4 『見知らぬ面会人』
留置所に入れられてから三日が経過した。食事は喉を通らず、アルタはため息ばかりをついて、一日を過ごした。両親は幼少期の頃に彼の前から姿を消し、今は祖母が保護者になっているが、足腰が不自由なため面会に来る者は誰もいなかった。
「暇だなぁ」
これと言った楽しみもなかったが、アルタは大して状況を悲観的には見なかった。元より学園でも酷い扱いを受けてきた彼にとってはさほどの環境の変化ではなかった。部屋の隅に石ころを見つけ、床に線を描いた。魔法陣の基礎となる円形を作り、中に幾何学模様をはめ込んでいく。魔法陣は完璧に把握しているが、儀式に必要な供物がない。
「あぁ、暇だ」
コン、コン、と鉄格子を叩く音が響いた。見ると、灰色のコートを羽織った男性とその横にスーツを着て鞄を持った若い女性が立っていた。
「出ろ」
「なら鍵を開けてくれ」
直ぐに牢屋の鍵が開けられ、手錠を嵌められたアルタは男に付いて取調室へと案内された。二人は向かい合って座った。制服を着た警官が最後に入ろうとしたが、女の方に止められ、部屋にはアルタと二人だけとなった。女は男の座る椅子の後ろでたったまま、アルタを見下ろしていた。
「さてと、幾つか手短に質問をする。正直に答えてほしい」
「はいはい、答えますよ。てか、答えてますよずっと、正直にね。信じてもらえないけど」
不貞腐れたように両肘をついてアルタは答えた。
「お前が召喚したのは何級の悪魔だ?」
「え?」
平坦な口調で言い放たれた問いにアルタは思わず固まった。これまでの尋問官とは違う流れに戸惑いを隠せない。
「早く答えろ。低級・中級・上級のどれに当たる。どんな特性を持たせた」
「えっとあの……」
返答に迷い、もごもごと口を動かしていると、男がアルタの顔の前に手を広げた。その瞬間、
「あ、あ、息、が……」
アルタは両手で首を掻きむしった。しかし、空気は一向に肺まで届かない。慌てるアルタを前に男が手を除けると、呼吸は元通りになり、机に手を付いて必死に息を吸い込んだ。
「もう一度聞く。お前が召喚した悪魔は何だ?」