第103話 ユウキは嫌味なお姉さん
次の日のホームルームで演目の案を検討することになったが、結局ララしか案を持ってこなかったため、シンデレラ、人魚姫、ロミオとジュリエット、安達ケ原の鬼婆から選ぶことになり、クラス投票の結果、シンデレラを行うことに決定した。台本・監督は提案者のララが務めることとなった。
昼休み。いつも通り食堂に集まるユウキたち。
「シャルロット、昨日は遅くまでマヤさんと何やってたの?」
「まず、着替えを沢山させられた。その後、お風呂に連れて行かれて、あそこも含めて全身つるつるに…。後は言いたくない」
「そう、ゴメンね。でも申し訳ないけど、毎日来てね」
「ううう…、分かったよ」
「と、ところでユウキさんたちの演題、面白そうですね。配役は決まったんですか」
ヒルデが、無理やり話題を変える。
「うん、王子様がフィーア」
「わあ、素敵です。フィーアさんの王子様姿見てみたいな~」とヒルデが率直な感想を述べる。
「主人公がセーラって子。カロリーナと正反対の大人しくて控えめなかわいい子だよ」
「ユウキって、何気に私をディスるよね」
「そう? 気のせいだよ」
「こ、この、少しばかりおっぱいが大きいからって…」
「意地悪な継母がユーリカ、嫌味な姉1がボクで性格の悪い姉2がカロリーナ…」
「ぴ、ぴったりな配役ですね…」
「どこがよ!」
「魔女役はリン。明るくていい子だよ」
「ちなみに、魔女と一緒にシンデレラを助けるネズミ役はヘラクリッド君」
「ええ~、流石にそれは無理があるのではないですか」
ララの台本ができるまでの間、ユウキたちも小道具や衣装作りを手伝っている。その合間にユーリカはカロリーナに稽古をつけているので、毎日が忙しく、家に着く頃にはすっかり日が暮れている。
シャルロットは演劇には加わらず、美少女コンテストに向けて、日々、自分磨きのためマヤの元に通っている。シャルロットは今、羞恥心を消し去るために、ユウキと同じギリギリ下着を身に着けている。その姿に慣れ始めている自分が怖かった。
そんな日が何日か続き、ついに台本が完成した。
「みんなー、できたよー」
ララの下にクラスのみんなが集まって来る。
「おお、さっそく読んでみよう。どれどれ…」
「わあ、王子様ってこんな感じなんですか。俄然やる気が出てきました」
「主人公の『シンデレラ』って、最後はお妃さまになるんですね。わあ、ガンバロウ」
セーラが、楽しそうに台本を抱える。ユウキはその健気な雰囲気に好感を持った。
「この継母、とんでもなく意地悪ですね。これはひどい。正に姑の見本だわ」
「嫌味な姉1は凄く感じ悪いね。男だったら絶対にお嫁さんにしたくないタイプだよ」
「性格の悪い姉2って、最悪な女ね。強烈過ぎでドン引きしちゃうじゃない。性悪女もここに極まれりって感じね」
クラスメイトの女子たちが台本を見て口々に感想を言う。
「うん。この3人は、ユーリカ、ユウキ、カロリーナの性格を考えて作ったんだ!」
「そ、そうですか。ララから私はこう見えているんですね…」
「ボクってこんなに嫌味な女の子だったっけ…」
「ララ、後でゆっくり話し合おうね」
「ええ~、何で? カロリーナなんて、台本そのままじゃない」
「き、貴様…、許さん!」
「セーラさん、あの人たちに近付いてはなりませんよ。性悪が移ります」
「は、はいです。フィーアさん」
その日の放課後から、教室を使って出演者の練習と、舞台小物や衣装作りが並行して始まった。流石にフィーアは上級貴族令嬢だけあって、所作からセリフ回しまで役にはまり切っている。また、男装することによって、違った美しさが醸し出され、クラスの女子はうっとりして眺めている。
セーラは、素朴な雰囲気の健気な感じのする娘の役を上手くこなしている。もともと、内気な性格であったのか、イジメられ役がぴったりハマっていて、ララも「完璧だ」と感心するほどだ。
「シンデレラ! 何度言ったら分かるのよ! 掃除が終わったら食事の用意をして、洗濯物を畳みなさいって言ってるでしょう。まだ、掃除も終わらないなんて、このグズ、ウスノロ、貧乳! さっさとやりなさい!」
「すみません、継母さま。今すぐに…」
「シンデレラ、窓拭きは終わったの?」
「はい、終わりましたお姉さま」
お姉さま(ユウキ)は窓枠を指でツーッとなぞると、嫌味ったらしく笑いながら、
「あらあ~、埃が取れてないようねえ。もう一度やり直し! 終わったら言いに来るのよ!」
「シンデレラ、私のアクセサリーはどこ! ちゃんと片付けて置けって言ったでしょ」
「え、ちゃんとお姉さま(カロリーナ)の部屋に置きましたよ」
「無いわよ! もしかしてアンタ、盗んだんじゃないでしょうね。このドロボウ猫!」
「お、お姉さま、それは自分の彼氏を別の女にとられた時のセリフです」
「うっさいわ! この貧乳女が! さっさと探せ!」
「はい…。(自分で失くしたくせに。それにお姉さまよりは胸はあると思います)」
「アンタ…、今、自分の方がおっぱい大きいと思ったでしょ」
「ひ、人の心を読むなんて、お姉さまは超能力者ですか!」
継母、嫌味姉、極悪姉のトリプルコンボに他の出演者、小道具係はシーンとなる。ララだけが満足したような顔をして、
「いや~、ここはほとんどアドリブでお願いの部分なんだけど、ここまで完璧に演じてもらえるとは思わなかったよ。ユーリカ、ユウキ、カロリーナの3人は流石だね。また、セーラも返しが上手いよ。パーフェクトだよ」
脚本家兼監督のララの完璧発言で、大きな拍手が沸き起こる。セーラも頬をうっすら染めて嬉しそうだ。
一方、ユーリカ、ユウキ、カロリーナは微妙な表情で立ち尽くし、愛想笑いを浮かべるだけだった。
(ボク、演じているとき、少しだけ楽しかったな。もしかして、本当は性格悪いのかな?こんなとこマクシミリアン様に見られたら嫌われちゃうかな。ん、何で急にマクシミリアン様が出てくるの? 変なの…)
ユウキ達が毎日稽古に明け暮れて2週間が過ぎ、明日はいよいよ学園祭開幕となった。
夕食後リビングにいつも通り集まると、フィーアとヒルデがわいわいと話し始める。
「私、何か男装の麗人にハマりそうです。今回の演劇楽しいですね」
「フィーアさんは楽しそうでいいですね。王子様役ですもんね」
「私たち、日に日に性格が悪くなっていきそうで、何だかな~って感じです」とユーリカが言うと、フィーアが率直な感想を返す。
「でも、3人とも恐ろしいくらいはまってますよ。特にカロリーナはひどいです」
「お褒めにあずかり光栄です」
「ボク、男の子たちから避けられてるような気がして。誰も話しかけてくれないんだ」
「私なんか、最近『意地悪おばさん』って呼ばれているんですよ。悲しい…」
ユウキとユーリカがどんよりとして、暗いオーラをただよわせる。
『皆さん、こっちも完成しました。さあ、その姿を皆さんに見せて下さい』
パタパタと2階から降りてきたマヤに促されて入ってきたのは、美しい衣装に身を包み、妖精のように輝くユウキやフィーアにも負けない美少女。
「だ、誰?」
「あ、あたしだよ。シャルロット…」
「う、嘘だーーーー!」
女の子たちの絶叫が響き渡った。
『これで今年も優勝ですね。当日は私も見に行きます』




