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ゲームも知らない女子高生のごくありふれた日常  作者: まきしま鈴木@ようこそエルフさん&東京サバイブで書籍化&コミカライズ
7/22

第7話 フィッシュ&チップスの食べ過ぎで死んじゃえ

 JPOPの明るい音楽をかける部屋、そこにはヘッドフォンを頭につける女子がいた。


 その子はわずかに口を開けており、ぽーっとした瞳で画面を見つめている。近くにやり終えた宿題が置かれていることから、どうやら学務をし終えたあとにゲームを楽しんでいると分かる。


 ボタンを押す仕草ものんびりして見えるが、モニター画面のなかでは強敵モンスターを次々と打ち破ってゆく。

 これはいま流行りのゲームであり、またオンライン要素もある。グラフィックの良さと適度なバランス、そして手ごろな月額課金で遊べるのも高評価に繋がっているゲームだ。


 と、戦果画面(リザルト)が表示されたとき、ぽわんっという電子音が鳴り、彼女のおっとりとした瞳が横に向く。そこには彼女のスマホがあり、明滅するアイコンは友人からのメッセージが届いていることを告げていた。


『塾が終わった。そっちに合流するにゃん』


 ぶふっ、とひとつ吹き出して、それから美羽はヘッドフォンを外し、スマホの応答ボタンを押す。


「こんばんは、小夜(さよ)にゃん。さっきのはなーに? 新しいキャラ付け?」


『あー、真面目なことをすると反動があってな。それで、イブはどうなったんだ? チュートリアルは無事に終わったのか?』


「んー、連絡が無いからたぶん……」


 無言の時間が流れることしばし。

 はあ、と美羽はため息を漏らした。


「無理そうならスキップすればいいんだけどねぇ」


『ゲームに慣れていないせいだろうけど、私はそれでいいと思っている。一番問題のあるプレイヤーは、覚えないといけないことを覚えずに、だらだらと手を抜く連中だしな。そいつらより、ちゃんと覚えてクリアしようとするイブのほうが見込みはある』


 ふむ、と美羽は肯定でも否定でもない声を漏らす。

 実際に下手なプレイヤーというのは数多い。というよりも上手いと思える存在と会えるのはごく稀だ。


 そもそも昨今のオンラインゲームでは、やりこみを好まない一般人が大多数を占めている。この辺りの客層はエンジョイ勢とも呼ばれており、切磋琢磨をするよりは楽しくお気楽に、スコアより顔を合わせるオフ会を優先する人たちである。


「もっと気楽に遊んでいいと思うよ。せっかくのゲームなんだし。小夜にゃんは勉強でもゲームでも真面目なガチ勢だなぁ」


「そう言う美羽こそガチ勢だと思うがな。ん、バスが来る。家についたら連絡するから、またあとで合流しよう」


 分かったわと答えてからピッと電話を切る。

 と、階下からの「お風呂に入りなさい」と呼びかける声に気づく。はーいと返事をひとつして、リモコン操作をするとログアウトの画面が表示された。


 そこには「ファンタジア・ブレイブ」というタイトルが表示されており、イブが泣きながら特訓している「エターナル・カオス・グレネイド」とはまったく異なるものだった。

 まさか一文字も合っておらず、内容もまったくの別物だとは美羽と小夜は気づきもしないだろう。


 とある郵送倉庫には、今も彼女のゲーム機が静かに眠り続けているのだとか。



          §



 明くる朝、チチと窓の外からスズメの鳴き声が聞こえてくる。

 さわやかな朝の食卓風景……なんだけど、はぁーぁ、とため息をするあたし。

 元気のなさが伝染したのか、お気に入りのパジャマもしょぼくれて見える。そんなあたしに、じろっと視線を向けてくるのは向かいに座る2人だった。


「イブ、昨夜は騒がしかったな。なにか隠しごとでもあるのか?」


 そう問いかけてきたのは父のジョンだ。

 イギリス人の血が流れており、そのせいか眉毛ともみあげが太い。ついでにアゴと胸板も。日本家屋だと暑苦しいけど、それとは関係なくあたしは不機嫌そうな顔を向ける。


「隠しごとなんてないよ。ただのゲームだし。ちょっとむしゃくしゃしてただけ」


「そうか、ゲームか。ならいい。男でもできたんじゃないかって、こいつと……なあ?」


 ばさっと新聞を畳んで兄貴もこちらを見る。

 海外の血が流れているせいかゴツい……というかデブい。おまけにシャツの胸には「みかぽん」と描かれたキャラクターがいたりする。なんのキャラなのかは知らないし、ぐいーっと真横に伸びてるから実物を見ても分かんないと思う。


「イブは嘘をつくのが大の苦手だし、男の心配はなさそうだ。このあいだプリンを食べたかって尋ねたときなんて、びっくんと震えたあとに『なななな、なんの話し? あたし知らないんだけどぉ?』とかテンパった目をしながら言っていたし」


 セリフのところだけあたしの声色を真似るのはやめてくんない? 微妙に似ているし、ふーひょー被害だよ、それ。ドッと親子で笑うのもカチンとする。


「兄貴なんて嫌い。もう口きかない」


「まあまあ。それよりも、よくお前一人でゲーム機を立ち上げられたな。そっちのほうが驚きだ。てっきりリモコンを買い忘れたーとか泣きついてくると思ったのに」


 つーん、知ーらない。そんなリモコンを買い忘れるなんて初歩的な……ぎょっくんと肩が跳ね上がる。同時に兄貴とお父さんの視線があたしに向けられた。


「ち、違うから。最近のゲームはリモコンがなくても動くようになってんの。だから買い忘れたわけじゃなくって、買わなくて正解だったの」


「は?」


「ああ、父さんは知らないだろうけど、そういうのもあるな。声に反応するやつ。てっきり新しいもの好きな連中向けかと思ってたけど、まともに使えるんだな」


「え? うーん、特に困らないかなぁ。親切だし、たぶんあたしよりアイちゃ……AIのほうが頭いいと思う」


 思ったことをそのまま口にしたら、数秒の間を置いたあと、あたしの家は大爆笑に包まれた。

 確かにそれは間違いないな、AIのほうが上だろう、とかなんとか言ってテーブルをバンバン叩くし、再びむっすうーとあたしはむくれた。


 ばかばか、ばーか、フィッシュ&チップスの食べ過ぎで死んじゃえ!

 バンとテーブルを叩いて立ち上がり、あたしは学生鞄を手に取る。べえっと舌を出したらまた2人に笑われてしまった。

【速報】日本へようこそエルフさんコミカライズ第2巻は3/27発売です

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[気になる点] >とある郵送倉庫には、今も彼女のゲーム機が静かに眠り続けているのだとか。 これも神による干渉の結果なのでしょうか?
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