14『一般生徒以外はお断り』
正門からレンガ塀を伝って裏手に回る。校舎裏には各部活動に割り振られた専用のグラウンドが幾つも並び、巨大な敷地が広がる。学園は山の上に建てられている関係から、グラウンド側の塀の外は傾斜の急な森になっていた。
塀に手を付きながら慎重に進むアルタに対して、ジンとリリンは悠々と先へ行き、アルタには目もくれない。何度も木の根や傾斜に足を取られそうになるが、必死に二人の後を追う。
「付いてくるのが辛いなら正門から入ってもいいんだぞ。お前ならできるだろう」
「うるせぇ、いま俺は自宅謹慎中なんだよ。正門なんかから入ったら直ぐに警備員に止められる」
「何て言うのか、お前も色々大変なんだな。同情は全くしねぇが」
「入らないよ。それよりどこに向かってんだ」
アルタの問いにジンは答えない。息を切らしつつ、ようやくジンたちに追いつくと、彼らの正面に小さな扉があった。山肌を切り取って作られた幅の広い塀にポツンと取り付けられた黒色の扉。扉から少し顔を上げると、塀の向こう側に建物が見えた。
「裏口だ。さぁ入るぞ」
「入るぞって、鍵は」
「昨日開けておいた」
気楽な調子でジンは言う。昨晩、アルタが取調室で気を失ってから翌日の昼に目を覚ますまでの間、ジンは幾つかの準備をしていた、とここまでの道中で説明した。それは今から行う悪魔祓いのために必要な手順だとも付け加えた。
「ジン様、これは」
ジンに促され、扉に手を掛けたリリンが一瞬身を引いた。振り返り、ジンの方を見ると彼は一度だけ頷いた。
「結界だ。校舎全体を覆っている。先に入れ。今のお前なら干渉せずに入れるだろう」
「予備用のを使う」
言って、ジンは首元を指さした。第二ボタンまで開けられたシャツの内にペンダントが光っている。宝石の部分をトントンと人差し指で叩いて見せた。
「ではわたくしから入らせていただきます」
ゆっくりと扉が開かれ、二人の後ろにいたアルタが中を覗き見た。けれどそこにあったのは何の変哲もない校舎の壁だけだった。
「あのさ、結界っていうのは……」
「お前には分からない話だ。気にする必要はない。元よりお前の願いの成就のためのモノだろうからな。お前は触れても問題ないわけだ」
「なんだか、蚊帳の外にされてるみたいで嫌な気分だ。本当にだいじょ」
「うっ、はぁっ、はぁんん!」
会話の途中で聞こえた艶めかしいリリスの声にアルタの身体が僅かに飛び上がった。見ると、彼女は扉を抜けて校舎の敷地へと足を踏み入れていた。呆然とするアルタの方を見て、照れ笑いを浮かべるリリス。
「すみません。私、他の悪魔の持つ力に敏感でして」
言葉の意味が全く理解できず、目の前の出来事にアルタはただただ苦笑するしかなかった。
(この二人で本当に大丈夫なのか?)
一抹の不安を感じずにはいられなかった。