第108話 学園祭⑤(美人コンテスト後編:萌え萌えシャルロット)
覚悟を決めたシャルロットが舞台から出てきた。今回のコンテスト参加者の多くは巨乳、美乳ぞろいの美少女たち。シャルロットは数少ない貧乳系女子。どのように戦うのか注目が集まる。
シャルロットは顔を真っ赤にさせて、ゆっくりと舞台に立つ。会場は始めシーンとして次に「おお~」と言う大きな歓声に包まれた。
当のシャルロットの水着は、細い真っ赤な紐を首にかけ、首の前でクロスさせて、そのまま胸の大事な部分のみを幅の狭い帯状の布で隠している。布の先端は腰の脇あたりで再び紐になって前後に伸び、デルタゾーンの小さい布を支えるハイレグカットの水着だった。
「何あれ、エロいなんてもんじゃないわよ。15歳の女の子に着せる水着じゃないわ」
「(やっぱりやった!)で、でもインパクトは凄いよ。フィーアも似合いそう」
「あんな水着きれませんよ。恥ずかしくて悶え死んでしまいます。でも興味はあるかな」
「お、おお、司会のリンです。一瞬言葉を失い、面目ありません。どうですか学園長、これは許されるものですか?」
「うむ。なんて最高な水着だ。連れて帰ってずっと眺めていたい」
「係員さん。憲兵隊に連絡してください。危険人物がいます」
「そ、それでは、課題のシチュエーションに行きますね。えーと、どれどれ…」
「シャルロットさんのテーマは、デートが終わり、別れ際に初キッスを求めてきた男子に対するセリフです。さあ、どうぞ!」
「ええ、いきなりハードルが高すぎない? あたし、彼氏ができたこと無いし、キスしたこともない。どう答えたらいいか分かんないよ!」
「早く、後がつかえてますよ」
「うう、(恥ずかしい。恥ずかしいよ~。何て言えばいいのか分かんない。でも、せっかくここまで来たんだし、誰にも負けたくない。がんばる!)」
『え、えへへ。じ、実はあたしもキス、ずっとしたいと思ってたんだ…。チュッ。は、恥ずかしいね…。君の事、だ、大好きだよ!』
シャルロットは両手を前で組んで、もじもじじながら精一杯の勇気を出して、架空の彼氏との会話をした。顔は恥ずかしさで真っ赤っかだ。
「も、もう無理~~~~!」
シャルロットは、恥ずかしさのあまり、バタバタと舞台袖に駆け戻ると、見守っていたマヤの胸に抱き着き、イヤイヤをしながら悶えるのだった。
『シャルロット様、最高でした。このマヤ、萌え狂いそうでした。この水着であのセリフを吐かれたら、男は全て発情した獣になります。ああ、最高…』
会場は大声援で沸き立っている。
「す、凄かったね。水着もだけど、シャルロットがあんなセリフを語るとは。去年のユウキも萌え萌えだったけど、破壊力は今回のシャルの方が上だったね」
カロリーナの率直な感想に、全員頷くしかなかった。
「いよいよ優勝候補のルイーズだね。どう、ヒルデ」
「シャルロットさんの奇抜な水着はインパクトありましたが、スタイルの良さではルイーズさんにかないません。ただ…」
「ただ?」
「与えられたシチュエーションのテーマによりますね。意外と突発的な事に弱いんです」
「はーい、美少女の水着もあとわずか。さあ、1年Aクラス。優勝候補筆頭のルイーズさんでーす。どうぞー」
ルイーズが舞台袖から出てくる。その美しさ、均整の取れたプロポーションに会場の男たちは釘付けとなる。
「ううむ、オーソドックスなビキニなんだけど、プロポーションがいいから凄く似合ってて可愛らしいね。肌が白いから女神様みたい。この子が去年出ていたらユウキもちょっと厳しかったかも」
今度はララの分析に全員が頷く。
「さあ、ルイーズさんへのシチュエーションは、え、いいのかな…。えっとですね、テーマはですね」
「彼とのデート中に街中で、意地悪な継母と嫌味な姉1、性格の悪い姉2に見つかって絡まれた時、彼を守って言うセリフ…。です」
「あ、丁度あそこに継母、姉1姉2がいますので、壇上に上がって絡んでもらいましょう。その方が迫真の演技が期待できますよね。はい、そこの3人ステージ上に」
「だ、誰よ! こんなの考えたの。やっと心の傷が癒えて来たってのに。もう!」
「ボク、嫌味な姉の呪縛から逃れられないの? リン酷いよ」
「是非に及ばず」
カロリーナは慟哭し、ユウキは嘆き、ユーリカは達観する。
指名された3人はステージに上がり、ルイーズと対峙する。ため息をつくと3人は昨日のノリで、演技を始めた。
継母 (ユーリカ)
「おうおう、ルイーズじゃないか。おっ、いい男連れてんなぁ、ちょっとコッチ貸せや。んん、何だその目は、義理とはいえ母親に逆らおうってのか。やんのかコラ! 血祭りに上げっぞ、コラ!」
姉1(ユウキ)
「カッコいいお兄さん。どう、そんな胸がほどほどの女より、私の方が良いんじゃない。この大きなおっぱい。素敵でしょ。あらあら、ルイーズったら睨みつけちゃって、憎たらしいわね、この小娘! ん、姉2も睨んでるわね。ほれほれほーれ、どうよ、羨ましいでしょう」
姉2(カロリーナ)
「かあー、この女、姉の私より先に男なんか作りやがって、発情したメス猫かお前は! ほどほどに大きな胸しやがって。メラメラメラ…、憎い、乳が憎い。おい男! お前も巨乳派か、そうなんだな! よし、姉1共々成敗してやる!」
ルイーズは、悪女3人のド迫力の演技の前に怖気づいてしまい、ぺたんと座り込んで泣き出しそうになってしまう。
それを見た3人は(ほら、ルイーズ、立ってセリフ、セリフ。これ演技だから。本気じゃないから)と小さく声をかける。
「は、はい」
『こ、この人は私の大切な人です。指一本触れさせません。どうしても戦うというのなら、その剣で私を好きにして!』
継母、姉1,姉2(ルイーズの前から去りながら)
「チッ、白けちまった。行こうぜ! おう、そこのチャンネー、イイ男連れてるじゃねーか! ちょっと貸してくれよ。ぎゃはは!」
「ぐっ! プ、プハハハハハ! キャハハハハ! ダメだ、この人たち、酷すぎる」
「ヒルデ、笑いすぎ、笑いすぎ。ぷ、くくく、あははは!」
「ララさんもフィーアさんも笑ってるじゃないですかぁ」
「はーい、司会のリンでーす。やっと水着審査終わりましたね。やっぱり3悪女が出ると場が盛り上がりますね。さあ、これから皆さんの投票が始まります。今年の優勝者は誰か。発表は1時間後でーす。出場者は休憩してお待ちくださいね」
ユウキ、カロリーナ、ユーリカがコンテスト出場者の控室にやってきた。控室では着替えの終わったシャルロットがマヤと休憩をとっていた。
「お疲れ様、シャルロット。とっても可愛かったよ。特にシチュエーションのセリフは破壊力抜群だった。萌え死ぬかと思ったよ」
「ありがとうユウキ、みんな。でも、あたしよりあっちに行ってあげて」
シャルロットが指さした先には、水着姿のまま座り込んでめそめそ泣いているルイーズがいた。
「継母、姉1,姉2がとっても怖かったらしいよ。ずっと泣いてるの」
「わああ、ルイーズ、ゴメン、ゴメンね。ボクたち、ちょっと演技に力が入り過ぎたの。泣かないで、お願い、笑って。ルイーズの笑顔、とっても可愛いよ。ね、お願い」
「ルイーズさん。あれは演技、演技なんです。ホントは私たちとっても優しい女の子なんですよ。ねえ、泣かないで。そうだ、私たちとお友達になりましょう。ね?」
「ルイーズ、私、あなたを誤解していた。美人を鼻に掛けた女の子だと思ってたの。だから、つい力が入ってしまって…、でも、違うのね。あなた、ホントは気が弱くて優しい、いい子だわ。今日から私たち親友よ。だから泣かないで」
「え、えぐ…、はい…。でも、怖かった、怖かったですぅ。グスグス」
「うんうん、許して。ほら着替えようよ。ボクも手伝うから」
「はいぃ、ありがとうございます」
「さあ、結果発表です。第3位、2年Sクラス、ルミナさん」
「ルミナさんは2年連続第3位でしたね」
「おお、今回は得票数が同数の優勝者2名ですね。栄えある優勝者2名は」
「1年Aクラスのルイーズさん!」
「そして、2年Cクラスのシャルロットさんです! おめでとうございます!」
「やったね、シャルロット! おめでとう」
「う、うん。あたしが優勝って…、信じられない。みんなのお陰、ありがとう!」
思わず、涙を零したシャルロット。そんな姿を見て、ユウキもマヤも心が暖かくなるのを感じた。
「表彰式は学園長が憲兵隊に連れて行かれたので、副学園長の手から行われます。表彰者の皆さん壇上へ」
賞状を受け取ったシャルロットとルイーズは笑顔で握手する。その姿にたくさんの拍手が送られるのであった。
「ねえ、シャルロットの優勝を祝ってマヤさんが御馳走を作ってくれるって。シャルロットもいいでしょう。そうだ、ヒルデ、ルイーズも誘ってきてよ。今日は怖がらせてしまったし、お詫びもしたい」
「友達にもなりたいですしね」
「ハイ! 早速行ってきます。私もルイーズさんともっとお近づきになりたいと思ってたんです」
昨今の食料事情から、豪勢と言うわけではないが、マヤの心づくしの料理が並び、ユウキたちやシャルロット、ルイーズもわいわいと楽しい時間を過ごした。
ルイーズは最初は固かったが、ヒルデやカロリーナ、シャルロットと話しているうちに次第に打ち解け、ここに住む全員の生活について聞きたがった。
ルイーズは、王国東方の僻地にある町の出身で、あまり友達がなく、学園に来ても何故か同級生に避けられていて、寮でも1人ぼっち。寂しくてどうしても友人が欲しくて、美人コンテストで優勝すれば、友人が出来るのではと思って立候補したとのことだった。
(美人過ぎるから、近寄り難いんだろうな…)
ユウキは寂しそうな表情を浮かべるルイーズを見て可哀想になり、思いきって聞いてみた。
「ねえ、ルイーズ。よかったらしばらくここに住んでみない? ただ、部屋がないからヒルデと相部屋でよければだけど。ほら、ここは女の子が一杯だから寂しくないと思うよ」
「大丈夫、家主のオヤジさんはボクが説得するから。ボクが上目遣いでお願いすれば一発だよ」
「私も問題ないですよ。ルイーズさんさえよければ。実はずっとお友達になりたかったんです。でも、わたしエルフだし、話しかけたら迷惑かなって、勝手に思ってて。ごめんなさい」
「い、いいんですか。う、嬉しい。やっと私にもお友達が…。うう、グスッ」
ダスティンの武器屋は新たな下宿人を得て、ますます賑やかに、姦しくなるのであった。




