第12話 優季の旅立ち
優季は家から少し離れたやや開けた場所に立っている。精神を集中し、高く掲げた腕の周囲に黒雲を張り巡らす。そして黒雲を猛烈に加熱させるイメージを作り、勢いよく腕を振りおろす。
「フレア!」
振りぬいた腕から放たれた高熱の火球は、ユウキほどの大きな岩を強烈な衝撃波で破壊した。
「フウ…」
『見事だ。大分上達したな。魔法は訓練によって上達する。精進するがよい』
「バルコムおじさん!」
『今日はユウキに話があってきた』
「話? 何だろう。どういう話ですか?」
『うむ、家で話そう』
家に入り、優季とバルコムはリビングの椅子に座る。マヤが優季にお茶を出してくれた。
「話ってなんですか?」
『うむ、ユウキは今何歳になった?』
「え? えと、13歳です。もう少しで14歳になります」
『それなら丁度よい。わしはユウキを王都に行かせようと思っておる』
「え…」
「この家を出て行けということですか。マヤさんたちと別れるっていうことですか! ボクが邪魔になったんですか!」
『そう気色ばむではない。ここにずっといてもおぬしのためにはならぬ。この世界に何があるのか見て回り、ユウキが何故この世界に来たのか確かめ、人の世で幸せに生きていくことが大切と考えたのだ。そして、それがお前の姉との約束でもある』
「お姉ちゃんとの約束…」
『この国、ロディニア王国では14歳以上になると、高等学院に入ることができる。ユウキには学院に入学し、知識を高めるとともに人と人とのつながりを学んでほしい。それが、ユウキのためでもある。ここにいても、これ以上の研鑽はかなわん。また、生者はユウキだけだ。人としての成長も望めない』
『世俗を捨てたわしが言っても説得力はないがな』
バルコムは乾いた笑みを浮かべ、自嘲気味に言う。自分の興味のためだけに不死化の禁呪を使い、1000年以上世俗と離れてきたバルコムは、優季を育てることでとうに失ったと思っていた人間としての感情が生まれてきていることに驚いている。
だからこそ、優季にはここでの生活に甘んじてもらいたくはない。人として大きくなってもらいたい。そして、姉の望の願いをかなえてもらいたいと考える。
「……」
『俺は賛成ですぜ』
「助さん」
『お嬢には、この狭い範囲で一生を終わらせたくない。世の中を見ることで得られるものもあると思いますぜ』
『剣の腕も上達しやした。そんじょそこらの兵士よりも上です。何かあっても生き残る力は十分にあると思いやす』
『ただ…』
「ただ?」
『もう一緒に剣の訓練ができなくなるのが残念で』
「助さん…。ボクも!」
『わざと服を切り裂いて、お嬢の成長途中のおっぱいを見るのが楽しみだっただけに!』
「このスケベ骸骨!返して!ボクの感動を返して!」
『私も賛成です』
『お嬢様は十分に独り立ちできる実力を持っています。私との訓練でも魔法を生かして戦うのが上手くなった。実力差のある敵と出会っても十分に対処できるでしょう』
『しかし、主の言うとおり、人は思考する生き物。戦いの技術ばかりを研鑽しても、人としての成長は望めません。ここはやはり、一度旅に出ることをお勧めします』
「格さん…」
『ただ…』
「え、ただ?」
優季は嫌な予感を感じ、眉をひそめる。
『もう、お風呂の中で、楽しそうに魔道具を使って脱毛やお肌の手入れをしているお嬢様をのぞき見することができなくなると思うと寂しいですね。あ、大分おっぱいは大きくなったと思いますよ。アソコの毛を全部剃ってしまったのはどうかと思いましたが』
「ぎゃあああ! さ、最低だ! うえ~ん。マヤさんが縫ったパンツをはくためには仕方なかったのよ~」
今までの良い流れが一気に台無しになった。