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第112話 武術大会(後編)

 高速で振り下ろされる長剣にカロリーナは後ろに下がることも避けることもできない。


(ここは防御魔法とダスティンさんが作ってくれた鎧を信じる!)

 カロリーナは覚悟を決め、敢えてアンジェラの必殺剣を受けることにした。


「ガッキイン!」と物凄い音がして、カロリーナの肩当て部分から物凄い火花が飛び散り、衝撃で片膝を着いてしまう。アンジェラは隙を逃さず、再び長剣を振り下ろすが、カロリーナも何とか剣を頭上に掲げて、振り下ろしの一撃を防いだ。


「~~~! くう、この子強い。何とか押し返えさなきゃ」


 頭上で、アンジェラの剣を押さえながら、何とか立ち上がり、力いっぱい押し返した。


「えいっ!」

「きゃあ!」


 カロリーナの意外な力に押し返されたアンジェラが、たたらを踏みながら後ろに下がった。カロリーナはこの機を逃さず、前に出てアンジェラとの距離を詰める。

 アンジェラも懐に入られるのを嫌い、カロリーナに向けて剣を振るが、カロリーナは小柄な体を上手く使い、上半身で攻撃をかわして、カウンターで小手を切る。


「あっ! 痛っ!」

「えいっ、これでどうだ!」


 何度目かの小手切りで、手にダメージが蓄積したアンジェラはたまらず剣を落としてしまい、ガクリと膝を着いた。それを見たカロリーナはアンジェラの首元にすれすれに剣を向ける。


「勝者カロリーナ!」


「ふむ、最初の必殺の一撃を耐えたのが大きいね。アンジェラ君はあれに全てを賭けていたと思うよ。それを耐えられたのが痛かった。それにしても、カロリーナ君、やるもんだね」


 モーガンがカロリーナを褒めるのを聞いて、ユウキも嬉しくなったが、隣のユーリカがぷくっと膨れた顔をしている。


(あれ、ユーリカ、カロリーナが褒められたの面白くないの? やっぱりユーリカ、モーガンさんの事…。これ、ヤキモチってやつなの?)


「はあ、危なかったー。アンジェラの剣、半端ない威力だった」


 試合場から降りてきたカロリーナが、ほっとしたように話しかけてきた。


「ホントに逝くところだったね。カロ!」

「防御魔法がなかったら、ホントにそうなっていたかも。アンジェラ、恐ろしい子…」


 昼食時間となり、2年Cクラスの面々は中庭で昼食をとっている。イグニスも無事2回戦を突破し、クラスの雰囲気は最高潮だ。


「去年も2人準々決勝まで行ったし、ユーリカさんは準優勝だった。今年もイグニス君、カロリーナさんが準々決勝まで進んだし、クラス委員として鼻が高いよ」

 フレッドはいつになく、興奮している。


「でも、準々決勝は強敵ぞろいですから、しっかりと体調を整えなければいけません。ですので、カロリーナのお昼はここまでです。食べ過ぎると動きが悪くなりますから」

「えー、ユーリカ、もうちょっとだけ食べさせて。お願い」

「ダ・メ・です。我慢しなさい。ほら、特製ジュース。これでも飲んで」

「うう~、意地悪女…」

「ふん!」


「ねえ、ユウキ、ユーリカどうしちゃったの」

「ララ、実はね…」

「ええ~、ユーリカさんがモーガンさんのことを。わあ、意外ですね」

「ふふ、フィーアもそう思う? ユーリカ、ヤキモチなんか焼いちゃって可愛いよね。乙女だね」


「何言ってんの、乙女っぷりならユウキだって負けてないでしょ。あんた、マクシミリアン様のことどう思っているのよ」

「ブフォッ!」

「き、汚いですよ、ユウキさん。もう…」

「ゴ、ゴメンなさいフィーア。だって、ララが変なこと言うから…」


「私、知ってるよ。ユウキがマクシミリアン様のこと好きだってこと。いつも自然と目で追ってるもんね」

「そ、そんなことないもん。気にはなるけど、好きかどうかと言われると…、わかんない。もし、そうだとしても身分が違いすぎるよ。ボクじゃ無理だよ…」

「なんですか、この可愛い生き物は。乙女心もここに極まれりですね」



 昼休み終わりの鐘が鳴り、準々決勝開始がアナウンスされた。選手や観客が特設会場に集まってくる。開始前に対戦相手の発表があり、カロリーナの相手は2年Sクラスのアイリだった。


(アイリ…。と言うことは、マルムト様も?)

 ユウキは、マルムトの姿を探すが、見つけることはできなかった。


 準々決勝のリングに立つ2人。カロリーナはバスタードソード、アイリはショートスピアを構える。


「去年は、あなたのクラスの乳デカ女に不覚をとったけど、今年はそうはいかないわよ。覚悟してね」

「乳がデカいだけの女に負けるようなヤツに、私を倒せるかしら」


「カロリーナ…、帰ったらお仕置きです」

「ユウキさん、対戦相手の持っている槍、何かおかしいです」


「ヒルデ?」


「強い魔力を感じます。恐らく、カロリーナさんの防御魔法は無効化されるかも」

「まさか、カロリーナの防御魔法は学園一だよ。そんな強力な魔法を無効化するなんて信じられない」


「……、気をつけた方がいいかもしれません」


 ユウキやヒルデ達が見守る中、試合開始の合図がされ、両者がリングの中央で対峙する。

 カロリーナは両手で剣をグッと握りしめ、右足を大きく踏み込み、腰を回転させて、横から大きく斬撃を加える。アイリは真横から飛んできた剣を縦にした槍の柄で受け止めると、槍を倒して、カロリーナの肩当を叩く。


「う、くうっ!」思いもかけない衝撃に、カロリーナの顔が苦痛で歪む。


(な、なに、この衝撃、防御魔法が効いてない? まさか、もう一度重ねがけを…)


 カロリーナが魔法を発動させている間に距離を詰めたアイリが鋭い突きを放ってくる。カロリーナは剣で弾いて行くが、いくつかは剣をすり抜けてハーフプレートを叩く。その衝撃の大きさに、カロリーナは、


(くっ! 何でか分からないけど防御魔法が機能してない。無効化されてる。なんで?)


「不味いですね、魔法が効いてないみたいです。彼女、混乱しています」

「うん。ここは気持ちの切り替えが必要。みんな大声で応援しよう!」

『カロリィナー! 魔法に頼るなー! 気持ちを切り替えろー、前に出ろー!』


(みんな、ありがとう。頑張るよ!)


 カロリーナは剣を持つ右腕をグッと体に引き付け、剣がリングと水平になるように構え、左腕を前に伸ばして前傾姿勢をとる。この様子を見たアイリはスピアをカロリーナに向け、迎撃態勢をとる。


 カロリーナは大きく息を吸い込むと、力強く踏み込んで、剣をアイリの顔めがけて大きく突き出した!アイリは思いもしない場所への攻撃に一瞬防御が遅れ、体勢を崩してしまう。そこに、方向をアイリの鎧の胸元に変えた剣の先を思い切り突き立てた。


「きゃあ!」

 アイリは背中からリングに倒れ、苦悶の声を上げる。そこに、リングサイドから、


「アイリ! 槍を持って立て!」と声が飛んだ。

(マルムト様、やはりいたんだ)ユウキが声のとんだ方向を見てマルムトの姿を確認する。


「マルムト様…。ハイ!」

 アイリは槍を持って立つ。


(く、くそ、決まったと思ったのに…。いや、弱気になるな。訓練を思い出せ!)


 カロリーナは剣を縦横に振って、アイリを責め立てるが、アイリも的確に槍を当てて来る。防御魔法のないカロリーナは、鍛えたと言っても体格に勝るアイリに比べると蓄積されたダメージや疲労は大きくなる。そして、その限界はやってきた。


「うあっ!」


 アイリの槍がカロリーナの右胸を捉えた。ハーフプレートの防御力が槍を押さえたが、衝撃がカロリーナを貫き、カロリーナはリングに両膝をついて、ばったりと倒れた…。

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