15『そこはいつもとどこか違う』
校舎の中は至って普段通りだった。これと言った変化も見られず、通常の昼間の風景。午後の授業が始まり、グラウンドには人一人の姿すらない。裏口の手前に建てられた別棟の屋上から校内を見渡しながらアルタはため息を吐いた。
「なぁなぁ、何も起きてない様に見えるんだが、っていうかいつも通りだし、というより今から考えてみるとこの状況もどうなのとも思えてきたんだが」
非日常の突然放り込まれ、あれよあれよと周囲に振り回されながら流されてきた状況の中で、アルタの頭はようやく自ら考えることを思い出したのだった。そもそもにおいて、悪魔という非現実的な存在の召喚から始まり、今は自らの命のためにその悪魔を消しに学園に出向いている。新手のドッキリにしても幾らか手が込み入り過ぎているきらいはあるが、それでもない話でもない。
「今更ながらこれってどういう状況なの。あんたらってホントに悪魔祓いなの。何よりも俺ここで何してんだろ」
小説や映画の世界から突然現実に引き戻されたような感覚を覚え、疲労感が全身を襲った。
「家が吹っ飛んだことにびっくりして、あれこれ考えずに付いてきちゃったけど。あんたらってあれなの。悪魔とかそっち系の本書いてる人かなにかなの。よくよく考えたら訳わかんないし。大体悪魔って何だよ、そんなもん居るわけねぇじゃん」
肩の高さで両掌を上に向け、呆れた様子で首を振るアルタ。欄干にもたれ掛かり、他の二人の方を見る。彼らは至って冷静な様子でアルタを見ていた。
「それともあれか、詐欺かなんかなのか。霊感商法とか聞いたことあるぞ」
「落ち着け」
「落ち着いてるさ。よく考えたらさっきから意味分かんねぇことばっか言ってるし。全然理解できねぇ。結界だとか何とかいいやがって、女の方は校舎入った途端に急に喘ぎだすし。お前らいったい何なんだよ」
「すみません、結界などに触れるとあのようになってしまうんです。特性上、刺激には特に敏感で」
リリンはもじもじしながら頬を赤らめた。
「いいから一度落ち着け」
「落ち着いてるって言ってんだろ。バカにすんじゃねぇよ! もういっぺん言ったらぶっ飛ばすぞ」
声を荒らげ、アルタは叫んだ。そのまま両拳を固めて胸の前で構えた。
「リリン」
「はい、少々あてられています。この濃い瘴気の中では無理もないかと」
「しかし妙だな」
「おいおいおい、勝手に話してんじゃねぇぞ。いい加減にしろや。次、口開いたらマジにぶっこ、ボヘッ」
突然の腹の衝撃にアルタの身体がくの字に折れ曲がる。右脇腹のレバーの部分にリリンの拳がヒットし、悶絶しながら屋上に倒れ込んだ。
「すみません、手荒くなってしまいますがお許しください。後で優しく看病いたしますので」
言われて、次の瞬間にはアルタの意識は奥底へと沈んでいた。