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19『彼女との遭遇』


「妙だな」

「何が?」

「放課後になって瘴気が消えた」


 三階の廊下を進みながら、不意にジンが言った。校舎内は静寂に包まれ、他の階からも物音は何一つ聞こえない。窓の外には中庭が見え、はるか先に見える太陽がかすかにオレンジ色に変わっている。


「消えたならいいことじゃないのか。これでおかしくもならないだろ」

「それは条件による。今回の場合は奇妙な点が多い」

「いちいち遠回しに言うな。簡潔に言ってくれ」


 内容が全く掴めず、アルタは息を吐きながら目を細めた。


「俺が部屋で言ったことを覚えているか。お前の召喚した悪魔は物理的に人を死に追いやることは出来ないという話だ」

「そういえば言ってたな。干渉できるのはあくまで人の感情とか思考とかに限られるだったっけか」

「そうだ。肉体を持たない悪魔は人を殺せない。だが、思考を少し変えるくらいのことは出来る。そうしてゆっくりと誘導し、最終的に死に追いやる。そして、その為に悪魔は人に憑りつく」

「覚えてる覚えてる。だから何だよ」

「瘴気はそう言った人の感情に干渉するために悪魔が発生させるものだ。瘴気を吸った者はそれだけで悪魔に感情をコントロールされてしまう。さっきのお前のようにな。だが、それ自体が矛盾すると言っているわけだ」


 一度眉間に皺を寄せ、考えるように腕を組んだアルタだったが、直ぐにジンの言わんとする『矛盾』に行き着いた。


「呪った側である俺自身が悪魔に感情をコントロールされてるってことか」

「そういう事だ。本来なら呪い返しにでも合わなければ、こんな事にはならない。だがそうなれば、悪魔はお前の影に潜んでお前を狙っていることになる」


 それを聞き、アルタは床に伸びる影に視線を落とした。いつもと変わらず、足の先にくっ付いているシルエット。今のアルタの体勢と全く同じ形をしている。


「心配せずともそこに悪魔はいない」

「なら、どこに」

「さぁな、ともかくお前が呪ったクラスメイトの所へ向かう。そうすれば自ずと答えは出る」

「そうだな」


 アルタの脳裏に二人の男子生徒の顔が浮かんだ。


「あれ、でもさぁ。ならリリンはどうなるんだよ。俺のこと思いっ切り殴って気絶させてたろ。やろうと思えばそのまま……」


 リリンの方を見ると彼女は優しく笑い掛けてきた。


「リリンは人に定着させた悪魔だ。元より儀式の手順が違う」

「あぁ、そう」

「肉体を持たない悪魔は人を殺せない。お前がもう少し手順を複雑に組んでいれば、もっと強力な悪魔を召喚できたはずだ。そうなれば直ぐにでも契約を終え、今頃お前はもういない」

「色々ややこしいことは分かった。ともかく、ゆっくり誘導するなら今回はまぁ、良かったってことだ」

「そうとも言えない。お前は契約に自分の血を使っただろう」

「ちょっとだけ。指の先を切って垂らしただけだけど」

「悪魔は血によってもその姿を変える。その中でも人の血は特別だ。人の血をもって召喚された悪魔には人間のような思考力が身に付く。急がなければ、状況は直ぐにでも悪化するぞ」

「あなたたちここで何をしているの」


 突然の声。振り向くと階段の手前に二人の女子生徒が立っていた。片方は凛とした雰囲気を醸し出し、もう片方は付き人のように半歩後ろで立っている。凛とした女子生徒はこちらに睨みを利かせながらゆったりとした足取りで近づいてくる。

 その生徒の顔を見て、アルタははっとした。


「あれってたしか、生徒会長……?」


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