6 『悪魔召喚の代償』
「お前が召喚したのは上級悪魔だ。お前の住んでいた家に行って魔方陣を確認した」
「それならどうしてわざわざ聞いたんだ。呼吸まで止めて」
「お前の認識を確認した。お前は自分がどの悪魔を召喚したかもわかっていないようだからな。無知なままに悪魔召喚に手を出した輩にはありがちなこと」
「俺はきちんと本を読んで書いた」
男の言葉に反論するようにアルタは言った。男はじっとアルタの方を見て、
「ならば、契約内容を説明してみろ」
「契約内容?」
聞き知らぬ単語にアルタは首を傾けた。それを見て、男はため息を吐く。
「お前みたいな連中には慣れている。分を弁えず、悪魔に手を出した」
「さっきから何言ってんだ。分かるように説明してくれよ」
「俺の言ってることが分からないことが問題なんだ。どの道このままいけばお前は死ぬ」
「は?」
その言葉にアルタは言葉を失った。テーブルから肘を退けてピンと背筋を張って男を見る。
「悪魔回帰。契約を終えた悪魔は召喚者の元に帰り、契約遂行による報酬を請求する。代償とも言い換えられるが、要は給料請求のようなものだ。通常なら代償契約によってその分を定めるのが鉄則だが、それを怠った場合、悪魔は自由権利の元、法外な見返りを求めてくる。階級が上なほど見返りも大きい」
「あの、その、もう少し詳しく」
「詳しく話している時間は無い。もうじきここにバビオンの連中がここに来て、お前の身柄はあいつらに引き渡される。そうなれば、お前は一生監獄の中、運が悪ければ首ちょんぱだ」
「ははは、何だよそれ?」
「悪魔召喚はそれだけ大罪だ。一度召喚した者は一生憑りつかれるとされている」
「だから俺が理解できるように説明してくれよ! バビオンって何だよ、それに大罪って訳がわか」
「それも話している時間は無い。俺と来るか、今ここで決めろ。一分待つ」
見えない手に引かれるように、周囲の環境だけが次々に切り替わっていく。アルタは息を吐く暇もなく、しかし、打開策を見つけられるはずもなく、黙って首を縦に振るしかなかった。
「よし、決まりだ。名前は?」
「アルタ=オルタ」
「よろしくな、アルタ」男の口調は最後まで平坦だった。