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第116話 卒業式とユウキの想い

 季節が春に近付く頃、学園では卒業式を迎えた。


「暖かくなったね~、街路樹にも葉が出て来たし、道端にも花が一杯咲いている。もう春だねえ」

 ララが、季節の変わり目を全身に感じながら、「う~ん」と背伸びしながら言う。


 卒業式は講堂で行われる。1年生、2年生と教職員が卒業生を拍手で迎え、卒業生は感謝を伝える。そして、卒業証書を得ることで教育課程を全て修了したことを認定され、大人として社会に旅立つための節目の儀式だ。ユウキも来年は卒業生としてここに立つ。その時、自分は何を成すために社会に出て行くのだろうかと考えてしまう。


 考え込んでしまったユウキを、肘でチョンチョン突きながら「卒業式始まるよ」とララが教えてくれた。ユウキが卒業生の入場口を見ると、Sクラスを先頭に卒業生が入ってきた。


 司会の先生による開会の言葉が発せられ、卒業式が始まる。校長先生のつまらなくて長い話が終わり、卒業証書が1人1人に手渡されると在校生代表の送辞が始まる。


(在校生代表はマルムト様だ。立場からすると当たり前の事だけど…)

 ユウキは必要以上に警戒するが、特に変なところもなく、当たり障りなく送辞を終える。


(当たり前か…。ここで事を起こすほど馬鹿じゃないよね。あ、答辞はマクシミリアン様だ。うう、この前ララが変な事言うから、緊張しちゃう)


 ララはユウキを横目で見て、(あらら、顔真っ赤)と小さく笑う。


 卒業式も無事終わり、生徒たちは三々五々解散となった。


「ユウキ~、どっかでお昼食べて帰ろ~」

 みんな集まった中からカロリーナが声をかけて来るが、ユウキは「少し用事があるから先に帰ってて」と言って、パタパタとどこかに行ってしまった。


「どうしたのあの子」

「さあ(がんばれユウキ!)」

 カロリーナが不思議そうにユウキを見るが、ララはとぼけた振りをして心の中で応援する。


(みんなゴメンね。マクシミリアン様には色々助けてもらったから、最後にありがとうが言いたいんだ。一応、お礼の品も持って来たんだけど、渡せればいいな)


(えと、Sクラスの人に聞いたら、中庭にいるって言ったけど、どこかな…。あ、いた。え…?)


 ユウキがマクシミリアンを見つけ、駆け寄ろうとした時、大勢の貴族と思わしき女生徒がマクシミリアンの周りに集まり、きゃあきゃあと話しかけていることに気づき、思わず近くにあった中庭の木の陰に隠れてしまった。


 女子たちは「握手してください」、「これを受け取ってください」と言って花束や手紙、贈り物を手渡している。ユウキは、マクシミリアンに近付こうと足を踏み出すが、どうしてもあの中に入ることが躊躇われ、逡巡してしまう。


 暫く木陰で様子を見ていたが、女生徒にニコニコと笑顔で接しているマクシミリアンを見ると、何故か無性に悲しい気持ちになり、この場にいることが辛くなってくる。ユウキはその場をそっと離れ、小走りで学園内に戻ってしまった。


 誰もない2年C組のクラスでユウキは1人、窓際の席に座ってボンヤリと外を眺めていた。


「まあ、そうだよね。マクシミリアン様人気あるし、ボクが入る隙間なんて…」

「お礼だけでも言いたかったけど、仕方ないか」

「でも、さっきは何であんな気持ちになってしまったんだろう。うう、もやもやする…」


 どの位、外を眺めていただろうか。日が大分傾いてきた。


「……もう帰ろう」

 ユウキは立ち上がり、教室を出ようとしたとき、1人の男子が教室に入ってきた。


「マ、マクシミリアン様…」

「やあ、ユウキ君」


「あの…。どうしてここに?」

「いや、卒業式が終わった後、中庭に来ただろう? 姿が見えたんで、私も話がしたかったんだが、動けなくてね。やっと解放された時には君はいなくなっているし、もしかしたら、まだ学園内にいるかなと思って探してたんだ」


「そうだったんですか…。すみません」

「何を謝る必要がある。私こそすまなかった。実のところ、彼女たち纏わりついてきて迷惑だったんだよ。私の立場しか見てない人たちだからね。不快だったろう」


「い、いえ、そんなこと…、ありません」

(こ、ここで言うんだ、伝えたいこと)


「あの! マクシミリアン様」

「なんだい」


「ボクのこと、色々助けてくれてありがとうございました!」

「異端者の疑いを掛けられたときも、ボクを信じると言ってくれた。とても嬉しかったです。友達の件でも騎士団の皆さんに便宜を図ってくれました。その外にもいっぱい目をかけてもらって、助けてもらって。感謝してもしきれません」


「だから、一言お礼が言いたくて。それと…。(うう、これ以上はやっぱり無理)」


「…感謝しているのは私の方だよ」

「え?」


「昨年の引率訓練の時、ゴブリンに襲われて、私は恐怖から逃げ出した」

「…………」

「それまでの私の評価は、人がいいだけの臆病者だった」

「…そんなこと」


「いいや、実際その通りだった。君にも言ったろう?「私は臆病者だ」って。だが、あの時、君が、女の子の君が率先して戦う姿を見て、そして君の友人たちがお互いを信頼し、助け合う姿を見て、無くしていた大切なもの、「勇気」を取り戻すことができた。自分に自信が持てるようになったんだ」


「君は、私を助けてくれた。本当にありがとう。これが言いたかった」


 ユウキは顔が火照ってくるのを感じ、思わず下を向いてしまう。


「あの、これ…、今までのお礼です」


 顔を俯けたまま、学生服のポケットから、青いリボンで飾られた小さな包みを取り出し、両手に載せてマクシミリアンの前に差し出す。マクシミリアンは、包みを受け取り、お礼を言った後、開けてもいいかとユウキに聞き、ユウキはこくんと頷く。


 マクシミリアンが包みを開けると中に入っていたのは、鷲が羽ばたく姿を象った銀色に輝く小さなブローチ。鷲の胸の部分には小さな赤い魔法石がはめ込まれている。


「これを私に?」

「はい。オヤジさんに教えてもらって、ボクが作りました。初めて作ったので形が少し変でごめんなさい…」


「いや、気に入ったよ。とても綺麗だ。ユウキ君、よかったら着けてくれるかい」

「は、はい」


 ユウキは、マクシミリアンの左胸にブローチを付ける。ユウキが顔を上げるとマクシミリアンと目が合った。マクシミリアンはそっとユウキを抱き締める。ユウキの心臓は爆発しそうにドキドキしている。


「私は、卒業したら北方辺境を守備している第4騎士団に配属される予定だ。暫くは帰って来れない」

「…………」

「任期が終わって、戻ってきたら君に必ず迎えに来るよ」

「はい。お待ちしています」


 夕日が2人を照らしている。マクシミリアンはユウキを離すと、ユウキの手にキスをして、教室を出て行った。


 ユウキは暫く、放心したように顔を赤らめていたが、「はあ~」と大きなため息をつき、帰るために教室から廊下に出て立ち竦んでしまった。


「ユ~ウ~キ!」

「ラ、ララ、カロリーナも、どうしてここに!」


「いや~、一緒に帰ろうと門で待ってたんだけど、中々来ないから探しに来たんだよ。そしたら…」


「いいもん見せてもらいましたー!」


「ど、どこから見てたの…」

 ユウキがごくりと唾を飲み込む。


「ん〜とね、ユウキがマクシミリアン様にありがとうを言ったところから」

「ほとんど最初からじゃないの~! は、恥ずかし~」


「いや、あのユウキがあそこまで乙女になるとは、いや、これでシチュー大皿3杯はイケるわ」

「カ、カロリーナのバカバカ!」


 ララとカロリーナは、ダスティンの武器店に着くまで、ずっとユウキをからかい、その度にユウキは顔を青くしたり赤くしたり、涙目になったりして、2人に笑われるのであった。

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