11『牢屋は好きですか?』
「悪魔を消す?」
言葉の真意を測る術もなく、アルタは呆然としたままだった。
「お前の状況は取調室で話した通りだ」
「あの、それ覚えてない」
思わぬ返答にジンの眉間に皺が寄る。
「催眠の副作用か。簡単にだけ説明する。まずお前は悪魔召喚という大罪を犯した。この国の法ではなく、バビオン教会が制定した法だ。その法に則り、お前には罰が与えられる。このままではお前は恐らく一生牢獄の中だ。ただそれでは問題は解決しない。お前がどういう経緯で悪魔を召喚したにせよ。その悪魔を消さないことには災厄は無くならない。ここまでで質問は?」
「何言ってるのか、全然分かりません」
「なら、そうだな、話し方を変えよう。お前はどの媒体から悪魔の存在を知った?」
「図書館の本」
アルタは迷いなく答えた。
「なぜ召喚しようと思った」
「それは……、クラスの奴らがムカつくから」
「仕返しのためか」
「そうだ。あいつらが俺にしたことへの報いを」
「その話に興味はない。話を進める」
ジンの返答を聞いたアルタの額に青筋が走った。
「悪魔に頼ったことがバビオンの定める法に触れたわけだ。本来は人間が踏み入ってはならない領域。それに触れたことがお前の罪となる。たとえ悪魔との契約が終わってもその罪は消えない。償いをしなくてはならない」
「いきなり何だ、何言ってんだよ。お前らには関係ないだろ」
「…………例えばお前が自転車に乗って通行人を撥ねた時でもお前は同じことを言うのか。その時はこの国の法に裁かれる、そうだろう。それと同じだ。バビオン教会の法は全世界に共通する。例外はない。本来は名すら知らぬ間に一生を終えることが殆どだ。お前はある意味で例外だ。だが同時に世界に害を与える根源でもある。悪魔召喚はそれほどに危険なんだ。お前が何を成し遂げたかったにせよ。悪魔にだけは願ってはいけない」
「なら、俺はそのバビオンとかいう連中に殺されんのか」
「殺されはしない。一生投獄されるだけだ」
「そんなの死んだのと同じじゃないか」
「そうか? だが牢屋にいた時のお前は落ち着いているように見えたがな。意外と気に入ってるようにも見えた」
「そんなはず…ない」
言いながら、アルタは下を向いた。自分が本当にそう思っているのか。自信が無い。
「牢屋にいるのが好きならそれはそれで構わない。だが、今のままではお前は牢屋に入ることすら出来ないぞ」
「どうして」
「このままいけばお前は帰って来た悪魔に殺されるからだ」