第1話 望と優季
望と優季は仲の良い姉弟。優季の誕生日が近いことから、休日を利用してプレゼントを一緒に買いに行くが、そのさなか巨大地震に遭う。
地震によって津波が発生し、二人の住む町に押し寄せる。見上げるほどに高い黒い壁が迫る中、望と優季も必死に逃げるが、波の速さに逃げ切ることはできず、波に飲み込まれてしまう。
死んだと思った二人が気付くと、そこは深い森の中。死後の世界と思ったが、そうではなく生きていることがわかる。とにかくどこか人のいるところを目指すこととした二人。しかし・・・。
「今日はいい天気ね!」
中学2年生の高階望と小学4年生の優季の姉弟は東海地方の沿岸部に位置する中堅都市に住んでいる。今日は優季の9歳の誕生日が近いことから、プレゼントを買いに市内の中心街に出てきていた。
「ホントは内緒でプレゼントを買ってびっくりさせようと思ったのに」
「え~、お姉ちゃんの買うものはとんでもないものばっかりだから、ボクの好きなものが欲しいよ~」
「優季にはお姉ちゃんの素敵なセンスがわからないのよ」
ある誕生日の時、望は「優季にはこれが似合う!」と言ってかわいい女の子用の服を買ってきたのだ。優季は男の子である。しかし、体付きは華奢で、女の子に間違われるくらいかわいい顔をしていることから、おふざけでプレゼントしたのだが、これがまたものすごく似合っていたのだ。このことに味を占めた望は、誕生日のたびに女の子の服やアクセサリーをプレゼントし、着せ替えをして、その写真を友人たちと共有し、現実に男の娘がいることに感動し、妄想にいそしんでいた。
「ボクは、新しいゲームが欲しいよ。もう、女の子の格好は嫌だ」
優季も9歳。自我もしっかりしてきている。望もこれ以上は難しいと思い、今回から優季の好きなものをプレゼントすることをしたのだ。望は優季が大好きなので、嫌われたくない。嫌われたら生きてはいけないだろうと思うくらい好きなのだ。今もちょっと膨れた顔がかわいいと思っている。
「もう、わかっているわよ。でも、私もお小遣いはそんなにないから、あまり高いものはダメだよ」
「うん、わかってる。ありがとうお姉ちゃん!」
(うあ~、やっぱり優季はかわいい)
姉バカの望であった。
ゲーム店で優季の欲しかったソフトを買った。少々予算オーバーだったが、優季が喜んでいたのでよかった。時計を見ると、お昼を少し回ったところだったので、お昼をとることにした。
「優季、どこかでお昼にしようか」
「どこで食べるの?」
「そうね~。今日は天気も良くて、風が気持ちいいから、海の見える公園で食べよっか」
「うん!」
コンビニでサンドイッチと飲み物を買って、海の見える公園に来た。生えそろった芝生の上に座って、お昼を食べる。
「お姉ちゃん、海がきれいだね!」
「ホントだね~、波がキラキラしている。風も気持ちいいね」
「今度、お父さんとお母さんもさそって来ようよ」
優季の髪が風にそよいで、ホントかわいい。心がほんわかしてくる。とても幸せな時間。しかし、地面の下で震えるような感じがして、望が「何?」とつぶやいたとき、スマートフォンから危険を知らせる信号「緊急地震速報」が鳴った。