2 『罪状・器物損壊罪』
「罪状・器物損壊罪。借家で無断に爆発物を使用し、その後、借家そのものを倒壊・粉砕させた。爆発の瞬間は多くの通行人が目撃している。言い逃れの余地はないな。で、一体何してやがったんだ。家で花火でも打ち上げようと思ったのか。でなけりゃ、大量の火薬を買い込んで良からぬことを企んでいたのか」
「火薬なんて使ってねぇ。俺は悪魔を召喚したんだ」
「おい、大人をバカにすんのもいい加減にしろよ。てめぇ毎度の聴取をその一言で乗り切ろうってのか、あぁっ!」
怒気を帯びた眼光で警官はアルタの方を睨みつける。アルタは決して間違ったことは言っていないと堂々と胸を張って見せた。その襟首を掴んで警官がアルタを引き寄せる。無精ひげが目の前に迫り、そのちりちり具合をじっと見た。今度は歯を剥き出しにして威嚇してくるが、アルタはその顔を見て、学校で買われている犬のボブを思い浮かべた。よく自分の尻を噛んでくる憎き番犬。あいつにもいつか呪いを掛けてやろうとアルタは思う。
いかつい警官の後ろでは若い警官が机に座ってずっと何かを書いていた。記録係の警官はアルタの方を一切見なかった。
「精神錯乱なんて流行らねぇぞ。ここスピサントじゃ、子供でも大人と同様の罪で裁けるんだ。黙秘や嘘はそれだけで裁判官の心証を悪くするだけだ」
「だから嘘なんて付いてない。俺は悪魔をぼべ」
「ドドキンス警部!」
若い警官が叫び、アルタの身体は後ろに倒れた。身を乗り出したドドキンスの右フックが左頬にヒットし、余りの衝撃に動くことも出来ない。現役警官を恐るべし、しかし、これは違法では? と内心を思ってみても声を出せない。
「お前には弁護士を立てる権利が認められている。まぁ腕のいい奴を引っ張って来るんだな。このまま実刑になれば懲役十年は固い。その上事件の損害額二千五百万ポルだ。次にシャバに出る頃には借金まみれの立派な大人ってわけだ。刑務所の中で精進して暮らすんだな」
ドドキンスは至って冷静に言い放ち、部屋を出ていった。若い警官も後に続き、部屋には床に横たわるアルタだけが残された。
「くっそ、あいつもいつか呪ってやる」