第四話
こっくりさんは、胸元に寄せていた拳をすきま女に向け、静かに言った。
「この拳を開いた時にすきま女、あんたの本体はこの世から消える」
「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ……っ」
「……あたしの代に顕現したことがあんたの敗因だよ」
「ぐぞぉ、ごろす、ごろじてやるううううっ!!」
呪詛の言葉を吐きながら泣き叫ぶすきま女を見て、爽太はこっくりさんに話しかけた。
「……あ、あのさ」
「なんだい?」
「おれがこんなこというのも、おかしいんだけど」
「ん?」
「……助けてあげられない、かな。その、すきま女」
「……は?」
「こぞおおおお! 情けをかけるつもりかああああっ!!」
「違う」
言い切った爽太は震えながら、それでもしっかりとすきま女を睨んでいた。
「お前が、おれのカードだからだ」
「な、に……」
「中身は確かに怨念かもしれない。おれを食うつもりなのかもしれないけど。……でも、今のお前は、おれのカードから抜け出たランクRのすきま女だ。今でももし、そのことを少しでも覚えているなら、……おれのカードに戻って欲しいんだ」
「爽太……」
「戻ったところであたいは消えぬぞ!」
「……いいよ。カードでいてくれるなら」
爽太は、そう言ってこっくりさんを見上げて笑う。
「で、桜さん。カード見つかった?」
「あ? あぁ、ほら……って違う! あたしは逢魔が刻の狐狗狸さん!」
急に爽太にぶっこまれ、わたわたと慌てながらこっくりさんが言い返す。
すると爽太は小さくため息をついてこう言った。
「もうバレバレだし。……さっき、桜さん言ってたよね、カードに戻るか消えるか……って」
「だからあたしは……はぁ、もういいか。……そうだよ、カードに戻った状態で浄化すれば、こいつの意識は消えずに、カードの中に封印される。あとはそれをうちの神棚に奉納すれば終わり」
「封印したカード、おれに返してくれない? だっておれのだし」
「へ? い、いや、そんなことしたら」
「大丈夫だよ」
爽太はこっくりさん――桜に笑いかけた。
そんな彼の屈託のない笑顔に、桜は顔を赤らめる。
「こいつ、この世にいたいからおれを食おうとしてたんでしょ? だったら、カードに封印されててもこの世にはもういるんだから、もうおれを食う必要なくない?」
「……何が起きるかわかんないよ?」
「桜さんが護ってくれるんでしょ?」
「……あーもう! わかったよ! そういうとこは昔っから変わらないんだから。……すきま女、あんたもそれでいいね!? もうめんどくさいから文句言うなら即消すよ!?」
「う……わ、わがった」
「はぁぁぁ……ったくもう……」
深い溜め息をついた桜は、突き出した拳を引いて手を開く。
そこには虹色に輝く光の塊があった。
「……それが浄化するもの?」
「そう。これを強制的に打ち込むと、塊になった怨念が粉々になるの。……ただ、これを相手が受け入れれば、怨念はその怨みだけを浄化されて、持ち物に憑く念、“付喪神”として封印されるってわけ」
「つくも、がみ……」
「ふぅ。じゃ、爽ちゃんはこのカード持って。……すきま女。あんたはそのカードに向かい合って。はーやーくー」
「ぐ、ぬ」
「じゃ、いくわね。この光をカードとあんたの間に置くから、あんたは光を通してカードに触りなさい」
すきま女は桜に言われて恐る恐る手を伸ばす。光に触れる瞬間ビクッとすくんだが、特に何も起こることはない。そのままゆっくり手を伸ばし、爽太の持つカードに触れる寸前で手を止めた。
「……そう、た」
「なに」
「本当に、いい、のか」
「いいっていってんじゃん」
「あたいは、お前を食おうと」
「だってさ」
爽太はすきま女の言葉を遮るように笑った。
「今は別に考えてないでしょ、そんなこと」
「うっ……、そ、その顔を向ける、な。……くそっ」
最後にそう言い残し、すきま女はカードに触れた。
そのまま何も抵抗なく、するりと彼女はカードに戻っていった。
「……なーんか納得いかないんだけど」
「なんで?」
「見てよこのカード。前と違くない?」
爽太がカードを眺める。
「……変わんなくない?」
「顔を見なさいよ」
「顔……? あ、そういえば」
「こいつ、こんないい顔で笑ってなかったわよ」
爽太の持つランクRのカードの中で、すきま女は確かにいい笑顔でポーズを取っていた。
「爽ちゃん、カード一旦預かるわよ」
「え、あ、うん」
「ありがと。今はまだ応急処置みたいなものだから、一度持ち帰ってちゃんと浄化するわ。明日には終わってるから、今度店に来た時に返すからね。……じゃ、あたしは帰るけど、くれぐれも気をつけて。あとあたしのことは誰にもいうなよ?」
「わかってる。っていうか信じてくれないよ」
「まぁそれもそっかな」
「……桜さん」
「ん?」
帰るつもりで後ろを向いた桜に、爽太が話しかけてくる。
首を爽太に向けた桜は、爽太が自分を見上げてくるその顔が、やけに幼く見えた。
「ありがと。……そのカード、戻ってきたら大事にする」
「……ん、そうしてあげて。じゃあまたね」
「うん」
今度こそ歩き出した桜が、曲がり角に落とした自分のカードを拾い上げた時、後ろから爽太の叫び声が聞こえてきた。
「いってぇぇっ! なんだこれ、靴紐があっ!」
そんな声に桜はくす、と笑う。
――子どもを助けるこっくりさんは、ちょっとしたいたずらが好きなんだよ。
例えば、右と左の靴紐を結わっておくとか、ね。
第一章・完
第一章「逢魔が刻の狐狗狸さん」はこれにて完結となります!
この作品は短編連作として、これからも書いていくつもりです。
これからも感想など応援、よろしくお願いしますー!°˖✧◝(⁰▿⁰)◜✧˖°





