸を手で隠して恥ずかしそうに言った。


「もう、エッチ。だから、出すのが嫌だったんだよ~」


『お嬢様、お久しぶりです』

「うん、格さんも元気そう。あ、スケルトンだから当たり前か。格さんは特にエッチだから出したくなかったけど、この場所は特別だからね」


『いや、お気遣いなく。宝珠の中にいてもユウキ様のおっぱいの谷間に挟まれて、それはもう成長ぶりを堪能しましたので、余は満足であります』


「相変わらずだね、そのドスケベぶり。後でマヤさんに言いつけてやる」

『それだけは平に、平に御容赦を!』


 ユウキと2体のスケルトンが楽しそうに話しているの見ているララとカロリーナは声も出ない。そこにユウキがスケルトンを連れてきて、紹介してくれた。


「ララ、カロリーナ。この2人は助さんと格さん、ボクの剣術や武術の師匠なんだ。凄くエッチだけどいい人だよ」


『エッチは余計だお嬢。オレは佐々木助三郎、お2人さんよろしくな』

『私は一文字格之進。お見知りおきを。ふむ、お2人とも少しおっぱいが足りないようですな。これはいけません、私が大きくなる手助けをいたしましょうか?』


「い、イヤ結構です。私はララ、よろしく…」

「カ、カロリーナです。ユウキのお友達…、です」


 ユウキは2体のスケルトンと楽しそうに話している。2人はあまりの事に、ただ目を見開いて呆然と立ち尽くすしかなかった。しかし、本当に驚くのはこれからだった。



 突然、周囲の気温が下がり、灰色の霧に覆われる。そして、巨大な魔力の波動があたりを包む。ララとカロリーナはあまりのプレッシャーに押しつぶされそうになり、思わず抱き合って、お互いを支える。ふとユウキを見ると、嬉しそうに笑顔を浮かべ、何かが来るのを待っているように見えた。


(今度は何が出てくるの? 何、この魔力の大きさ。人の持つ力じゃないわ)


 ララもカロリーナも恐怖で顔が青ざめている。

 今まで周囲を覆っていた灰色の霧が消え、辺りが明るくなったと思ったら巨大な黒い渦が目の前に現れ、そこから出てきたのは、薄汚れた茶色いローブに身を包み、大きな木の杖を持った老人のような人物。よく見ると、頭部には髪の毛がなく、顔の目の部分は黒く落ち窪み、怪しげな光が見えている。鼻はなく骸骨のような鼻腔となっていて、口も骸骨のよう。皮膚はあるが茶色く、光沢を放っている。どう見ても生きている人間ではない。


「ま、まさか、う、うそ…。あれは、あれはアンデッドの王『リッチー』だわ。本の挿絵で見たことがある…」


 ララが絞りだすような声で、その人物を見る。


「う、うそでしょ。ララ、冗談よね。私をからかっているのよね。リッチーなんて伝承の世界の話にしか出てこない、神に匹敵する力を持った伝説の魔物よ。ここにいる訳がないわ。ハ、ハハハ」


 2人は膝から力が抜け、抱き合ったまま、その場にへたり込んでしまった。


「おじさん! バルコムおじさん! うわあああん。会いたかった! 会いたかったよ~」

 視界の中にユウキがリッチーに抱き着くのが見えた。その光景を見たララとカロリーナはついに神経が耐えられなくなり、気を失ってしまった。


 少しして2人が気が付くと、ユウキが心配そうにのぞき込んでいた。


「どうしたの? 2人とも急にぱったり倒れたから心配したよ。でも、直ぐに気が付いてよかった」


「ご、ゴメンねユウキ。何か白昼夢を見ちゃったようで、はは」

「わ、私も…かな」


「もう、ララもカロリーナもしっかりしてよね。それでは紹介します。この世界に迷い込んだボクを助けてくれて、ここで育ててくれた、バルコムおじさん。おじさんは高位のアンデット『リッチー』なんだよ。凄いでしょう」


『儂がバルコムだ。お前たち、色々とユウキを助けてくれたようだの』


 ユウキの後ろから現れたバルコムを見て2人は、心の中で(本物だ~! 現実だった~!)と叫び、バルコムに自分の名前を言うのが精いっぱい。その様子を見てユウキは苦笑いする。


「2人とも怖がらないでよ。おじさんは凄くいい人なんだよ。2人もおじさんを好きになってもらいたいな」


(ユウキ、ゴメン。それは無理)心の中で謝る2人だった。


「ねえ、おじさん。お家に入る前にあそこに行きたい」

 ユウキが、バルコムの袖を引っ張って甘えながら言う。


『そうだな、そこのお前たちも来るがいい』


 リッチーの袖口に摑まって歩く美少女という、なんとも言えない不思議な絵面を見ながら、その後ろを付いて行くララとカロリーナ。後ろを見ると、マヤのほかに助さん格さんという名前のスケルトンが歩いてくる。


 美しい泉の周囲を歩くと、誰かの墓と思われる石板が立っていた。石板の周囲には綺麗な花が咲いている。よく見ると、石板の周囲や泉のほとりなど、あちこちにスケルトンがいて、草をむしったり、何かの補修を行っている姿が見える。


 ユウキは石板の前に進むと両手を合わせて祈りを捧げ始めた。ララとカロリーナは、ユウキが流した涙の雫がポタ、ポタと地面に落ちているのに気づいた。


『アンタたち、お嬢と一緒に来たということは、ある程度事情は分かっているんだろう』

 助さんがララとカロリーナに語りかけるが、2人は助さんと格さんの区別がつかない。


「じゃあ、あれはお墓で、中にいるのは、もしかしてユウキの…」

『そうだ、お嬢のお姉さん。望様だ』


(ユウキの一番大切な人…。ユウキを助けるために身を犠牲にし、自分の体まで与えたお姉さん。ユウキの幸せを願い死んでいった、ユウキを最後まで愛した人…)


 ララは望の願いを思い浮かべながら、いつまでも望の墓の前で祈るユウキを見つめる。しかし、カロリーナはユウキの姿を見て、ララとは異なる思いを持つのであった。

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