第113話 戦い済んで日が暮れて
「あ、あれ…」
「気が付いた?」
カロリーナはユウキに背負われていた。周りを見ると学園ではなく、帰宅途中の様だ。
「私、負けたの?」
「うん、もう少しだったね」
「そうか、負けたんだ…」
カロリーナはユウキの背中で声を押し殺して泣き始めた。
「ゴメンね。みんな応援してくれたのに…」
「いい勝負でしたよ。必殺の突き、無理やりコースを変えましたね。アイリさんの顔を傷つけないために。あれで威力が弱まったんです。あのままだったら間違いなく相手の顔に深い傷を負わせていたと思います。だから、あれでよかったんです。カロリーナらしくてよかったです」
「ユーリカ…。ありがとう。ぐすん」
「でも、アイリと一緒に私のこと、乳デカ女と罵ったことは許しませんよ」
「……ごめんなさい」
「イグニス君も準決勝でアイリに敗れたし、結局、2年Cクラスはアイリ1人にやられたね。悔しいな」
「ララさん、今、うちの学園で武器戦闘でアイリさんに勝てるのはユウキさんか、ユーリカさんしかいないでしょう。実力が抜きんでています」
「フィーアの言うとおりだよね…。だからこそ、勝ちたかったんだ…。私もユウキやユーリカに並びたかった」
涙声で呟いたカロリーナの言葉に、みんなしんみりしてしまう。
「みんな元気出そうよ。今日はカロリーナの健闘を讃えて、晩ご飯少し豪華にしてもらおうよ。ね」
ララが、雰囲気を変えようと元気に声を出し、みんなも笑顔で「おー!」と掛け声上げ、カロリーナも泣き笑いだったが「おー!」と声を上げるのだった。
ララから話を聞いたマヤは、その日の夕食を豪華にしてくれた。丁度、カロリーナの実家から食料が届けられたというタイミングも重なって、材料は十分にあったとのこと。全員で和気藹々と食べる夕食は美味しかった。カロリーナもいつもの元気を取り戻し、ユーリカやユウキにちょっかいをかけては怒られ、その様子を見てみんな大笑いする。とても楽しい時間を過ごした。
就寝時間となり、お風呂から上がったカロリーナもさあ寝ようと寝巻に着替えていたら、不意にドアがノックされ、ユウキとヒルデが入ってきた。
「ど、どうしたの2人とも。こんな時間に。私、何かしたっけ」
「ううん、カロリーナ、今日のアイリの戦いで気づいたことない? いつもと違うなと感じたこととか」
「うん、実はね、私の防御魔法、アイリの時だけ全く効果がなかったの。ダスティンさんが作ってくれたハーフプレートがなかったら、大けがしてたかも」
「私、防御系魔法には自信あったんだけどな。何でだろう、自信なくしちゃった…」
「あのハーフプレート、修理不能だって。もう一度作り直すってオヤジさん言ってたよ。」
「そう、新品だったのに悪いことしちゃったね」
「ううん、あの鎧がカロリーナを完璧に守ったって言ったら喜んでいたよ。今度はもっといいのを作るって」
「よかった…。ありがとう」
「カロリーナさん、アイリさんが持っていた槍に何か感じませんでしたか」
「え、特に何も…」
「そうですか、あの槍には防御魔法を無効にする魔術がかけられていたと思います」
ヒルデの発言にカロリーナはびっくりして思わず聞き返した。
「そ、そんな事できるの? 聞いたことがないよ」
「でも、そうとしか考えられません。槍に掛けられていた魔術は、こう、何というか言い方が難しいですけど、相当異質な感じがしました」
「それがホントだったら相当マズイよ。防御魔法無効の力が付与された武器を持った敵と戦うことがどんなに恐ろしいことか…」
「うん、それ、今日身をもって知った」
「あのアイリさんて人、訓練用とはいえ、どこからあの武器を手に入れたんでしょう?」
「わからない。普通じゃ手に入らない代物だもんね
(きっとマルムト様が与えたに違いない。でも、槍自体は普通の短槍だった。ヒルデの言うとおり、後から魔術付与したんだろうな…)」
暫く3人はアイリの持っていた槍について話していたが、夜も更けたのでそれぞれの部屋に戻り、就寝することにした。
ユウキが自分の部屋に入ると、ララが待っていてくれた。
「ララ、来てくれてたの? 今日も一緒に寝てくれるの?」
「そのつもり。暫くは一緒に寝てあげるわ。寂しがり屋さんのためにね」
「ありがとう。えへへ、嬉しいな」
「あ~あ、すっかり甘えんぼさんになったわね。でも、もう甘えんぼさんは直しなさいよね。ユウキは16歳でしょ、大人だよ」
「う、うん、わかってます。あと、1週間だけお願いします…。そしたらちゃんと立ち直るから…」