第10話 乾杯っ!
「かんぱーい!」
ぽこんと乾杯したのは、先ほど買ったマッコシェイクだ。ゲームを買って今月はピンチだったから、割引クーポンがあって助かったな。
そういうわけで店内の向かい席には二人がいて、あたしに負けないくらいの笑顔を浮かべていたりする。もちろん小夜さんはクールな感じの笑みだけど。
ずずずいっとマッコポテトLサイズをそちらに向けて、あたしは頭を下げた。
「やー、ごめんね。一週間も待たせちゃって!」
「そんなことはないぞ。初心者なのに、チュートリアル最難関のゼットン級ガーゴイルを倒せたのはむしろ早い。動画配信したら人が集まったかもな」
「うん、すごく早いと思う。イブちゃんはゲームの才能があるのかもしれないよ」
むふふ、褒められるのってすごく気持ちいいね。陸上から遠ざかっていたから。こういうのは久しぶりで嬉しいな。頭をなでなでされるのも、この際だから許しちゃおう。
ひとくちシェイクを飲んでから、小夜さんの切れ長な瞳がこちらを向いた。まつ毛が長いから、えーと、オリエンタルっていうのかな。知的な美人って感じ。
「実際、どう戦ったんだ? あれは運で超えられる難度ではないだろう。策を練っていたんじゃないか?」
「うん、大変だったよ。浮遊術のオンオフを秒単位で管理したし、重術は戦いのアクセントに使ったりして。はっきり言って中間テストよりがんばったと思う」
ふふん、と得意げな顔をするあたしだったけど……なんでかな、幻覚が見えるんだ。さすがだなと言う小夜さんの頭の上に「学年5位内」という文字が。
さりげなく美羽ちゃんも上位陣にいるし、きゅーんとお腹が切ない感じになった。
「? どうした、急に泣きそうになって。そういえばチュートリアルを終えたなら、次から本格的に遊べるな。ようやくここからオンラインになるんだぞ」
「オン、らいん?」
疑問符混じりの返事をすると、二人の笑みは凍りつく。
そろりと視線を交わし合う様子だけど違うから、あたしだってオンラインの意味くらい分かってるから。
「インターネットにつながるって意味でしょ? それくらいは分かってるよ、もちろん!」
ぱくんとポテトを口に放りながらそう言った。やめてよ、あからさまにホッとしないでったら! だいたいスマホを持っているんだから、回線のことを分かってないわけがないじゃん。
じゅこーっとシェイクを飲んでから、あたしは目を三角にした。
「じゃなくって、あたしが分からなかったのは、どうしてゲームでインターネットをするのかってこと」
「あ、ああ……。どちらにしろあまり理解していなさそうだな。ブラウザのことではなく、ネット回線を使って一緒にゲームで遊べるようになると言いたかったんだ。もちろん接続は終わっているんだろう?」
ガラガラピシャー、とあたしの背後に雷が落ちた……気がした。
「あ、雷だ。どしゃぶりになりそうかなぁ、小夜?」
あ、本当の雷だったんだ。
だけど雨雲を見上げる二人とは対照的に、あたしはダラダラと汗をかく。回線のことは分かるけど、設定なんてちっとも分からない。
がんばってゲーム機を立ち上げたけど、思い返してみるとネット回線を繋いだ記憶がまったくない。というか電源さえ繋いでないし、配線の一本も見たことない。
「……あれ、もしかして一緒に遊べないの?」
ショックを受けながらそうつぶやくと「あらま」という顔を二人は浮かべた。
雨が通り過ぎると商店街は夕焼けに染まっていた。畳んだ傘を手にして、二人に挟まれながらあたしは歩く。
「ぜんぜん問題ないよね、小夜?」
「ああ、家でネットが見れているのなら、それと同じ設定をすれば済む。もしイブができなそうだったら、明日は週末だし私が設定をしに行っても構わないぞ」
あぁーー、小夜さんってばイケメンっ!
すごく頼りになるし、美羽ちゃんがお嫁さん立候補をしている気持ちも分かっちゃう!
なんて思っていたら、反対側から美羽ちゃんが笑いかけてきた。
「じゃあ、もし良かったらお泊まり会をしない? 私と小夜はノートを持ってるから、設定が終わったらすぐ一緒に遊べるよ?」
ううー、なんて甘いお誘いっ! なんでここでノート帳が出てくるのかは分からないけど。
おっとりした顔で「ね?」と小首を傾げられると……ああっ、すごく可愛いパジャマ姿を連想しちゃうっ!
「いいね、すごく楽しそうっ!」
「はは、じゃあ決まりだな。女子会、もとい初めての協力プレイだ。私たちの速さについてこれるかな、イブ」
ああーん、すっごく頼もしいよ、小夜さんは!
女子会だなんて楽しみで仕方ないし、にこーっとあたしは笑った。ついさっきは崩れ落ちそうなほどショックを受けていたのにね。不思議!
スキップしたくなるくらい嬉しくて、あたしは口を開けて笑った。