第101話 紅い三連星vsデカ乳三銃士
「もう、ユウキさんもユーリカさんも何をしているんですか! ここは私に任せて下さい」
ヒルデは漢たち向かって、両手を前に差し出すと、2つの異なる魔法を発動し、腕に纏わせて叫んだ。
「吹き飛べ! タイフーン!」
魔法の名を唱えた瞬間、ヒルデの腕から強烈な水流と竜巻が放たれ、空中で合体すると暴風雨の渦となって漢たち襲う。漢たちは暴風雨の力で悲鳴を上げながら、体を高く巻き上げられ、地面に叩きつけられた。
「す、凄いよヒルデの魔法。フィーアも凄いけど、それ以上だよ」
「はい! 私たちエルフは2系統の魔力を扱えるんです。私は風系と水系が使えますので、それぞれを同時に発動して合体させました。名付けて『合体魔法タイフーン』です」
「名前もカッコいいです。ユーリカ、感動しました!」
ヒルデの魔法によって、一瞬のうちに手下を無力化されたガイアは、一瞬呆然としたが、直ぐ様立ち直り、怒りに満ちた目をユウキたちに向けてくる。
「おのれ…、不愉快な凹凸を持つ小娘どもめ…。許さん!」
「オルテガ!」
「おう!」
「マッシュ!」
「待ってました!」
「行くぞ、俺たちの愛の必殺技!」
「ビック・トルネード・アタック!」
ガイア、オルテガ、マッシュの3人はユウキたちの周囲を高速で走り始めた。すると、
「ええっ! おじさんたちが分裂した!」
「ど、どれがホンモノかわかりません!?」
ユーリカとヒルデの目には多数のガイア、オルテガ、マッシュが何人も現れたように見えて、混乱している。
「フハハハハハ、どれが本体か分かるまい! お前たちが目を回した時が最後だ!」
(分身の術か、この世界にもあったなんて。原理は単純、対処法は確か……)
ユウキは、元の世界で読んだ忍者漫画を思い出し、冷静に分析する。
「ユーリカ、バルディッシュ貸りるよ」
ユウキは、あわあわしているユーリカからバルディッシュを受けとると、ガイアたちの足元にポイと投げつけた。
「ドンガラガッシャーン!」と凄い音がし、「ぬおおおお!」と叫びながらガイア、オルテガ、マッシュの3人はバルディッシュに足を引っかけて重なり合いながら盛大にコケた。
「ぐぬう。ま、まさか、俺たちの必殺技が破られるとは…」
「何が必殺技よ。その場から素早く動き、一瞬だけ停止して、また動き始めることの繰り返ししてるだけじゃないの。バカなの?」
高速で地面に体を強かに打ち付けた3人はダメージで起き上がることができない。ユウキはリーダーのガイアにゆっくりと近付くと、剣を顔先に向た。
「どう、まだやるの? 降参しなさい」と、降伏を勧告する。ガイアは、下からユウキを見つめると、
「姉ちゃん…」
「なによ」
「顔に似合わず、結構エッッグイパンツ穿いてるな」
頬を赤く染めながら、恥ずかしそうに言った。
「よ、余計なお世話よ! 下からスカートの中を覗くな、このスケベ! もう、その目潰してやるからね。覚悟しろ!」
「わ、わかった。俺たちの負けだ。勘弁してくれ」
ガイアたち盗賊集団を一ヶ所に集めて座らせると、いつの間にか復活したカロリーナがやってきた。
「いやー、いいもん見させてもらいました。紅い三連星対デカ乳三銃士。余は満足じゃ」
「何が『余は満足じゃ』なのよ。全く、王都でデカ乳三銃士なんて言わないでよね」
「カロリーナの体なら、この人たちも満足するのでは?」
「ユーリカ…、私の体が漢みたいだって言うの?」
「違うんですか?」
「この…。おい、お前らもう一度立て! こいつら乳のバケモノどもを完膚なきまでにやっつけろ!」
「お嬢ちゃん、勘弁してくれよ。もう帰ってもいいか」
「いいけど、もう他人を襲っちゃだめだよ」
「でもな、俺たちも食うものを手に入れなければ生きていけねえんだよ。俺たちがいた村は貧乏で、食料が高くなって買えなくなってな。自給している分じゃ足りないから、抜け出て来たんだ」
「俺たちは体が大きいから、食う量も多くなるしな。村に迷惑かけられねえ」
「とは言っても働き口はねえし。こうするしかねえんだよ」
ガイア、オルテガ、マッシュは口々に言う。それを聞いていたカロリーナは少し考えた後、荷馬車に戻って、自分の荷物をごそごそして紙に何か書き込むと、それを持ってきてガイアに差し出した。
「この先にハウメアー市があるでしょ。そこに行ってここを訪ねなさい、私の実家よ。農場を経営しているの。着いたらカロリーナから紹介されたって言いなさい。人手が足りないから雇ってくれるかもよ。もし、雇ってくれたら真面目に働いてよね」
ガイアたちは、カロリーナの申し出に呆気にとられ、そして、「うおおおおお!」と雄たけびを上げて、カロリーナの手を握って感謝の言葉を述べる。
「ありがとう、ありがとう姉ちゃん。助かるぜ。俺たちも本当はこんな事したくなかったんだ。やっぱり女は貧乳に限るぜ。乳のデカい女は薄情でいけねえ」
「ん、アンタはよくわかってる」
カロリーナとガイアはがっしりと固い握手をする。そこにユウキが一抱えもある袋を持ってやってきて、ガイアたちに手渡した。
「薄情な女で悪かったね。ホラ、これを持っていきなさい。ハウメアーに行くにもお腹がすいてちゃ辛いでしょ」
「こ、これは芋と肉か? ありがてえ、感謝するぞエッグイパンツの姉ちゃん」
「そ、それは言わなくていいから…」
「今日のユウキさんのパンツって、どんなのかしら」
「興味がありますね」
ユーリカとヒルデがこそこそと話している。
ハウメアーに向かって歩いて行く漢の集団を見送った後、ユウキたちも王都に向けて、荷馬車を出発させた。終始空気だったリサが感動して言う。
「中々濃い集団と遭遇しましたね。演劇を見ているみたいで面白かったです。しかも、最後はハッピーエンドって。こんなことってあるんですね」
「ボクはもう二度と会いたくないな~。男色はどうも受け入れられない」
「私たち3人の体を見て食指を動かさないなんて、結構屈辱ですよね。カロリーナは慣れてるでしょうけど」
「慣れてねーよ、牛女」
「あの、ユーリカさんとカロリーナさんって親友って聞いてたんですけど、違うんですか?」
「ボクも不思議なんだよね」
王都に戻ってきたユウキたちは、まず、自分たちの家に寄り、大喜びで迎えてくれたマヤと一緒に食料を下ろすと、冒険者組合でオーウェンにカロリーナの家との契約の事や食料流通について話し、荷馬車を貸してくれたことに感謝した。
「う…む、カロリーナのオヤジさんやお前たちの話を聞いてもよくわからんな。少しこっちでも調べてみるか。何にせよ、カロリーナ、ひとまず感謝するぜ」
冒険者組合の帰りにフレッドとシャルロットの家に寄って、小麦粉や日持ちする野菜、肉を分けてあげた。2人とも大喜びで、感謝の言葉を述べてくれた。
カロリーナはマヤやオーウェン、フレッドとシャルロットの笑顔を見て、自分の提案が実を結んでよかったと心の中で安堵するのであった。