第102話 学園祭の演目選び
カロリーナの実家から定期的に野菜や肉が届くようになって、ユウキたちの食料事情も大分改善されて、育ち盛りの少女たちもお腹いっぱい食べられるようになった。
ユウキとユーリカは一度、青果市場の競りの様子を見に行ったが、野菜・果物類は十分にあり、全般的に高い値で競り降ろされている感はあったものの、特定の仲買人や販売店が買い占めをしている様子はなかった。
「これが全部店頭に並べば、今のような価格高騰は起きないはずなんだけどな」
「そうですねえ。競り降ろした業者さんの一部が市場に出さないで、ため込んでいるんでしょうか。私たちでは全然わかりませんね」
「まあ、ボクたちが悩んでもしょうがないし、オーウェンさんが調べているから、そのうち教えてくれるんじゃないかな」
「ですね」
ユウキとユーリカは疑問に思いながらも、自分たちで調べるのはこれ以上は難しく、しばらく様子を見るしかないと考えるのであった。
何日かして、学園朝のホームルーム。クラス委員のフレッドが全員の前で学園祭の話をしている。
「えーと、1月半後に開催される今年の学園祭は、例年と少し内容を変えると連絡がありました。期間は2日間で変わりませんが、毎年人気の飲食店は最近の情勢から最小限に留め、発表を中心に、誰でも楽しめるよう、学年ごとに出し物を決めるそうです」
「このため、武術大会は学園祭から切り離し、学園祭の2週間後に単独開催するみたいだね。あと、美少女コンテストは行うみたいだよ」
「では、各学年の内容をお知らせするよ。1年生は物販と飲食。飲食店は1年生が行い、店も3店程度にするみたいだね」
「3年生は各クラスごとにテーマを決めて、学習発表会。お客さんが興味を持つテーマを探すの大変そうだね」
「2年生は、え、各クラス対抗の演劇だって」
クラス全員がざわ…、ざわ…と予想外な展開に対しざわめく。
「み、みんな落ち着いて。始めに武術大会と美少女コンテストの参加者を決めようか。あっと、うちのクラスは去年の参加者は今年はだめだからね」
「ハイ! ボク武術大会に出たい!」とユウキが立候補するが、先生からユウキが出ると優勝確実だから面白くないとダメ出しされ、しぶしぶ上げた手を引っ込めた。
「じゃあ、カロリーナを推薦します」
「え、なんで? このか弱い私に大会に出ろと?」
カロリーナはユウキに抗議するが、
「カロリーナは、Dクラス冒険者と模擬試合を行って勝った実績があります。大会に出てもそこそこ行けると思います」
と、カロリーナにウインクしながら説明する。
フレッドが、クラス全員に採決を求めると満場一致でカロリーナに決定した。ちなみに男子はイグニスが参加することになった。
「次は美少女コンテストだね。誰がいい?」
クラスの美少女はユウキ、フィーアを筆頭に次いでユーリカ、カロリーナだが、候補のフィーア、ユーリカは演劇に出たいという。
「ハイ! シャルロットを推薦しまーす」
「え、何であたしなのよ。イジワルは止めてよユウキ、あたしじゃ勝負にならないよ」
「ボクは結構いい線行くと思うよ。シャル、若い冒険者に結構人気あるし」
結局、フィーア、ユーリカも賛同に回り、美少女コンテストはシャルロットに決まった。
「さて、演劇だけど、どうしようか…」
フレッドが悩ましげに言う。
「ハイ!」
「お、ララさん、何かいい演目ある?」
「ううん。無いけどちょっと考えてみたい。よかったら、明日のホームルームで相談したいな。もちろん、私だけじゃなくて、みんなのアイデアも含めてね」
「わかった。じゃあ、明日までに案を持ち寄ると言うことでいいかな」
昼休み、学園の食堂でユウキ、カロリーナ、シャルロットとララが話をしている。
「ユウキ、あんた私を推薦したからには、剣の稽古手伝ってよね。もう、ひどいよ」
「ふふふ、カロリーナなら結構いけるって。ちゃんと手伝ってあげるから許して」
「こっちもだよ。あたしが美少女コンテストって、笑われるだけに決まってるじゃん」
「シャルはマヤさんに任せるから大丈夫。凄い美少女になるよ」
「それだけで不安しかないんだけど。あのお姉さん、あたしを見る目が怖いんだよ…」
「ユウキ」ララが声をかけてくる。
「学園が終わったら、2人だけで相談があるの。演劇の題目ね。ユウキの協力が必要なの」
「ボクの? うん、いいけど。大した事できないと思うけどな…」
シャルロットも連れだって、ダスティンの家に戻るとユウキはユーリカにカロリーナの稽古をお願いし、マヤの所に行ってシャルロットが美少女コンテストに参加するので、飛び切りの美少女にして欲しいとお願いした。マヤはギラリと目を輝かせてシャルロットの両肩を掴む。
『お任せください! このマヤ、全身全霊を持ってシャルロット様を絶世の美少女にして差し上げます。さあ、行きますよ!』
と言うが早いか、シャルロットを抱えて、2階のマヤの部屋に連れ去った。
「ぎゃあああ! た、助けてー」
「ボク、この光景、前にも見たことある。失敗だったかな」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ララ、相談したいことって?」
シャルロットを見送ったユウキがララの部屋を訊ねると、ララは部屋の鍵を閉めて誰も入って来られないようにしてユウキに向かい合った。
「うん、演劇の題目ね。他のクラスは王国に伝わる物語や伝承、神話から選ぶと思うんだ。みんなと一緒じゃ面白くないから、うちのクラスはね、ユウキの元住んでた世界のお話にしてみたい! 何かいいお話ない?」
「ええ~! 元いた世界のお話って、ボクあんまり知らないんだけど、大丈夫かな…」
「大丈夫よ、創作ってことにしてしまえば。2人の共同脚本にしようよ。ねえ、教えてよ」
「う、う~ん。ボクが知っているのは、小さい頃に読み聞かせしてもらった日本昔話、グリム童話、アンデルセン童話の中の話かなあ」
「わあ、聞いただけでワクワクしちゃいそうだね。じゃあ、いくつかこの紙に書きだしてみてよ。そこから選んでみよう」
ユウキは渡された紙にペンで、思いつくままタイトルを書き出していった。
「終わった? おお、結構書いてくれたね。ユウキって文学少女…、いや少年だったの?」
「いや、そんな訳ではないんだけど、本を読むのは好きだったから」
「えーと、最初は『日本昔話』か。日本ってユウキが元いた国だね。どれどれ」
ユウキが書き出したのは、大江山の鬼退治、安達ケ原の鬼婆、鶴の恩返し、かぐや姫、浦島太郎など。結構マニアックなものも含まれている。
「なに、安達ケ原の鬼婆って?」
「えっとね、山に住んで、旅人を襲って食べるお婆さんの話。最後は旅の僧侶と戦って死んじゃうの」
「何それ怖いよ。使えないよそんな話」
「でも、かぐや姫の話はいいわね。ロマンがあるわ。これは候補ね」
「えっと、グリム童話は、シンデレラ、白雪姫、赤ずきんなどなど、結構あるわね」
「ボクのお勧めはシンデレラと白雪姫かな。どちらも最後はハッピーエンドだよ」
ユウキは、大まかに話の流れを聞かせる。
「うん、シンデレラはいいわね。イジワルな継母はユーリカにやらせたいわね。嫌味なお姉さんはユウキとカロリーナで」
「何でよ!」
「最後はアンデルセン童話か。人魚姫、雪の女王、マッチ売りの少女、赤い靴などなど、ユウキの世界って、たくさん物語があって羨ましいわね」
「でも、アンデルセンの話は悲劇的結末が多いんだ。特に、人魚姫はね…」
「うっ、か、可哀そう。涙出てきた。この話もいいかも…」
「あと他にない? もう一つくらい候補が欲しいわ」
「そうだね…、う~ん、有名どころだとロミオとジュリエットとか」
「なに、どんな話なの?」
「えっとね、たしか、対立した貴族の男女が恋に落ちて結婚するけど、男は争いに巻き込まれてあげく殺人を犯して追放、女は他の貴族の嫁にされそうになる。その後は色々あって、結局2人とも死んでしまうって話だったような」
「色々あって…のところ、もっと教えなさいよ。でないと意味わからないわ」
「う、うん、どうだったかな…」
「よし、候補は揃ったわね。フィーアたちと相談してみよう」
夕飯時、リビングに入ってきたユウキとララは、夕飯をフィーアとヒルデが作っているのに驚いた。なんでも、マヤがシャルロットの着せ替えに夢中になっていて、降りてこないのだという。
「また、悪い癖が始まった。はあ、フィーア、ヒルデ、ゴメンね」
「いいんですよ。偶には私の作った料理も味わってもらいたいです。あ、ユーリカさんとカロリーナも戻ってきましたね」
「ユーリカの鬼! 私を殺す気か」
「そうですか? 私がユウキさんに課せられた内容より軽くしてますよ」
「乳だけでなく、体力もバケモノか、あんたらは…」
夕食はとても美味しかった。ダスティンもフィーアとヒルデの料理を褒めてくれて、2人とも嬉しそうだ。しかし、マヤとシャルロットはまだ降りてこない。
片づけが終わり、全員でララとユウキの演劇案の説明を受ける。
「うん、いいと思いますよ。私としては『安達ケ原の鬼婆』が気になります」
「あんたにピッタリだもんね、鬼婆ユーリカ。ぷっくくく」
「カロリーナ、明日から特訓の量を2倍、いや3倍にします。いいですね」
「ひぇえええ~! お代官様、お許しを、お許しをぉおお!」
「そうですね、私としてはシンデレラか人魚姫、ロミオとジュリエットがいいと思います。ハッピーエンドか悲劇の結末か、いいですね。でも、よくこんな物語思いつきましたね。凄いです」
フィーアの率直な感想に、ララとユウキは顔を見合わせ、苦笑いするしかできなかった。
「ところで、ヒルデの1年Aは何するの?」
「女子は手作り小物の販売と、男子は焼き鳥です。養鶏場を経営している家の子がいるので、肉を分けてもらえるんだそうです」
「手作り小物…。き、去年の悪夢が、長時間正座が…」
カロリーナとフィーア、頭を抱え始めた2人をヒルデが不思議そう見つめるのだった。