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ゲームも知らない女子高生のごくありふれた日常  作者: まきしま鈴木@ようこそエルフさん&東京サバイブで書籍化&コミカライズ
10/22

第10話 乾杯っ!

「かんぱーい!」


 ぽこんと乾杯したのは、先ほど買ったマッコシェイクだ。ゲームを買って今月はピンチだったから、割引クーポンがあって助かったな。

 そういうわけで店内の向かい席には二人がいて、あたしに負けないくらいの笑顔を浮かべていたりする。もちろん小夜さんはクールな感じの笑みだけど。

 ずずずいっとマッコポテトLサイズをそちらに向けて、あたしは頭を下げた。


「やー、ごめんね。一週間も待たせちゃって!」


「そんなことはないぞ。初心者なのに、チュートリアル最難関のゼットン級ガーゴイルを倒せたのはむしろ早い。動画配信したら人が集まったかもな」


「うん、すごく早いと思う。イブちゃんはゲームの才能があるのかもしれないよ」


 むふふ、褒められるのってすごく気持ちいいね。陸上から遠ざかっていたから。こういうのは久しぶりで嬉しいな。頭をなでなでされるのも、この際だから許しちゃおう。


 ひとくちシェイクを飲んでから、小夜さんの切れ長な瞳がこちらを向いた。まつ毛が長いから、えーと、オリエンタルっていうのかな。知的な美人って感じ。


「実際、どう戦ったんだ? あれは運で超えられる難度ではないだろう。策を練っていたんじゃないか?」


「うん、大変だったよ。浮遊術(フロート)のオンオフを秒単位で管理したし、重術(グラビティ)は戦いのアクセントに使ったりして。はっきり言って中間テストよりがんばったと思う」


 ふふん、と得意げな顔をするあたしだったけど……なんでかな、幻覚が見えるんだ。さすがだなと言う小夜さんの頭の上に「学年5位内」という文字が。

 さりげなく美羽ちゃんも上位陣にいるし、きゅーんとお腹が切ない感じになった。


「? どうした、急に泣きそうになって。そういえばチュートリアルを終えたなら、次から本格的に遊べるな。ようやくここからオンラインになるんだぞ」


「オン、らいん?」


 疑問符混じりの返事をすると、二人の笑みは凍りつく。

 そろりと視線を交わし合う様子だけど違うから、あたしだってオンラインの意味くらい分かってるから。


「インターネットにつながるって意味でしょ? それくらいは分かってるよ、もちろん!」


 ぱくんとポテトを口に放りながらそう言った。やめてよ、あからさまにホッとしないでったら! だいたいスマホを持っているんだから、回線のことを分かってないわけがないじゃん。

 じゅこーっとシェイクを飲んでから、あたしは目を三角にした。


「じゃなくって、あたしが分からなかったのは、どうしてゲームでインターネットをするのかってこと」


「あ、ああ……。どちらにしろあまり理解していなさそうだな。ブラウザのことではなく、ネット回線を使って一緒にゲームで遊べるようになると言いたかったんだ。もちろん接続は終わっているんだろう?」


 ガラガラピシャー、とあたしの背後に雷が落ちた……気がした。


「あ、雷だ。どしゃぶりになりそうかなぁ、小夜?」


 あ、本当の雷だったんだ。

 だけど雨雲を見上げる二人とは対照的に、あたしはダラダラと汗をかく。回線のことは分かるけど、設定なんてちっとも分からない。

 がんばってゲーム機を立ち上げたけど、思い返してみるとネット回線を繋いだ記憶がまったくない。というか電源さえ繋いでないし、配線の一本も見たことない。


「……あれ、もしかして一緒に遊べないの?」


 ショックを受けながらそうつぶやくと「あらま」という顔を二人は浮かべた。




 雨が通り過ぎると商店街は夕焼けに染まっていた。畳んだ傘を手にして、二人に挟まれながらあたしは歩く。


「ぜんぜん問題ないよね、小夜?」


「ああ、家でネットが見れているのなら、それと同じ設定をすれば済む。もしイブができなそうだったら、明日は週末だし私が設定をしに行っても構わないぞ」


 あぁーー、小夜さんってばイケメンっ!

 すごく頼りになるし、美羽ちゃんがお嫁さん立候補をしている気持ちも分かっちゃう!

 なんて思っていたら、反対側から美羽ちゃんが笑いかけてきた。


「じゃあ、もし良かったらお泊まり会をしない? 私と小夜はノートを持ってるから、設定が終わったらすぐ一緒に遊べるよ?」


 ううー、なんて甘いお誘いっ! なんでここでノート帳が出てくるのかは分からないけど。

 おっとりした顔で「ね?」と小首を傾げられると……ああっ、すごく可愛いパジャマ姿を連想しちゃうっ!


「いいね、すごく楽しそうっ!」


「はは、じゃあ決まりだな。女子会、もとい初めての協力プレイだ。私たちの速さについてこれるかな、イブ」


 ああーん、すっごく頼もしいよ、小夜さんは!

 女子会だなんて楽しみで仕方ないし、にこーっとあたしは笑った。ついさっきは崩れ落ちそうなほどショックを受けていたのにね。不思議!


 スキップしたくなるくらい嬉しくて、あたしは口を開けて笑った。

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― 新着の感想 ―
[一言] ついにアンジャッシュ劇場が終了するのか…!? ………………………………北欧の神様sが勘違いしっぱなしだけど、そっちは大丈夫かな?
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