13『思いは芽吹く』
願ってはいけないことだった。
心のどこかではそれを感じていた。時に人は行いに理由を求めるが、感情を発端とする行いへの理由はいつも後付けに他ならない。触れた瞬間には小さな思いが芽吹き、それは時が過ぎ、周囲の環境が少しずつ変わると共に養分を蓄えてつぼみを作る。
感情は気紛れで、けれど気付かぬ内に成長している。怒りを覚え、憎しみを抱き、心のどこかにそれが蓄積されていく。そうして季節は巡り、つぼみは開花の時期を迎えるのだ。花開くその時には、もう抑えが効かなくなっている。蓄えた養分が多いほどに大きな花が咲く。それが負の念であれば、その花はどんな色になるのだろう。どんな形、香りになるのだろう。
そして、俺は願った。
身勝手で、どす黒い願いを。
悪魔に救いを求めたのだ。
「真昼間からこんな場所歩いてて平気なのか」
ジンの背中にアルタが問うた。
昼間の商店街は人でごった返していた。左右で布の突き出し屋根の下、商売繁盛に励む者たちが大声を張り上げている。客は声に釣られ、周りに流され、常に流動し続ける。
そんな彼らの隙間を縫うようにしてジン、リリン、アルタの三人は通りを進んでいた。辺りに気を配るが、雑多な雰囲気がそんな緊張も和らげてしまう。
「問題ない」
「追ってくる奴がいるんだろ。そいつらがもし来たら」
「もう来ている。恐らくこの街には入っているだろう。だから、びくびくしても仕方がない。一か所に留まっている方が危険だ」
「そいつらはお前を追ってるんだろ」
「そうだ」
振り向きもせず、ジンは答える。
「どうして俺を助けようとする」
「それも全て説明したはずだ。こちらは一応の信用のために情報を開示した。同じ話を何度もする気はない」
「納得は、まぁしてるけど。でもなんていうか、その、信用はまだ……」
「そこまでは求めていない。内容を理解してもらえれば結構だ」
繁華街を抜け、二つ先の角を右へと曲がる。住宅街へ入り、道の突き当たりに長く上に伸びる階段が見えた。昼間なので人はほとんどいないが、朝の通学時間にはこの道路は生徒たちでいっぱいになる。その階段を登り、門を前にしてジンは言った。
「着いたぞ。お前の通う学校だ」
言って、ジンは壁に刻まれた学校名を指さした。
『聖アンミエル学園』
そこはもう、決して戻りたくない場所だった。